最終話(♂:♀:不問=3:4:0)

【台本名】

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Fragement.01 流星のおとし子、星の涙 / 最終話

 副題:『流星のおとし子、星の涙』


【作品情報】

 脚本:家楡アオ

 所要時間:75~80分

 人数比率 男性:女性:不問=3:4:0(総勢:7名)


【登場人物】

 コーネリア・エンゲルマン / Cornelia Engelmann

  性別:女、年齢:20代前半、台本表記:コーネリア

  <Overview>

   物語の主人公で、アスクレピオス・ラボラトリー医療部所属の研究員。

   真面目でまっすぐな性格をしており、そして責任感が強い。

   ステラの主治医として、彼女の様子には常に気を配っている。


 ステラ・ディーツ / Stella Dietz

  性別:女、年齢:10歳、台本表記:ステラ

  <Overview>

   物語のもうひとりの主人公で、重症アーク瘴気被曝者として医療部

   の保護下となり、覚醒療法によって特殊能力者となった。

   〝ある実験〟の被害者であり、そのショックによって心を閉ざしている。


 ハイネ・ウィリアムズ / Heine Williams

  性別:男、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ハイネ

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐(ナンバー2)を勤める男性。

   常に厳しい口調で喋り、冷静な様子を崩すことが無い。

   少し天然なところがある。


 ヴェルナー・ストレンジラブ / Werner Strangelove

  性別:男、年齢:40~50代、台本表記:ヴェルナー

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリー医療部部長であり、コーネリアの

   直属の上司。世界的権威のある研究者で、温厚で聡明な人物。

   その本性は——


 ロイド・ヴィーデマン / Lloyd Wiedemann

  性別:男、年齢:20代前半~20代後半、台本表記:ロイド

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部所属の研究員。

   軽薄なお調子者ではあるが面倒見がよく、後輩のコーネリアの事を

   気にかけている。


 ユーティライネン・リーズベリー / Juutilainen Leesbury

  <Data>性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ユティ

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部部長であり、

   ハイネとは大学時代の腐れ縁。

   活発でユーモアあふれる女性で、しばしば常識に囚とらわれない行動をとる。


 ヴィルヘルム・リリエンタール / Wilhelm Lilienthaly

  性別:男、年齢:???、台本表記:ヴィルヘルム

  <Overview>

   世界的な天才科学者であり、仮面で素顔を隠している。

   礼儀正しく温厚な紳士ではあるが、機械的な言動をする。

   違法な実験を行う研究所や企業の撲滅を掲げる『ハイラント諮問委員会』

   の委員長でもある。


 フローレンス・ブラックウェル / Florence Blackwell

  性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:フローレンス

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリー責任者である統括を務める

   女性で、ハイネとは幼馴染の間柄。

   かつては快活な女性ではあったが、現在はリアリストで冷酷で冷徹。


 エヴァンジェリスタ・ファーレンハイト / Evangelista Fahrenheit

  性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:エヴァ

  <Overview>

   医療軍事複合企業『ヘリックス・ライフライン』に所属する

   科学者で、研究部門の総責任者。

   冷静沈着な性格をしており、物事を淡々と話す。


 研究員A……医療部所属の臆病おくびょうな性格をした女性研究員。

       名前は『リズ・ヴァージニア』

 研究員B……医療部所属の真面目な男性研究員。

       名前は『マイケル・グッドウィル』

 研究員C……医療部所属のプライドだけが高い男性研究員。

       名前は『ケント・マックイーン』

 研究員D……医療部所属の陰湿な女性研究員。

       名前は『リン・マーカロイド』

 生物科学部職員……植物庭園を管理している生物科学部の職員。

 警備長……危機管理部の警備隊の隊長。

 警備員……危機管理部の所属するラボの警備員


※詳細なキャラクター設定は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073232406047



【用語説明(簡易版)】

 『アーク鉱石』……莫大ばくだいなエネルギーを持つ不思議な物質で、人体に

          有害となる瘴気しょうきを放つ。

 『アーク瘴気』……アーク鉱石から放たれる瘴気しょうきで、瘴気しょうきさらされた

          ヒトを『被曝者ひばくしゃ』と呼ぶ。

 『アーク・ホルダー』……『アーク瘴気しょうき』に耐性と特殊な能力を持つ存在。

 『アスクレピオス・ラボラトリー』

   ……今回の物語の舞台となる最先端テクノロジー企業兼研究所。

     通称、ALエーエルラボ


※詳細な設定資料は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073231929525


【台本・配役テンプレート】

 台本名;

  アークホルダー・フラグメントレコード

  Episode.01 流星のおとし子、星の涙 / 最終話

  URL https://kakuyomu.jp/works/16818093073232574599

 <配役>

  コーネリア・エンゲルマン:

  ステラ・ディーツ:

  ハイネ・ウィリアムズ:

  ヴェルナー・ストレンジラブ:

  ロイド・ヴィーデマン/ヴィルヘルム・リリエンタール:

  ユーティライネン・リーズベリー:

  フローレンス・ブラックウェル/エヴァンジェリスタ・ファーレンハイト:


※配役検索に役立ててください。

☆:コーネリア、

●:ステラ、研究員A

□:ハイネ

△:ヴェルナー、研究員B、研究員C、N③

◇:ロイド、ヴィルヘルム、N②

▽:ユティ、研究員D、警備長、生物科学部職員

◎:フローレンス、エヴァンジェリスタ、警備員、N①

――――――――――――――――――――――――――――――――――


【0】

<国境の街『ザルツバーグ』 旧市街地エリア / Bar Light・店内>


◇ヴィルヘルム:『雷霆計画トール・プロジェクト』。

        ――これが全ての始まりなんです。

        二人にお尋ねします。

        『らいてい』という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか?

        特にアーク関連の専門家であるリーズベリーさん、いかがです?


▽ユティ:――まさか、メテオール・エクシアのこと?


◇ヴィルヘルム:御名答です。


□ハイネ:何者だ?


▽ユティ:世界を滅ぼす力を持つ7人のアークホルダーのひとりよ。

     でも、確か、行方不明だったはず……


◇ヴィルヘルム:ええっ、メテオールはユグドラシル人でありながらも

        シュレースヴィヒ帝国の軍人でした。

        圧倒的な力を持ち、能力者を迫害はくがいする

        帝国においても相当の地位を有していました。

        しかし、突如とつじょとして行方不明となったのです。


□ハイネ:――亡命ぼうめいか?


◇ヴィルヘルム:理由はわかりませんが、私たちもそう考えています。

        ――最後に彼女の消息が確認されたのは、

        ユグドラシル国内でしたので。


□ハイネ:となると、故郷に戻るために?


◇ヴィルヘルム:はい……そして、今の彼女がどうなっているかは、

        渡した資料を読んで頂けばわかります。


◎N①:ハイネは言われた通り資料に目を通し、あるページを見て驚いた。


□ハイネ:っつ!


▽ユティ:どうしたの?


□ハイネ:――連邦国務省のエンブレムだ。


▽ユティ:えっ!? 政府が関わっているの?!


◇ヴィルヘルム:それが、委員会の調査が難航している大きな理由です。

        今まで私たちが戦ってきた組織は、あくまでも多数の中のひとつ。

        しかし、今回は国務省――謂わば、国家です。

        『スターロンバー研究所』、『雷霆計画トール・プロジェクト』、

        そしてアスクレピオス・ラボラトリーにおける

        ステラ・ディーツの治療は政府が関与している

        可能性が高いのです。


□ハイネ:ゴシップ誌に書かれるような陰謀論いんぼうろんだな。


◇ヴィルヘルム:そう言われてしまってもしょうがないでしょう。

        ですが、荒唐無稽こうとうむけいな話にしておくことで

        真相を隠すことが出来ます。

        ――それは皆さんもご存じでしょう。


▽ユティ:確かに。

     でも、それじゃあ国務省は一体どういう目的で……


◇ヴィルヘルム:質問――リーズベリーさん。

        ステラ・ディーツの能力はどういったものですか?


▽ユティ:えーっと、確か雷を操る能力だったはず。

     ……まさか、そんなのって!

     あなたは、ステラが『雷霆らいてい』の力を継承しているって言いたいの!?


◇ヴィルヘルム:――はい。

        『雷霆』らいてい』の力を手に入れ、それを戦力として取り入れる。

        これが計画における目的の本幹です。


□ハイネ:ユグドラシルだけじゃなく、大陸全土は些細ささいなことで

     戦争に発展しかねない程、常に不安定な状態にさらされている。

     ――『雷霆計画トール・プロジェクト』は、国防における抑止力を得ることが目的か。


◇ヴィルヘルム:その通りです。


▽ユティ:プロフェッサー・リリエンタール、ひとつ、質問いいかしら?


◇ヴィルヘルム:ええ、どうぞ。


▽ユティ:何故、メテオール・エクシアは帝国から

     逃げ出すような真似まねをしたの?

     能力者である彼女にとって自殺行為だと思うし、

     そもそもユグドラシルは同族の裏切りに対して厳しいはずだわ。


◇ヴィルヘルム:私が提示できる回答は、推測の域を出ません。

        彼女はユグドラシルの有力部族であるコシュカ族の一員です。

        リーズベリーさんの言う通り、本来であれば

        この国に戻ることは正しい行動とは言えません。

        ……ただ、それでも彼女には故郷に戻る理由があった。

        そう考えると納得は出来ます。


▽ユティ:でも、そうなるとステラに能力が継承されているのなら、

     誰が彼女を殺したと言うの?!

     今日まで国内で軍隊が動いた様子はないし、

     極秘作戦だったとしても『雷霆らいてい』の力を考えたら、

     一切の情報がれないというのも考えにくいわ!


