第4話(♂:♀:不問=3:3:0)

【台本名】

 アークホルダー・フラグメントレコード

 Fragement.01 流星のおとし子、星の涙 / 第4話

 副題:『雷霆計画(プロジェクト・トール)』


【作品情報】

 脚本:家楡アオ

 所要時間:40~45分

 人数比率 男性:女性:不問=3:3:0(総勢:6名)


【登場人物】

 コーネリア・エンゲルマン / Cornelia Engelmann

  性別:女、年齢:20代前半、台本表記:コーネリア

  <Overview>

   物語の主人公で、アスクレピオス・ラボラトリー医療部所属の研究員。

   真面目でまっすぐな性格をしており、そして責任感が強い。

   ステラの主治医として、彼女の様子には常に気を配っている。


 ステラ・ディーツ / Stella Dietz

  性別:女、年齢:10歳、台本表記:ステラ

  <Overview>

   物語のもうひとりの主人公で、重症アーク瘴気被曝者として医療部

   の保護下となり、覚醒療法によって特殊能力者となった。

   〝ある実験〟の被害者であり、そのショックによって心を閉ざしている。


 ハイネ・ウィリアムズ / Heine Williams

  性別:男、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ハイネ

  <Overview>

   アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐(ナンバー2)を勤める男性。

   常に厳しい口調で喋り、冷静な様子を崩すことが無い。

   少し天然なところがある。


 ヴェルナー・ストレンジラブ / Werner Strangelove

  性別:男、年齢:40~50代、台本表記:ヴェルナー

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリー医療部部長であり、コーネリアの

   直属の上司。世界的権威のある研究者で、温厚で聡明な人物。

   その本性は——


 ロイド・ヴィーデマン / Lloyd Wiedemann

  性別:男、年齢:20代前半~20代後半、台本表記:ロイド

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部所属の研究員。

   軽薄なお調子者ではあるが面倒見がよく、後輩のコーネリアの事を

   気にかけている。


 ユーティライネン・リーズベリー / Juutilainen Leesbury

  <Data>性別:女、年齢:20代後半~30代前半、台本表記:ユティ

  <Overview>

   アスクピレオス・ラボラトリーのアーク・サイエンス部部長であり、

   ハイネとは大学時代の腐れ縁。

   活発でユーモアあふれる女性で、しばしば常識に囚とらわれない行動をとる。


 ヴィルヘルム・リリエンタール / Wilhelm Lilienthaly

  性別:男、年齢:???、台本表記:ヴィルヘルム

  <Overview>

   世界的な天才科学者であり、仮面で素顔を隠している。

   礼儀正しく温厚な紳士ではあるが、機械的な言動をする。

   違法な実験を行う研究所や企業の撲滅を掲げる『ハイラント諮問委員会』

   の委員長でもある。


 メテオール・エクシア / Meteor Exia

  性別:女、年齢:???、台本表記:エクシア

  <Overview>

   世界を滅ぼす力を持つ7人の特殊能力者(アーク・ホルダー)のひとり。

   元シュレースヴィヒ帝国軍人であり、現在は故人。

   実は、ステラの■■■■■■。


 研究員A……医療部所属の臆病おくびょうな性格をした女性研究員。

       名前は『リズ・ヴァージニア』

 研究員C……医療部所属のプライドだけが高い男性研究員。

       名前は『ケント・マックイーン』

 研究員D……医療部所属の陰湿な女性研究員。

       名前は『リン・マーカロイド』

 軍人……ユグドラシル誓約者連邦軍の女性軍人で、通称〝少佐〟。


※詳細なキャラクター設定は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073232406047



【用語説明(簡易版)】

 『アーク鉱石』……莫大ばくだいなエネルギーを持つ不思議な物質で、人体に

          有害となる瘴気しょうきを放つ。

 『アーク瘴気』……アーク鉱石から放たれる瘴気しょうきで、瘴気しょうきさらされた

          ヒトを『被曝者ひばくしゃ』と呼ぶ。

 『アーク・ホルダー』……『アーク瘴気しょうき』に耐性と特殊な能力を持つ存在。

 『アスクレピオス・ラボラトリー』

   ……今回の物語の舞台となる最先端テクノロジー企業兼研究所。

     通称、ALエーエルラボ


※詳細な設定資料は下記Link参照をお願いします。

https://kakuyomu.jp/works/16818093073231929525


【台本・配役テンプレート】

台本名;