◇ヴィルヘルム:――はい、そこが一番のかなめです。

        能力の継承は、前所有者の死が必須しっす

        そして、それが〝ある事実〟に結び付きます。


□ハイネ:〝ある事実〟?


◇ヴィルヘルム:思い出してみてください。

        スターロンバー研究所で行われていた研究は何でしたか?


◎N①:ハイネは、ユーティライネンと共に見た映像を思い出す。

    多くの子供たちが無慈悲な人体実験によって泣き叫び、

    やがて次々と死んでいく。

    身勝手に命が簡単に捨てられる、吐き気をもよおす凄惨せいさんな光景。

    『多くの子供たち』、『人体実験』……そして『能力の継承』。

    ――ハイネの脳裏に〝ある結論〟が浮かんだ。


□ハイネ:あり得ない、そんなことは……あり得ないはずだ!!


▽ユティ:ど、どうしたの?


◇ヴィルヘルム:――ウィリアムズさんは、気付かれたようですね。


▽ユティ:ちょっと、何がわかったの?


□ハイネ:前に一緒見た映像を覚えているか?


▽ユティ:え、ええっ……


□ハイネ:映っていた被験者の子供たちは種族は異なるが、

     年齢は近かった。

     だが、どうしても〝ある違和感〟を拭えなかったんだ。


▽ユティ:違和感?


□ハイネ:――子供たちの顔が似ていたんだ。

     ひとり、ふたりだけじゃなく……全員だ。

     それに、全員の瞳がオッドアイだった。

     右は青、左は赤……そして、ステラも同じ眼をしているんだ。


▽ユティ:えっ、それって……


□ハイネ:プロフェッサー・リリエンタール、あんたはこう言いたいんだな?

     ――ステラ・ディーツは、メテオール・エクシアの複製人間クローンだ、と。



●ステラ:アークホルダー・フラグメントレコード


□ハイネ:エピソード1、『流星りゅうせいの落とし子、ほしなみだ


☆コーネリア:最終話



【Ⅰ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部>


◎N①:数日後。


△研究員B:体調の方は、大丈夫かい?


●ステラ:うん、だいじょうぶ。


☆コーネリア:ステラ!


●ステラ:ドクターだ!


△研究員B:お疲れ様です、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:ええっ、お疲れ様……って、どうしてステラと一緒に?


△研究員B:えっとですね……


☆コーネリア:お昼ご飯の時間になってもステラの姿が見えなかったから。

       ステラ、大丈夫? 顔色が悪いけど……


△研究員B:実は……ドクター・マックイーンが部長に

      ステラの能力耐久テストを進言しまして……

      そのテストの帰りなんです。


☆コーネリア:えっ!?


△研究員B:勿論、私達やアーク・サイエンス部の皆さんは

      反対したんですけど、部長がOKを出してしまって……


☆コーネリア:アイツ……!


△研究員B:ああっ、待ってください!

      テスト途中で、ヴィーデマンさんがアーク・サイエンス部の

      副部長を連れて猛抗議して頂いたおかげで中断出来たんです。

      今はステラを休ませてあげないと……


☆コーネリア:そう、だね……ごめん。


●ステラ:ステラはだいじょうぶだよ、ドクター!

     ……ちょっと、つかれちゃったけどね。


☆コーネリアM:やっぱり、部長は……


△研究員B:どうかしまし――


●ステラ:あっ! おじさん!!


☆コーネリア:…………ウィリアム統括補佐とうかつほさ


◎N①:ハイネを見つけると、車椅子に座っていたステラが

    突然立ち上がり、急いで彼の元に駆け寄り抱きついた。

    一瞬、戸惑いの表情を見せたが、ハイネは

    気を遣わせないように優しい笑みを浮かべる。


□ハイネ:ステラ、久しぶりだな。


△研究員B:よかったですね、統括補佐とうかつほさが戻ってきたのなら

      マックイーンたちを——


☆コーネリア:…………。


△研究員B:ドクター・エンゲルマン、どうしましたか?


☆コーネリア:いいえ……なんでもない。


□ハイネ:久しぶりだな。


☆コーネリア:……お久しぶりです。


□ハイネ:ここ数日の調子はどうだ?


☆コーネリア:はい……粛々しゅくしゅくと計画通りの治療を進めています。


□ハイネ:その……ドクター・エンゲルマン、何かあったのか?


☆コーネリア:何でもありません。


□ハイネ:……そうか。

     ステラは、どうしていた?


●ステラ:えっと……治療はたいへんだけど、げんきにしていたよ!

     お薬をいれると痛いのはあるけど、頑張ってガマンしたよ!

     ……ちょっと、かみなりを出すときもあったけど。

     でも、頑張って治療をうけているよ!


□ハイネ:なら、頑張っているステラにご褒美をあげないとな。


●ステラ:わぁ! ラムネのキャンディーだ!!


□ハイネ:食べても問題ないか、ドクター・エンゲルマン?


☆コーネリア:え、ええっ、問題ないです……


●ステラ:おじさんは、このキャンディーはたべたことがあるの?


□ハイネ:いや、そもそも普段からお菓子を食べることがないからな。


●ステラ:それじゃあ——


◎N①:ステラは袋から飴玉を取り出し、それを歯で二つに割った。

    ひとつをハイネに渡す。


●ステラ:はんぶんこ!


□ハイネ:ハハッ、そんな風に飴をもらったのは初めてだ。


◎N①:ステラからもらった飴玉を口に入れると、ほんのりとした甘みが

    口に広がり、少し遅れて炭酸の刺激がやってくる。


●ステラ:おいしい?


□ハイネ:そうだな、昔を思い出す味だ。


●ステラ:むかし?


□ハイネ:私が、ステラと同じ歳の時だ。


●ステラ:おじさんにもそんな時があったんだね!

     ……ねぇ、あのね。


□ハイネ:どうした?


●ステラ:最近はきてくれなかったけど、これからはステラのところにきてくれる?


□ハイネ:……すまない、またしばらく外で仕事をしなければいけないんだ。


●ステラ:そっか……お外か、いいなぁ……

     ステラ、ずっとラボにいて、お外に全然出ていないや……


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン、ステラを外出に連れて行くのは可能だろうか?


☆コーネリア:えっと、それは——


△研究員B:流石に外出は厳しいですが、生物科学部の

      植物庭園は如何でしょうか?

      あそこは全面ガラス張りですから、

      外も見ることが出来ますし、研究所の敷地しきち内ですから。

      それならば問題ないですよね、ドクター・エンゲルマン?


☆コーネリア:そ、そうね! うん、問題ないと思う!


□ハイネ:それでいいか?


●ステラ:うん!



【Ⅱ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 生物科学部 / 植物庭園>


◎N①:生物科学部が管理する植物庭園。

    全面ガラス張りの庭園で、そこには世界中の様々な植物が植えられていた。


●ステラ:すごーい! いろんなお花が沢山ある!!


◎N①:無邪気に駆け回るステラの姿に、コーネリアは

    優しい母親のような表情で見守っていた。


☆コーネリア:ごめんね、忙しいのに無理を言って。


▽生物科学部職員:気にしないでください、ちょうど暇でしたし。

         あの子が……うわさのステラ・ディーツですか。


☆コーネリア:うわさ


▽生物科学部職員:ストレンジラブ部長の肝煎きもいりの

         治療プロジェクトの実験体ですよね?

         プロジェクトが成功すれば、瘴気しょうき汚染の新たな治療が

         開発されるんじゃないかってラボ内で話題ですよ!


☆コーネリア:そう……なんだ……


●ステラ:あっ! あの花、きれい!!


☆コーネリア:ステラ、そんなに急いで走らないで。

       まだ、身体に疲れが——


●ステラ:ドクター! 見て!!

     このお花、きれいだよー!!


☆コーネリア:聞いてないや……


▽生物科学部職員:あら、それはフリージアね。


●ステラ:これが、このお花の名前なの?


▽生物科学部職員:そうよ、綺麗でしょ?


●ステラ:うん……あのね、このお花をひとつもらってもいい?


▽生物科学部職員:ええ、いいわよ。


●ステラ:ありがとう! ドクター、頭につけてー!!


☆コーネリア:はいはい。


◎N①:一輪のフリージアがステラの頭につけられる。

    黄色の花びらが、存在感を放つ。


☆コーネリア:うん、ステラにぴったりだね。


●ステラ:おじさーん!


□ハイネ:んっ?


●ステラ:こっち、こっち!!


□ハイネ:どうした?


●ステラ:おじさんもつけてみて!


□ハイネ:えっ……いや、私はいい……


●ステラ:そんなこと言わないで、つけてよー!


□ハイネ:ス、ステラ……


●ステラ:ほら! おじさんにもぴったり!!

     そうだよね、ドクター!


☆コーネリア:うん……そうだね。


●ステラ:あっちも見てきていい?


☆コーネリア:いいけど、あまり離れないように――って、走るのもダメ!


▽生物科学部職員:私が近くで見ておきますよ。


☆コーネリア:うん、ありがとう。お願いね。


◎N①:そして、コーネリアとハイネの二人きりとなる。

    ハイネは困惑しながらも、どこか嬉しそうな顔で

    頭につけられた黄色のフリージアの花を触れていた。


☆コーネリア:あ、あの……ウィリアムズ統括補佐とうかつほさ


□ハイネ:どうした?


☆コーネリア:あなたに……聞きたいことがあるんです。



【Ⅲ】


□ハイネ:――ここなら、誰かに聞かれることはないだろう。


☆コーネリア:……ありがとうございます。


□ハイネ:それで、私に聞きたい事とは何だろうか?


☆コーネリア:この前の治療の時、こうおっしゃっていましたよね……?

       ――「スターロンバー研究所の爆破事故は、ステラの能力が

          暴走したことで起きた」、と。


□ハイネ:……すまないが、詳細しょうさいについてはまだ話せない。


☆コーネリア:それじゃあ!

       っつ……事故の報道がされていないのは、その為なのでしょうか?


□ハイネ:そうだ……ドクター・エンゲルマン、聡明そうめいな君の事だ。

     何かしら情報を掴んでいるのかもしれない。

     だが、内密にしておいてくれ。

     この件は様々な事情が複雑に絡み合っていて、

     深く関わらないほうがいい。


☆コーネリア:それは——ラボを守るために、ですか?


□ハイネ:ラボだけじゃない……ドクター・エンゲルマン、君自身のためも、だ。


☆コーネリア:そう、ですか……『覚醒療法かくせいりょうほう』は最終フェーズに

       入っていますが、あと一歩のところで停滞をしています。

       部長は状況打破のために、ハイリスク・ドラッグの使用を

       検討しています。

       ――ですが、これが更にあの子が苦痛を抱えてしまう結果に

       なるような気がするんです。


□ハイネ:…………。


☆コーネリア:――私、『覚醒療法かくせいりょうほう』を中止にしたいんです。


□ハイネ:部長には相談したのか?


☆コーネリア:はい……ですが、ご納得は頂けませんでした。


□ハイネ:そうか……ブラックウェル統括とうかつも中止にしないと明言していた。

     『覚醒療法かくせいりょうほう』に全く問題がないという訳ではないが、

     ステラの命が救われたのは事実だ。

     ならば、治療を継続することは十分な意義があるとも言える。


☆コーネリア:…………。


□ハイネ:だが、「安全性を保障する」ことを原則とした上で、

     治療継続を三者で合意をした。


☆コーネリア:その合意には、ステラの処分も含んでいるんですか?


□ハイネ:ストレンジラブが君に何を言ったのかはわからないが……

     統括補佐とうかつほさとしてラボを守るのは責務だ。

     しかし、それはあくまでも最悪の事態を想定した話だ。


☆コーネリア:なら、本当にその事態が起きてしまったら……

       ステラを、彼女を、誰が守るんですか?

       脅威きょうい対象として、彼女を殺すんですか?


◎N①:あまりにも彼女の声色が冷たく、

    自分に敵意があることをわからせる鋭さがあった。

    ハイネは予想外の反応に一瞬戸惑うが、

    悟られないようにすぐさま切り替える。


□ハイネ:ドクター・エンゲルマン、君の懸念も理解できる。

     だが、我々はそれを前提に考えるべきではない。

     彼女を傷つけたくないし、傷ついても欲しくない、

     だがらこそ慎重に物事を進め、最後まで全力を尽くすしかない。


☆コーネリアM:あぁ……やっぱり、このヒトも——


◎N①:コーネリアの中で何かが崩れる音がした。

    ――心の底から信頼できる存在が、実際は

    まやかしに過ぎなかった、と。


☆コーネリア:――そうですね、私も全力を尽くします。


◎N①:先程の暗い影を落としたコーネリアの表情は、

    穏やかなモノへと変わっていた。

    ハイネは安堵あんどした気持ちになる。

    ――それが勘違いであることに気付くことなく。


●ステラ:ドクター! みてみてー!!


◎N①:生物科学部の職員と手をつないで、コーネリアたちの元に

    色とりどりの花をたずさえたステラが戻ってきた。


☆コーネリア:そんなに沢山とってきたの?


●ステラ:うん! ねえねえ、部屋に飾ってもいい?


☆コーネリア:うん、いいよ。

       後で花瓶を持っていくね。


●ステラ:やったー!


☆コーネリア:それじゃあ、そろそろ戻ろっか。


●ステラ:えっ……


☆コーネリア:そんな悲しそうな顔をしないで。

       また、ここに連れてくるから。


●ステラ:ほんと!


☆コーネリア:うん、約束する。


●ステラ:うん、わかった!

     それじゃあ、おじさん、バイバイ!

     お姉さんもバイバイ! たくさんのお花、ありがとう!


☆コーネリア:それじゃあ失礼します。


☆コーネリアM:――ステラ、あなたは私が全力で守ってみせる!

        例え、悪魔になろうとも……絶対に!



【Ⅳ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部>


●研究員A:ドクター、おかえりなさい!


☆コーネリア:…………。


△研究員B:何か思いつめた顔をしていますが、どうしたんですか?


☆コーネリア:リズ、マイケル――ふたりにお願いがあるの。


●研究員A:えっ、私たちにですか?


☆コーネリア:うん……ステラをラボから逃がしてあげたいの。


●研究員A / △研究員B:!!


☆コーネリア:無茶なお願いなのはわかっているし、

       下手したらふたりにも不利益を被ってしまう。

       ……でも、このままじゃステラが危ない。

       何とかしてあげたいけど、私ひとりだけじゃ

       どうにもできなくて……もちろん、無理にとは言わない。


△研究員B:――早速、何から始めましょうか?


☆コーネリア:えっ?


●研究員A:そうですよね、まずは脱出方法を考えないと!


☆コーネリア:二人とも……本当にいいの……?


△研究員B:私もずっと疑問に思っていました。

      今のステラを見ていて、果たして自分たちが

      やっていることが正しいのかどうか……

      それに、ドクター・マックイーンが部長から

      何を吹き込まれたのかわからないですけど……

      正気の沙汰さたじゃないです。


●研究員A:正直、あんなことは治療とは言えません! 人体実験です!!


△研究員B:それについては私も同意です。

      これでは彼女を救うことが出来ない。


●研究員A:ドクター! 私達、全力で協力します!!


☆コーネリア:――ありがとう、本当に……ありがとう!



(間)



●研究員A:――以前でしたら問題なかったと思いますが、

      今の危機管理部のセキュリティは厳重です。

      特にウィリアムズ統括補佐とうかつほさが開発した

      警備防衛システムが特に厄介です。


△研究員B:確かにそうだな……何か良い方法はありますか?


☆コーネリア:――次回の最終フェーズでの治療に投薬する薬剤を変更する。

       もちろん、部長たちにバレないようにね。


△研究員B:なんの薬剤を使用するんですか?


☆コーネリア:ネムリヒガンバナの抽出液から採取した毒素を使用する。


●研究員A:えっ!? それってかなり調剤が難しい薬じゃ……

      それに簡単に手に入る代物じゃないですよ!


☆コーネリア:本当はダメなんだけど、ステラと一緒に植物庭園に行ったときに。


△研究員B:えっ!? あの時にとってきたんですか!?


☆コーネリア:ばれないようにカモフラージュしたから大丈夫。


●研究員A:わあ~、ドクターって意外とやるんですね。


☆コーネリア:こ、今回はしょうがないじゃない。

       でも、問題なのが抽出液の精製方法がわからないのよね。


△研究員B:それなら、私に任せてください。

      生物科学部にいる同期に精製方法の資料を

      提供するようお願いしておきます。


☆コーネリア:大丈夫なの?


△研究員B:大丈夫です、その同期は自分に

      賭けポーカーの借金をしていますから。

      言う事を聞いてくれますよ。


●研究員A:マイケル、真面目な優等生な感じを出しているのに

      賭けポーカーとかやっているんだ……


☆コーネリア:あなたも私と同じようにやってるじゃない……


△研究員B:わ、私だって気分転換が必要なんですよ!

      それよりも現物を手に入れたしても安全性は大丈夫なんですか?


☆コーネリア:出来れば、薬効に関するデータも手に入れたいわね。


●研究員A:それなら、私に任せてください!

      統括制御部のデータベース・センターに

      おやつ友達がいるのでお願いしてみます!


☆コーネリア:本当に! それはとても助かるわ!


△研究員B:それよりも、おやつ友達って……子供じゃないんだから……


●研究員A:べ、別にいいじゃないですか!

      頭を使うのに、糖分の摂取は必要不可欠なんですよ!!


☆コーネリア:フフッ、確かにそうね。


●研究員A:ほら、ドクターも言ってますよ!


△研究員B:はいはい、わかりました。

      ――それよりも、ドクター、それをどう利用して脱出させるんですか?


☆コーネリア:ネムリヒガンバナの毒素は、投薬量次第では

       一時的に仮死状態にすることが出来ると報告されている。

       現に生物科学部も効果を調べる為に動物実験をして、

       ヒトにも同等の効果を示すことを報告しているわ。

       ――だから、ステラを仮死状態にして「死体」として

       ラボから脱出させる。


●研究員A:なるほど、それならセキュリティをくぐれることができ――


△研究員B:いや、ひとつ問題があります。


●研究員A:問題?


☆コーネリア:そうね……死体安置所の管理部署は統括直属だから

       私達のような一般社員じゃ手出しが出来ないわ。


△研究員B:それもそうですが、ステラは特殊な実験の被験者です。

      もし死亡してしまった場合、部長権限で緊急解剖を

      行うかもしれません。


●研究員A:下手すると、ステラが本当の死体になっちゃうってことですか!?

      それはマズイですよ!!


☆コーネリア:どうにか、接触だけでも出来ないかしら……


◎N①:肝心な部分について策が思いつかないコーネリアたち。

    あれこれと試行錯誤するも、良い案が出てこない。

    次第に彼女たちの中に焦りが出てくる。


△研究員B:やっぱり、どうしても出来ないのか……


●研究員A:どうしましょう……ドクター……


☆コーネリアM:くっ、肝心なところで詰めが甘かった!

        どうしたらいい? こうなったら強硬手段に出るしかない?

        いや、そんなのは無謀すぎる……どうすればいい?

        このままじゃ……私は、あの時から何も――


◇ロイド:――――どうやら、お困りの様だな。


☆コーネリア:えっ……ロイド先輩……?


◇ロイド:コーネリア、俺は悲しいぞ?


☆コーネリア:な、なにがですか?


◇ロイド:とぼけるなよ、ステラをラボから脱出させるんだろ。

     ……まさか、ここまで悪いヤツになっちまうとはな。


☆コーネリア:っつ!


◇ロイド:可愛い後輩が悪だくみを考えているなら、それを

     停めるのが先輩の役目ってというヤツだ。


☆コーネリア:――邪魔しないでください。


◇ロイド:んっ?


☆コーネリア:邪魔をするのなら、どうぞご勝手に!

       ですが、例え先輩でも私は容赦ようしゃしませんよ!!


◇ロイド:――ハハっ。


☆コーネリア:な、なんですか?


◇ロイド:冗談だよ。


☆コーネリア:えっ?


◇ロイド:安心しろって! 別にお前の邪魔をしに来たわけじゃない。

     ――俺も一枚嚙ませてくれ。


●研究員A:それって!


△研究員B:ヴィーデマンさんも手伝っていただけると言う事ですか!!


◇ロイド:そうだ、安置所を突破する方法なら俺に任せろ。


△研究員B:でも、どうやって?


◇ロイド:じゃーん! これを見たまえ、諸君!


●研究員A:えっ? 写真ですか?


◇ロイド:あそこの連中は死体の違法売買などをしているからな。

     この写真はその証拠ってわけ。


●研究員A:こんなことをしていたんだ……


◇ロイド:解剖までの時間稼ぎに、死体の入れ替え、どんなことでも出来るぜ?

     この写真が知られたら、奴らの人生も終わりだからな。


☆コーネリア:……どうして。


◇ロイド:へっ?


☆コーネリア:……どうして、そこまでしてくれるんですか?


◇ロイド:簡単な事さ、ステラを苦しめる今の治療が

     正しいとは思わないからだ。

     お前たちと同じ考えというわけさ。


☆コーネリア:先輩……。


◇ロイド:それに、ストレンジラブ部長の方針についても色々と

     おかしいところがある。

     現に、アーク・サイエンス部内でも反発があって、

     治療プロジェクト自体の見直しを求める声が出ている。

     ……さっきは悪かったな、お前を試すためにカマをかけた。


☆コーネリア:いいえ……大丈夫です。


◇ロイド:けどよ、ちゃんと確認をさせてもらうぜ?

     ――コーネリア・エンゲルマン、お前は……

     最後までやり遂げる覚悟はあるか?

     失敗は許されない、これはもうお前だけの問題じゃないんだ。


☆コーネリア:はい。


◇ロイド:だからこそ、もう一度言う。

     最後までやり遂げる覚悟はあるか?

 

◎N①:普段とは違う、真剣なロイドにコーネリアは戸惑うも

    反対にそれは彼がこの計画に対して本気であることにも気付いた。

    そして、彼女の返答は——


☆コーネリア:――もちろんです、必ずやり遂げてみせます!



【Ⅴ】


●研究員A:――その話よりもドクター、あのヒトには声をかけないのですか?


☆コーネリア:あのヒト?


●研究員A:ウィリアムズ統括補佐とうかつほさのことですよ。

      あのヒトなら、ドクターのことを理解して

      手伝って頂けるんじゃないかなーって


☆コーネリア:――ダメよ。


△研究員B:どうしてですか?


☆コーネリア:統括補佐とうかつほさは……彼は、この件に関わっている可能性があるの。


●研究員A:そ、そんな……


◇ロイド:はいはい、とりあえず俺たちだけでやるしかない。

     なあ、コーネリア、薬のほうはどうやって入れるんだ?


●研究員A:ネムリヒガンバナ毒素はシアン化物の一種ですから、

      確かに機械のセーフティが作動して投薬されないかも。


△研究員B:何か策はありますか?


☆コーネリア:それについては大丈夫、ある方法を考えているの。

       ちょっと手間がかかるけど、一番安全な方法だから。


◇ロイド:その方法っていうのは具体的になんだ?


☆コーネリア:それは——



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部 / ステラの病室>


◇ロイド:見回りが来るのは数分後だ、あんまり時間がないからな。


◎N①:イヤホン型の携帯デバイスからロイドの声が聞こえてくる。

    時刻は夜9時。

    消灯時間であったが、ステラの部屋は明かりがついていた。

    

☆コーネリア:わかってます。


●ステラ:――あっ! ドクター!


☆コーネリア:しっーっ、もう消灯時間でしょ。

       起きているのがバレちゃうよ。


●ステラ:あっ、そういえば……どうしたの、ドクター?

     おじさんは? いっしょじゃないの?


☆コーネリア:ウィリアムズ統括補佐は、しばらくは来られないって

       言ってたでしょ?


●ステラ:そっか……


☆コーネリア:だから、その代わりと言うのは変だけど、

       キャンディーを持ってきたの。

       ほら、あなたの大好きなラムネ味。


●ステラ:いいの?


☆コーネリア:いいのよ、糖分を少しでもとったほうがいいわ。

       嫌な気持ちが少しでも和らいで欲しいから。


●ステラ:うん! ありがとう!!


◇ロイド:コーネリア! 巡回じゅんかいの奴らが来た!


☆コーネリア:わかりました。


●ステラ:しゅわしゅわでおいしい~!


☆コーネリア:そう、よかった……じゃあ、行くね。


●ステラ:うん……ねえ、ドクター。


☆コーネリア:んっ? どうしたの?


●ステラ:おじさんに伝えておいて、こんどまた絵本を読んでねって!


☆コーネリア:うん……わかった。

       おやすみ、ステラ。


◎N①:コーネリアが部屋から出ると、ステラの部屋が暗くなった。

    巡回の警備員が来る前に、彼女たちはその場から急いで去った。


☆コーネリアM:これで手筈が整った……!


◎N①:明日はいよいよ運命の、作戦を決行する日。

    だが――この選択が大きな過ちになるとは、

    その時は誰も知る由は無かった。



【Ⅵ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 統括制御部 / 統括補佐執務室>


◎N①:統括補佐執務室。

    ハイネはヴィルヘルムから受け取った資料に目を通していた。

    そして、酒場で話していたことを思い出す。


(回想シーン:開始)


<国境の街『ヒューリンデン』 / Bar Light>


□ハイネ:――ステラ・ディーツは、メテオール・エクシアの複製人間クローンだ、と。


▽ユティ:えっ、何を言って——


□ハイネ:能力の継承には遺伝的要因が関わっているのは、お前も知っている筈だ。

     親が持つ能力を子に受け継ぐことはなんら不思議な話じゃない。


▽ユティ:ちょっと待ってよ!

     だとしても、複製人間クローンの実用化なんて出来るはずが無いわ!


□ハイネ:だが、私たちが知る情報や事実がそれを物語っている。


▽ユティ:そ、それは……


◇ヴィルヘルム:動揺される気持ちは理解できます。

        ですが、ここで視界を狭めてはいけません。

        ――ウィリアムズさんの言う通り、ステラ・ディーツは

        メテオール・エクシアの複製人間クローンです。

        ……多数のうちの1人ですが。


□ハイネ:多数の内の1人……なら、研究所で死んでいた

     子供たちも同じ複製人間クローンなのか。


▽ユティ:本当に複製人間クローンが存在するっていうの……


◇ヴィルヘルム:リーズベリーさん、この世界ではもはや何が

        起こってもおかしくないのです。

        宇宙から来たと言われるアーク鉱石こうせき

        この惑星に降ってきた時から、今までの人類や世界の

        在りさまが根本的にくつがえってしまった。

        今までの常識が通用しなくなる事態が突然現れるのも

        おかしいことじゃないんです。


□ハイネ:……この計画は、国務省からの依頼を

     NSインダストリーが受けた形になるのか?


◇ヴィルヘルム:否定――当初、我々も同じように考えていましたが、

        計画の概要を知るにつれて、NSほどの企業が達成出来る

        とは到底思えないモノなのです。

        それで、本当の受注先が裏にいるのだと気付きました。


□ハイネ:そして、それがアスクレピオス・ラボラトリー

     だと言いたいんだな?


◇ヴィルヘルム:はい、アスクレピオス・ラボラトリーは、

        ユグドラシルの最高の研究機関と言っても

        過言ではないでしょう。

        だからこそ、最初は半信半疑でした。

        我々が見誤ったのではないか、と。

        ですが……ステラ・ディーツに行われた

        『覚醒療法かくせいりょうほう』を知り、確信へと変わりました。

        ――ハイネさん、今開いているところから

        2ページをめくってください。


▽ユティ:えっ!? これって、ウチの実験企画書じゃない……!


□ハイネ:――統括とうかつの署名がある。


◇ヴィルヘルム:アスクレピオス・ラボラトリーは、国務省の依頼を受け、

        そして自らの手を汚すのを避ける方法で計画を進めました。

        NSインダストリーを受け皿として選び、架空の支援者を

        作りだすことで株式に手を加え、制御下に置くことが出来ました。


□ハイネ:そうすることで、外部からの眼を掻い潜った訳か。


◇ヴィルヘルム:また、パートナー企業の援助として

        いくつかの実験物品の購入を行っています。

        それについては、ウィリアムズさん、あなたの署名があります。


□ハイネ:だから、私達を疑った。

     確かに理に叶っている。


◇ヴィルヘルム:書類については理解されていましたか?


□ハイネ:……統括の署名があったことから、事前承認済み案件

     として内容を精査していなかったようだ。


▽ユティ:アンタ、統括に対してだけは死神様にはなれないわけ?!


□ハイネ:…………。


▽ユティ:黙っているのが、更にムカつくー!!


◇ヴィルヘルム:だからこそ、おかしいと思ったのです。

        アナタほどのヒトが何もこの事を知らないのは、

        本来あり得ないのですから。


□ハイネ:――フローレンスは自分の研究に没頭ぼっとうし、

     ラボを自由にさせすぎていた。

     その影響で各部門において、自分勝手な行動をする者が

     徐々に現れてきた。


◇ヴィルヘルム:なるほど……内輪もめのうわさも本当でしたか。


□ハイネ:正直、昔とは違って一枚岩の組織ではなくなったのは確かだ。

     人が集まれば集まるほど、その分、様々な思惑も重なるからな。


◇ヴィルヘルム:質問――ウィリアムズさん、あなたにとって危険人物は?


□ハイネ:代表的なのは行動調査部部長のフェルディナンド・グリフィンに、

     そして——医療部部長のヴェルナー・ストレンジラブだ。


◇ヴィルヘルム:――なるほど、その御二人ですか。


□ハイネ:私からも質問だ。

     今回の会談は、ロイド・ヴィーデマンによるものが

     大きいと言ったが、お前の魂胆こんたんはそうではないだろう。


◇ヴィルヘルム:と、いうと?


□ハイネ:ここまでの情報収集能力だ。

     ――私に調査をさせるように目をつけていたな?


◇ヴィルヘルム:…………。


□ハイネ:これは私への……いや、我々への警告だな? 違うか?

     ハイラント諮問しもん委員会は、いくつもの人倫に反した

     研究や組織を潰してきた。

     スターロンバー研究所の爆破事故は、ステラの能力が

     暴走したことで起きたが、そう仕向けた可能性も否定は出来ない。

     ――そして、次はラボがお前たちの標的か?


◇ヴィルヘルム:忠告――委員会がどう行動するかは、

        貴方たちの行動次第と返答します。


□ハイネ:これは我が社の問題であり、部外者が介入していいものではない。

     ――この問題については、私が解決する。

     そちらの指図を受ける筋合いはない。


◇ヴィルヘルム:……それは、我々に対する警告、と捉えてもいいでしょうか?


□ハイネ:そうだ。

     ラボが罰を受けるべきだとしても、そちらの手を

     わずらわせる必要がないということだ。

     ――情報提供に感謝する。


◇ヴィルヘルム:……貴方は一緒に行かなくてよかったんですか?

        リーズベリーさん。


▽ユティ:アイツがここまで怒ったらどうしようもないのよ。

     今はひとりにしてあげたほうがいい。

     ホント、昔から変わらないんだから。


◇ヴィルヘルム:――これについては答えなくても結構です。

        今回のアスクレピオス・ラボラトリーの内部文書については、

        ロイドが入手してきたモノですが、いくつかについては彼単独で

        入手出来たとは思えないモノがあります。


▽ユティ:…………。


◇ヴィルヘルム:どう考えても、内部に——


▽ユティ:独白。


◇ヴィルヘルム:!


▽ユティ:アンタの真似よ、ロイドのお兄さん。

     まあ……信じられない事を知って、それを

     どうしたらいいのかわからなかった人間が

     いるのでしょうね。

     それで、他の誰かに託したっかんじゃないかしら?

     ……随分すいぶん卑怯ひきょうな事をするのね。


◇ヴィルヘルム:リーズベリーさん、あなたは——


▽ユティ:(※被せる様に)私も失礼するわ、紅茶、御馳走様。



(回想シーン:終了)


□ハイネ:――ラボが罰を受けるべき、か。

     んっ……眠気が……


◎N①:連日の調査でまともに休息をとっていなかった彼の身体が限界を迎える。

    やがて、意識は奥底へと沈んでいった。



【Ⅷ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部 / 中央処置室>


◎N①:覚醒療法かくせいりょうほう最終フェーズの日。

    佳境かきょうを迎えるため、中央処置室内は

    慌ただしい空気がただよっていた。


△研究員C:全員、配置につけ!

      今日が覚醒療法の最終フェーズだ!!


☆コーネリア:――部長。


△ヴェルナー:来たのか、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:はい。


△ヴェルナー:是非とも前回の返答を聞かせてもらおうか。


☆コーネリア:……私には選択肢はありません。

       そうですよね?


△ヴェルナー:ふむ。


☆コーネリア:それに。


△ヴェルナー:それに?


☆コーネリア:もう、ここまでやってきたんです。

       この実験に携わった身として、科学者として、

       この時を見逃したくなくて。


△ヴェルナー:……そうだな、それじゃあ席についてくれ。


☆コーネリア:はい。


◎N①:そして、コーネリアは席に座る。

    チラリと仕切りガラスの向こう側を見た。

    そこには拘束具を付けられ、横になっているステラの姿。

    治療を重ねるうちにステラも慣れてきており、

    以前の様に抵抗して暴れることはなくなった。


△ヴェルナー:――それでは覚醒療法かくせいりょうほうの最終フェーズに入る。

       ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:投薬、開始します。


●ステラ:――っつ!

     うっ! あああああああああ!!


△ヴェルナー:何が起きた!?

       マーカロイド、バイタルは?


▽研究員D:せ、正常です! 問題ありません!!


●ステラ:ぐうっ……ああ、あああああああああ!


◇ロイド:ステラ・ディーツの雷の出力が上昇傾向!

     施設損壊危険域に突入!

     ステラの周囲に絶縁体シールドを展開します!


▽研究員D:何が起きたっていうのよ……


△研究員C:くっ……!


☆コーネリアM:予測通りなら、あともう少し。


▽研究員D:――えっ?


△研究員C:どうした、マーカロイド。


▽研究員D:実験体のバイタルが大幅に低下している!


◎N①:やがてステラは意識を失い、生命の危険を知らせる

    警告音が室内に鳴り響いた。


☆コーネリアM / ◇ロイド M:――来た……!


△ヴェルナー:まずい! 一体、何故だ!?


▽研究員D:投薬量は問題ありません!


☆コーネリア:迅速じんそく検査で臓器損傷ぞうきそんしょうを疑う所見は認められません。


●研究員A:アナフィラキシーや悪性症候群あくせいしょうこうぐんも否定的です!


△研究員C:くそ! 一体、何がどうなってる!!


◇ロイド:おい! お前、主治医だろ!!

     このままじゃ、ステラが死んじまう!!


△研究員C:わかっているんだよ、そんなこと!

      おい! アドレナリンを入れろ!!


▽研究員D:だめ! 全然効いていない!!

      うそっ……心肺停止?


△研究員C:こんなところで俺のキャリアに傷をつける訳

      にはいかないんだよ!!


●研究員A:ドクター・マックイーン、なにを!


△研究員C:蘇生処置をするんだよ! 実験中止だ!!


☆コーネリアM:――次に進めないと。


◎N①:コーネリアの計画通りに事は進む。

    彼女の狙いは、特別配合して創られたネムリヒガンバナの毒素が

    入ったキャンディーをステラに食べさせ、一時的に彼女を仮死状態

    にさせることだった。

    順調に物事が進めば、彼女を救い出すことが出来る。

    そう、信じていた――


◇ロイド:はっ? 脈が戻った……?


☆コーネリア:えっ?


▽研究員D:ちょっと待って! 脈拍が200台にまで急上昇!!


☆コーネリアM:どうして……そんなはずは……!


△ヴェルナー:――ドクター・マックイーン!!

       今すぐその場から逃げろ!!


◎N①:次の瞬間だった、まばゆい閃光と共に爆発が起きる。

    爆破の衝撃は部屋全体にわたり、全ての者たちが吹き飛ばされた。


☆コーネリア:っつ! いったぁ……いったい、何が——


◎N①:コーネリアは、目の前の光景に絶句する。

    ステラの周りに龍を模った雷の生命体が纏っていた。


☆コーネリア:あれは……


▽アナウンス:ラボ全職員に緊急通達! 緊急通達!!

       これは訓練ではありません、訓練ではありません!!

       医療部において大規模爆発が起きました!

       危機管理部はすぐさま出動し、消火活動を行ってください!

       繰り返します、これは訓練ではありません!!



【Ⅸ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 制御統括部 / 統括補佐執務室>


▽ユティ:ハイネ、大変よ! 起きて!!


□ハイネ:んっ……なんだユーティライネン、どうしてお前が——


▽ユティ:寝ぼけている場合じゃないわ!

     医療部で爆発が起きた、ステラが暴走したの!!


□ハイネ:なっ! どうして!?


▽ユティ:詳しい事はわからない、だけど……

     アンタはステラの元へ行くべきよ。


□ハイネ:っ……ステラ!!



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー ???>


◇N②:警報ベルが鳴り響き、緊急避難を告げるアナウンスが繰り返される。

    逃げ惑う多くのラボの職員、遠くから爆発音が鳴り響く、まさに

    混沌としていた。


▽警備長:ウィリアムズ統括補佐!!


□ハイネ:すまない、警備長! 遅くなった!!

     状況報告を!


▽警備長:医療部で治療を行っていた被験者、ステラ・ディーツの

     能力が暴走をしている状態です!

     報告によると龍のような雷の生命体を用いていることから、

     特殊型のアーク・ホルダーと思われます!

     銃火器も無効にさせてしまうほど強力なモノです!!


□ハイネ:ステラは現在、どこにいる?


▽警備長:こことの連絡通路がある医療部棟の2階にいることが確認されています!

     シールドで攻撃を抑えていますが、突破されるのは時間の問題です!

     このままでは医療部だけじゃなくラボ全体が……


□ハイネ:やむを得ないか……総員、避難誘導と消火活動に専念を通達。

     ステラの対処は私が行う!

     また、医療部棟の2階には誰も近付けさせないようにしろ!


▽警備長:まさか、統括補佐……!!


□ハイネ:巻き添えを食らいたくなければ指示に従え。

     最悪、建物ごと消えるだろう。


▽警備長:わ、わかりました!

     ――統括補佐、医療部から緊急通信です!


□ハイネ:誰からだ!


▽警備長:送信名は……コーネリア・エンゲルマン医師です!!


□ハイネ:いますぐ繋げてくれ!

     ドクター・エンゲルマン! そっちはどうなっている?!

     お前は無事なのか!?


△ヴェルナー:……ドクター・エンゲルマンじゃなくて申し訳ないね。


□ハイネ:その声は……ストレンジラブか!


△ヴェルナー:残念だが、彼女は近くにいない。

       通信機器が壊れてしまい、たまたま彼女の

       携帯端末が落ちていたからね。

       かけさせてもらったよ。


□ハイネ:何が起きた?


△ヴェルナー:治療中にステラの容体が突如急変した。

       機械の薬剤チェックは問題なかったが、しかし

       状況とデータから推測すると、別の薬剤が投与

       されたのかもしれない。

       一時は心肺停止したがすぐに回復、と同時に暴走した。

       ステラ・ディーツは意識のない状態で行動をしているのだ。

       龍を模った雷の化身を連れ添い、破壊の限りを尽くしている。


□ハイネ:――お前の望んだ光景じゃないのか?


△ヴェルナー:馬鹿な事を言わないでくれ。

       決死の思いでこうやって君に連絡をしている。

       私の命だって危ない状況なんだ。

       それよりも、ここ最近、ドクター・エンゲルマンの様子が

       不自然だったのだが、君は何か知っているんじゃないのかね?


□ハイネ:私には関知しない事だ。

     それよりもお前の計画はこれでおしまいだ。

     諦めてもらおう。


△ヴェルナー:……はて、計画とは何のことだがさっぱりわからないが。


□ハイネ:いいだろう、罪を問うのは今では無い。

     それよりも私はやるべきことをやるだけだ。


△ヴェルナー:…………。


□ハイネ:通信を終了する、お前はいますぐ急いで安全なところに避難しろ。


△ヴェルナー:ああっ、そうさせてもらう。

       頼んだよ。


□ハイネ:――これが終わった時……お前たちの罪を全て明らかにしてやる。



(間)



◇N②:燃え盛る炎の海の中を、雷の化身を纏ったステラが歩いている。

    化身は雄叫びをあげながら、雷を放ち破壊の限りを尽くす。

    無造作に放たれた雷はひとつ、ひとつの威力が大きい。

    警備員たちは応戦するも、返り討ちにされていく始末。

    誰もが諦める中、そこに——


□ハイネ:お前たち! いますぐ、退避しろ!!

     ここは私が対応する!!


◎N①:ハイネの声に呼応して、警備員たちはすぐさまその場から退避した。

    ――ステラとハイネが対峙する。


□ハイネ:――ステラ。

     お前がこんなになるまで私たちが……


●ステラ:ああ……ああああああああああ!!


◇N②:ステラが叫ぶと雷の化身も呼応するような咆哮と共に、

    巨大な雷の塊が彼に襲い掛かる。


□ハイネ:重力圧縮! ヘブンズ・グラビティ!!


◇N②:ハイネは手を前にかざし、重量の力を

    圧縮すると小型のエネルギー弾として放つ。

    2つの力の衝突により巨大な爆発がその場で起きた。


□ハイネ:ハァ……ハァ……


◇N②:身体全体に能力を使った負担がのしかかる。

    ハイネの能力は「重力操作」で、戦闘に特化した能力。

    強力な能力を持つ彼だからこそ、直感で【雷霆らいてい】の力は

    最も驚異的な能力であるのを理解した。


□ハイネ:くっ……少し抑えたつもりだったが……

     無意識に力の調整を誤ったか……!

     だが、これならステラのほうも——


●ステラ:――ああああああああ!!


□ハイネ:っつ!


◇N②:一方、ステラの様子は変わることは無かった。

    雷の化身が咆哮し、高エネルギーの雷がハイネに襲い掛かる。

    ハイネは襲い掛かる雷撃を回避し、ステラの元へ向かっていく。


□ハイネM:――ステラ、今の君には私の声は届かないだろう。

      君と出会った時の事が忘れることが出来ない。

      息も絶え絶えな状態の中、私が伸ばした手を

      力強く握りしめた、あの日を。


◇N②:雷撃は衰えることなく次々と放たれ、その勢いは増していく。

    それでもハイネは立ち止まる事はなく、自身の能力で応戦する。


□ハイネM:幼い頃の臆病で泣き虫な私と違い、その小さな身体で

      様々な苦難を耐え、今日まで生きてきた。

      ステラは、その名の通り星の様に輝き、心優しき勇敢な子だ。

      二度と誰にも傷つけさせるものか。

      あの子の笑顔を取り戻す!


□ハイネ:私が、お前をここから、連れ出してやるっ……くっ!!

     だから、目を覚ましてくれ……!!



(間)



▽アナウンス:緊急事態発生、緊急事態発生!

       ラボ全職員に通達、至急避難をしてください。

       緊急事態発生、緊急事態発生!

       ラボ全職員に通達、至急避難を——


◇N②:けたたましいサイレンの音と共に、緊急避難を繰り返し告げられる。


☆コーネリア:ハァ……ハァ……!


◇N②:コーネリアは避難方向とは反対に向かって走る。


☆コーネリア:お願い、無事でいて……ステラ……!!


◎警備員:っつ! 何をしているんのですか!!

     ドクター・エンゲルマン! こちらは危険です!

      今すぐ避難を!!


☆コーネリア:ステラは……


◎警備員:えっ?


☆コーネリア:ステラ・ディーツは、どこにいるの……!!


◎警備員:……警戒対象ステラ・ディーツは、ウィリアムズ統括補佐と交戦中です!


☆コーネリア:ぐっ!


◎警備員:お待ちください! 特殊能力者同士の戦いです!!

     巻き込まれますよ!!


☆コーネリア:はなし……てっ……!!


◎警備員:お待ちください! ドクター!!

     ドクター・エンゲルマン!!


☆コーネリア:ステラ! ステラァ!!

      どこにいるの、ステラ!!


(間)



●ステラ:あああああああ!!


□ハイネ:ぐあっ!


□ハイネM:くっ……ダメだ……!

      このままでは、ステラだけではなく

      ラボ全体に被害が及んでしまう。

      だが、このまま戦い続けても状況は良くならない。

      ――選択するしかない……!


◇N②::放たれる雷撃を交わし、ハイネは雷の龍の背後へと回った。


□ハイネ:そこで眠っていろ!

     重力圧縮、ブラック・クラッシュ!!


◇N②::圧縮された重力の塊を纏った拳で、ハイネは雷の龍の床に叩きつけた。


□ハイネ:ステラ!!


●ステラ:っつ!


◇N②::ハイネはステラを押し倒し、彼女を無力化する。


□ハイネ:ハァ……ハァ……


●ステラ:ぐぅ……あっ……


□ハイネM:雷の龍はしばらく動くことはないだろう。

      後は——


●ステラ:がぁ……


□ハイネ:ステラ! 目を覚ますんだ!!

     ステラ!!


●ステラ:ああああああああああ!!


□ハイネ:なっ!


□ハイネM:龍が動き出した!

      まさか、ステラの意識に呼応して……っつ!


□ハイネ:――決断すべきようだ。


◇N②::ハイネは能力を発動し、拳を振り上げる。


□ハイネ:…………。


◇N②::能力を使ってしまう事でステラを跡形もなく消してしまう。

    ――それに抵抗を感じ、能力を発動することを止めた。

    そして、ハイネは護身用のナイフを懐から取り出した。


□ハイネM:――許してくれとは言わない。

      これが終わったら――


◇N②::ハイネはナイフをそっと首元へ向け


□ハイネ:……私もそちらに行こう。



(間)



●ステラ:ああああああああ!!


☆コーネリア:この叫び声は……ステラだ……

       ステラ! ステラ!!

       どこにいるの、ステ――


◇N②:爆発の衝撃波によって、コーネリアの身体が

    思いっきり壁に打ち付けられる。


☆コーネリア:ぐっ……あっ……いったぁ……

       でも、こ、んな……ところで……!!

       ――あれは……


◇N②:彼女の瞳に映した光景には、傷だらけの少女――ステラの首を掴み、

    よく知る男性がナイフを首元にあて、命を摘み取ろうとしている姿だった。


☆コーネリア:っつ……ウィリアム統括補佐……!


□ハイネM:なっ! ドクター・エンゲルマン……どうしてここに……!


☆コーネリア:だめ、やめて……


□ハイネM:やむを得ない……


◇N②:ハイネがコーネリアに気付き、覚悟を決めた表情をした。

    そして、ナイフを振り上げる。


☆コーネリア:だめええええええ!!


●ステラ:ゲホッ! ゲホッ! ゴホッ!


□ハイネ:えっ?


●ステラ:おじ、さん……?

     来て、くれたんだ……


□ハイネ:ステラ?


●ステラ:ねぇ……わたし、元気に……なれるかな……?

     また、あの時みた、いに……みんなで、おでかけ……したいな……

     こんどは……けんきゅうじょの外で……


◇N②:ステラは意識を失い、同時に雷の龍も消えた。

    やがて室内スプリンクラーが作動し、炎が消えていく。

    雨の様に水が降りしきる中、ハイネは気を失った

    ステラを優しく抱きかかえた。

    そして、ゆらゆらとおぼつかない足取りで

    コーネリアは彼らに近付いて――


☆コーネリア:っつ!


◇N②:ステラの身体をハイネから引き剥がし、背を向ける。

    コーネリアからは濡れた髪でハイネの表情までは伺えなかったが、

    ハイネがたった一言「頼む」と言ったような気がした。



【Ⅹ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部 / ステラの病室>


△N③:事件から数日後。

    ステラは過度な能力使用により、数日たった今も意識は戻らず

    眠ったままだった。

    コーネリアは寝ることも惜しみ、常にステラの傍に居続けていた。


☆コーネリアM:どうして、こんなことに? 暴走した原因はなに?

        ネムリヒガンバナの投与量を間違えた?

        それとも、人工アーク鉱石こうせきの影響予測が不十分だった?

        一体、私は何を間違って——


□ハイネ:――ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:っつ! 今更、何しに来たの!?

      あなたが……あなたたちが、なにをやったのかわかって——


□ハイネ:ステラは助からない。


☆コーネリア:なんですって……


□ハイネ:ここでは、の話だ。


△N③:ハイネは持っていた封筒をコーネリアに差し出す。

    そこには「ヘリックス・ライフライン」と書かれた文字が見えた。


□ハイネ:ステラを助ける方法だ。


☆コーネリア:えっ?


□ハイネ:ただ、それを教えるのと引き換えに、今回のことは他言無用に願いたい。


☆コーネリア:何を言っているの? 助ける方法がある?

       ステラを殺そうしたのに!?


□ハイネ:…………。


☆コーネリア:ストレンジラブ部長から、あなたが事故の全責任を

       負ったことを聞いた。

       それは、私に貸しを作って黙らせようとするためでしょう?

       ……あなただけは違うと思ってた。

       信じていたのに……


□ハイネ:エンゲルマン……


☆コーネリア:あなたたちは、ラボを守るために隠蔽するんでしょうけど……

       そんなことさせない! 私が生きている、この事実を公表する!


□ハイネ:それは駄目だ! 今回の問題はラボだけの話じゃない!!

     そんなことをしてしまったら、君は確実に破滅する!!


☆コーネリア:破滅してもいい、ステラを守るためだったら!


□ハイネ:コーネリア!!


☆コーネリア:っつ!


□ハイネ:……ステラの能力が如何に巨大なモノかというのが

     政府にまで知られてしまった。

     この先、大勢の人間がこの子を利用しようとするだろう。

     この子を守れる人間がほとんどいない状況で、

     ドクター・エンゲルマン、君まで失ってしまえば、

     この子に未来は……無い。


☆コーネリア:――くっ……わかりました。

       この子を助ける方法があるのなら従います。    


△N③:コーネリアは差し出された封筒を唇を噛みしめながら受け取った。


☆コーネリア:ただ! ステラは私が全力で守ります。

       統括補佐とうかつほさにはこれ以上、手をわずらわせません。

       だから……二度と、ステラには近付かないでください。


□ハイネ:――あぁ、わかった。約束しよう。

     きっと、そこは君の力になってくれるだろう。


△N②:コーネリアは返事しなかった。

    諦観ていかん表情かおを浮かべたハイネは、何も言わずに部屋を出て行った。



(間)



◇ロイド:ウィリアムズせーんぱい♪ ちーっす!


□ハイネ:……キズは大丈夫なのか?


◇ロイド:あら、俺にまで優しい言葉をかけてくれるんっすか?

     やっば、明日、槍とか降っちゃったりして~!


□ハイネ:そうだな。


◇ロイド:――って、いつものように冷たくあしらってくださいよ~!

     なんか調子狂うな……


□ハイネ:すまない。


◇ロイド:その……コーネリアと……何かあったんすか?


□ハイネ:まあ、色々とな……それよりもどうした? 何か用か?


◇ロイド:あぁ、伝えることがあったんっす。

     俺、ラボを辞めようと思って。


□ハイネ:お前、何を言って——


◇ロイド:それはこっちのセリフだよ。

     アンタだってラボを辞めて、ヘリックスに行くんだろ?


□ハイネ:――事故に対する責任と、ステラを助けるためだ。


◇ロイド:あらかた、例の担当者に取引をもちかけられたんでしょ?

     なんかしゃくだから、俺も入れてくれって頼んだらOKもらったんで。

     新職場でもよろしくお願いしますよ!


□ハイネ:お前というヤツは……


◇ロイド:……遅かれ早かれ、コーネリアもヘリックスに来ることになりますよ。

     いいんすか?


□ハイネ:想定の範囲内だ。

     それよりもいいのか、お前の方こそ後悔はしないのか?


◇ロイド:まあ、後悔がないと言ったらウソですけど、俺が

     ハイラント諮問委員会のメンバーだってバレるのは

     時間の問題ですし、それに——


□ハイネ:それに、なんだ?


◇ロイド:――アスクレピオス・ラボラトリーは違うと思ったんですけどね。

     俺だって辛いですよ……信じてきたモノに裏切られるのは。


□ハイネ:ロイド……。


◇ロイド:呼び止めてすいません、これから統括のところっすか。


□ハイネ:あぁ、最後の挨拶あいさつをな。

     失礼する。


◇ロイド:――ハイネ先輩。


□ハイネ:なんだ?


◇ロイド:アンタも後悔していないんですか?


□ハイネ:……そうだな。

     後悔はしている、だが……私の責任でもあるからな。


◇ロイド:そうっすか……それじゃあ、また後で会いましょう。

     ――まったく、不器用すぎるだろ。



【Ⅺ】

<アスクレピオス・ラボラトリー 統括制御部 / 統括執務室>


◎フローレンス:――そろそろ来る頃だと思ったわ。


□ハイネ:…………。


◎フローレンス:先程、医療部から今回の爆破事故についての

        報告書が提出されたわ。

        事故の原因は、実験体のステラ・ディーツにネムリヒガンバナの

        毒素が投与されたことのようね。

        きっと、部内の誰かの仕業でしょうけど。

        ハイネ、あなたが責任をとる必要は——


□ハイネ:私がやった。


◎フローレンス:ハァ……ハイネ、あなたが事故の全責任を負うと

        聞いた時は驚いたわ。

        でも、違うでしょ? 本当の事を言って。


□ハイネ:全て、私がやったことだ。


◎フローレンス:一応聞くけど……何のために?


□ハイネ:そうするしかなかった。

     ――お前たちの『雷霆計画トール・プロジェクト』を止める為に。


◎フローレンス:『雷霆計画トール・プロジェクト』……?

        あぁ、あなたの報告書に書かれていたのはその件だったのね。

        大袈裟おおげさよ、政府の依頼に協力しただけの話よ。


□ハイネ:では、お前は知っていたんだな……その上で黙っていたのか?


◎フローレンス:私たちはユグドラシルの民なのよ? 協力は当然の事じゃない。

        それに、ストレンジラブが強い興味を持っていてね。

        彼に一任したのよ。


□ハイネ:――それが、人体実験であると知ったとしても?


◎フローレンス:前にも言ったけど、私は彼の判断を信頼していた。

        だから干渉するつもりはいないの。

        それは医療部だけじゃない、他の部署に対してもそうよ。


□ハイネ:お前の放任の結果で、奴らは暴走し、人道に反する行いをしていた!

     スターロンバー研究所の件だけじゃない、今回のことが広まったら、

     政府はきっとラボを切り捨てるはずだ!

     その先に待ち受けるのは、お前の破滅だ!!


◎フローレンス:だったら、真相を知らせなければいい。


□ハイネ:(※被せる様に)フローレンス!!


△N③:ハイネは目の前のブラックウェルの机を殴りつける。

    すると、警告音と共にアナウンスが室内に鳴り響く。

    ブラックウェルの前にはシールドが展開され、

    左右の壁からは無数の銃火器がハイネへと向けられていた。


▽アナウンス:脅威反応を検知しました。

       対象排除のため、緊急防衛システムが作動されます。

       繰り返します、脅威反応を——


◎フローレンス:どうしたの、ハイネ。

        感情的な行動は愚かな行為であることは知っている筈だわ。


□ハイネ:――お前の中に、脅威を恐れる心があったとはな。

     いつかは、こうなると予測していたのか?


◎フローレンス:ハイネ……私たちは先を見通して決断をしなければならないの。

        アーク鉱石、特殊能力とそれを使用するアーク・ホルダー、

        瘴気しょうき汚染、そしてエネルギー問題。

        それらの問題を徹底的に探究しない限り、問題解決の糸口を

        見つけることが出来ないのは理解しているはずよ。


△N③:ブラックウェルは机の上にあるパネルにタッチ操作を行う。

    すると、多数の銃火器から弾丸が一斉に放たれる。


□ハイネ:重力集束、ブラックホール・リフレクション!


△N③:黒い球体がハイネを包み込み、全ての銃弾を跳ね返す。

    跳ね返った弾丸がブラックウェルに飛ぼうとも、防壁によって妨げられた。


◎フローレンス:私たちは、これの問題を解決する為にいる。

        でなければ、人類に安寧は訪れない。


△N③:やがて弾切れとなり、銃弾の雨がやむ。

    銃弾はハイネに届くことはなく全て跳ね返されていた。


□ハイネ:だが、お前は目の前のことを見つめるべきだ!

     他者の苦しみや尊厳を踏みにじり、発展を無暗に

     進む先の末路まつろを、お前は知っている筈だ!!


◎フローレンス:ええっ、破滅を迎えるのでしょう。

        父も母も高潔な科学者として世界の発展と人類の安寧を願ったわ。

        でも……二人の死はろくでもなかったじゃない。

        ――未知なる答えを知るために、私は全てを

        犠牲にする覚悟は出来ている。

        それが悪魔に魂を売ることになろうとも。


□ハイネ:――お前の覚悟を知っている。

     だからこそ、私はお前の歩む道を守ろうと思った。

     しかし……今となっては、それが誤りだった気付かされた。

     結局、お前も自身が忌み嫌った奴らと同じじゃないか……


◎フローレンス:一緒にしないで。

        敵は戦争と瘴気しょうき汚染、そして終わりが見えない苦しみ。

        ――私が行く道がこれらを終わらせる最短距離なのよ。


□ハイネ:それでも、手段を選べる余地はあったはずだ!

     少なくとも俺が知っているフローレンス・ブラックウェルは、

     そういった犠牲を回避するのを選ぶ人間だった!


△N③:そう言って、ハイネは圧縮した重力をエネルギー弾として放つ。

    だが、障壁は壊れる事がなかった。


◎フローレンス:――遠回りをすれば支払う代償が増えるだけ。

        だから、私は犠牲を回避する選択をしているわ。

        能力を使える強い人間である貴方と、何もない私は

        進める道が違うのよ。


□ハイネ:――防衛システムを構築した以上、すべての仕組みを理解している。

     本来であれば、私の能力でその障壁を壊すことが出来る。

     展開されているバリアは、アーク・サイエンス部が創った

     私用に強化された能力弱体化シールド……ユーティライネンの仕業だな?


◎フローレンス:私が依頼したのよ。

        彼女をあなたと付き添わせる事を許可したのは、

        秘密裡にあなたの能力を解析するため。

        最初は許可をしなければよかったと後悔したものよ。

        でも、今となっては正しかったと思っているわ。


□ハイネ:そうか…―――ふっ!!


△N③:ハイネは自身の能力を解除すると、障壁に向かって拳を叩きつけた。


◎フローレンス:ハイネ、やめて。


△N③:ハイネは彼女の言葉を無視し、無言で殴り続ける。

    徐々に拳から血が流れだす。

    それでも彼は殴り続けることを止めなかった。


◎フローレンス:そんなことをしたって無駄よ。


△N③:それでも彼は殴り続ける。


◎フローレンス:やめなさい!!


△N③:ブラックウェルが叫んだその瞬間、障壁に亀裂が走った。


◎フローレンス:うそっ……


□ハイネ:―――――――っつ!!


△N③:さらにハイネが渾身の力を込め殴ると

    障壁全体にヒビが入り、次の瞬間ガラスの様に砕け散った。


◎フローレンス:さすがね。


△N③:彼女の目の前にハイネの拳があった。


□ハイネ:俺は……私は、ここを去る。


△N③:ハイネはゆっくりと拳を下げた。


◎フローレンス:そんなことが許されると思うの?

        はぁ……わかったわ、実験体を助ければ――


□ハイネ:それは不要だ。

     彼女はヘリックス・ライフラインに任せることにした。


◎フローレンス:本当に裏切るつもりなの?


□ハイネ:あぁ、そうだ。

     そして——ステラには金輪際、関わるな。

     再び、彼女を苦しめるようなら、今度こそ――

     お前を殺さなければいけない。


◎フローレンス:ハイネ!

        いつか、あなたも私の言っていることを理解できるはずよ。


△N③:彼女の問いかけに応えることはなく、ハイネはその場から去った。

    床に残されたハイネの血痕に、ブラックウェルは触れる。

    手についた赤いシミを彼女は悲しそうな表情で見つめていた。



【Ⅻ】


<ヘリックス・ライフライン ??? / 応接室>


◎エヴァ:――初めましてだな、改めて自己紹介をしよう。

     エヴァンジェリスタ・ファーレンハイトだ。

     ヘリックス・ライフライン研究部の統括責任者を務めている。


☆コーネリア:私は——


◎エヴァ:あなたのことは知っている、コーネリア・エンゲルマン。

     連れて来てもらったロイド・ヴィーデマンと現地エージェントの

     クロスより教えてもらった。

     特にクロスからは、あなたの誠意や熱心さに関心を

     寄せており、その上で君への信頼と尊敬も伝えられた。


☆コーネリア:そう、なんですね。


◎エヴァ:私の信条は「論より証拠」だ。

     失礼ながら、私の方で調査をさせて頂いた。

     君の気持ちを込めた上で聞かせてくれないか、今までのことを。

     正直に答えて欲しい。



(回想シーン:開始)



<アスクピレオス・ラボラトリー 医療部 / 医療部長室>


△ヴェルナー:やあ、ドクター・エンゲルマン。

       体調は大丈夫なのかね?


☆コーネリア:……私が提出した申請の。


△ヴェルナー:んっ?


☆コーネリア:許可をまだいただけていませんが。


△ヴェルナー:あぁ、あの件かね。

       すまないね、ドクター・マックイーンを始めとした

       複数の医療部員が亡くなってしまったからね。

       事後処理に時間がかかってしまってね。


☆コーネリア:ステラの病状は楽観視できません。

       可能性がある以上、外部の医療機関に協力を要請すべきです。

       それに……あの子が死なれてしまうと部長もお困りなるでしょう。


△ヴェルナー:――遅くなってすまないね、君の申請を許可しよう。

       実験体をどこで治療しても構わない、君の判断を

       信用しているからね。


☆コーネリア:…………。


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン……君はまだ誤解しているようだが。

       これだけは言えるんだ、君の様な優秀で勤勉な研究員ために

       アスクレピオス・ラボラトリーがある。

       ここの環境と設備は、煩わしいことを考えずに才能と探究心

       を開花させてくれるのだから。

       ――さあ、持っていきなさい。


☆コーネリア:……ありがとうございます。


△ヴェルナー:『雷霆計画トール・プロジェクト』は政府が関わっている以上、重要機密だ。

       ブラックウェル統括の許可も必要になる。

       安心してくれ、彼女との面会は予約をしておいた。

       許可が得られれば、実験体と一緒に出発しなさい。


☆コーネリア:失礼しました。


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン。

       ラボは君の向上心と能力を裏切りはしない。

       君がそれに気付き、やがて我々の元に戻ってくるのを待ってるよ。


☆コーネリア:…………。



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 統括制御部 / 統括執務室>


△N③:統括室に向かうエレベーターの中。

    そこにはコーネリアがひとり。

    全ての元凶であるブラックウェルに会う。 

    彼女の中で沸々ふつふつと怒りがわいてくる。


☆コーネリア:(※深呼吸をしてください、1回か2回程度)


△N③:すぐさま呼吸を整え、怒りを抑える。

    表情にもそれが現れないように注意する。

    やがて到着を知らせる音が聴こえ、扉が開かれる。


☆コーネリア:失礼します、統括。

       医療部のコーネリア・エンゲルマンです。

       この度のヘリックス・ライフラインとの協定について――


◎フローレンス:許可するわ。


☆コーネリア:――えっ?


△N③:ひと悶着もんちゃくはあると考えていた

    コーネリアにとっては予想外の事だった。

    ブラックウェルは内容には目もくれずにただ署名をした。

    コーネリアは戸惑いながらも書類をもらい、彼女を見つめる。


◎フローレンス:まだ、なにか?


☆コーネリアM:あぁ、このヒトにとって――


☆コーネリア:――必ずや、期待に応えてみせます。


☆コーネリアM:――どうでもいいことだったんだ



【XIII】


<ヘリックス・ライフライン ???>


▽アナウンス:帰還報告、帰還報告です。

       第一調査分遣隊だいいちちょうさぶんけんたいが戻りました。

       研究部員は至急メディカルチェックを行ってください。

       繰り返します、帰還報告です。


◇ロイド:おっ、ステラが戻ってきたか。


□ハイネ:私は、失礼する。


◇ロイド:……やっぱり、あの子に会わないんっすか?


□ハイネ:エンゲルマンとの約束だ、破る訳にはいかない。


◇ロイド:――本当に難儀なヒトだなぁ……



(間)



●ステラ:あっ! ドクター!!


☆コーネリア:おかえり、ステラ。

       身体のほうは大丈夫? 任務の方は慣れた?


●ステラ:だいじょーぶだよ! ステラ、今回すごくがんばったんだから!


☆コーネリア:そっか、偉いね。

       さっ、メディカルチェックを受けに行こう。


●ステラ:うん、わかった!

     ……ねぇ、ドクター。


☆コーネリア:なに?


●ステラ:どうして、ハイネおじちゃんに会っちゃいけないの?


☆コーネリア:……ごめんね、ちょっと色々あって今はそれが出来ないの。

       でも、いつかは……いつかは、会えると思うから。


●ステラ:そっか……うん、それまでステラ、がんばる!


☆コーネリア:うん……そうだね。

       ステラは、いい子だね。


△N③:そんな二人を遠くから見るハイネ。

    彼の顔は安心した表情を浮かべている。


◎エヴァ:――コーネリアにはまだ何も語らないつもりか?


□ハイネ:恥ずかしいところを見せてしまったな。


◎エヴァ:ハイネ、君の頼みとあって彼女には事の真相を話していない。

     だが、このままじゃ交わることもない平行線のままだ。

     ――やがて小さな歪みは大きくなるぞ。


□ハイネ:御忠告、感謝する……だが、それは今ではない。

     来るべき時に、告げる予定だ。


◎エヴァ:そうか。


□ハイネ:それよりもファーレンハイト博士、例の件についての話をしよう。


◎エヴァ:わかった。


□ハイネ:そうだ、博士、これを——


◎エヴァ:んっ、これは?


□ハイネ:――ラムネ味のキャンディーだ。


△N③:彼らの物語は次に続く――



(END)



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