アークホルダー・フラグメントレコード

Episode.01 流星のおとし子、星の涙 / 第4話

URL https://kakuyomu.jp/works/16818093073232574599

 <配役>

  コーネリア・エンゲルマン:

  ステラ・ディーツ/メテオール・エクシア:

  ハイネ・ウィリアムズ:

  ヴェルナー・ストレンジラブ:

  ロイド・ヴィーデマン/ヴィルヘルム・リリエンタール:

  ユーティライネン・リーズベリー:


※配役検索に役立ててください。

☆:コーネリア、少女、店番

●:ステラ、研究員A、ディアーナ、N①

□:ハイネ、N③

△:ヴェルナー、研究員C

◇:ロイド、ヴィルヘルム

▽:ユティ、研究員D、軍人、N②


――――――――――――――――――――――――――――――――――


【0】

<車内>


●N①:国境の街『ザルツバーグ』へと向かう一台の車。

    ハイネが運転をし、助手席にはユーティライネンがいた。


▽ユティ:それにしても、とんでもない事の連続よねぇ~


□ハイネ:何がだ?


▽ユティ:『スターロンバー研究所』に、『ハイラント諮問しもん委員会』。

     ――今まで「都市伝説」と知られていたモノが、

     「実は存在していました!」ってハナシよ。


□ハイネ:荒唐無稽こうとうむけいなモノとして扱われることで、例え

     存在がバレたとしても周りは信じないだろうな。

     せいぜい、笑い話ネタにされるだけだ。


▽ユティ:まさに隠れみのにするには最善の策っていうヤツね。

     私だって、最初は何かのイタズラだと思ったわ。


□ハイネ:だが、ハイラントから派遣されてきたエージェントの

     言葉を信じたんだろ?


▽ユティ:そうそう!

     半信半疑だったけど、私たちしか知らないはずの情報を

     知っていた以上、信じるしかないからね。


□ハイネ:それよりも――


▽ユティ:んっ?


□ハイネ:いい加減、そのエージェントの正体を教えてくれ。


▽ユティ:イヤよ、到着してからの楽しみって言ったじゃない。

     鈍感どんかんなアンタでもきっと驚いた顔を浮かべるはずなんだから!

     こんなサプライズ、そうそうないわ。


□ハイネ:普通、そういう事は本人の前で言わないもんだぞ。

     まったく……サプライズが好きなのは昔から変わらないな。


▽ユティ:大学の頃を思い出して、なつかしくなっちゃった~?


□ハイネ:そうだな……今となっては良い思い出だ。


▽ユティ:驚いた……アンタでもセンチメンタルな気分に

     なることがあるんだ!


□ハイネ:お前は、俺をどういう人間だと思っているんだ?


▽ユティ:融通ゆうずうかない、脳筋ゴリラ。


□ハイネ:間髪かんぱつ入れずに答えたな。


▽ユティ:だって、本当のことじゃない。


□ハイネ:そうか……なら、この問題が解決したら、

     ゴリラらしく物理的に倍返しをしてやろう。


▽ユティ:ヒィ!


□ハイネ:――冗談じょうだんだ。


▽ユティ:アンタの場合、冗談じょうだんに聞こえないのよ!!


□ハイネ:そうこうしているうちに、目的地に到着しそうだ。


▽ユティ:ちょっと! 話を聞きなさいよ!!



(間)



<国境の街『ザルツバーグ』 旧市街地エリア>


●N①:国境の街・ザルツバーク。

    ――ラボがあるユグドラシルと、西の大国である

    リューネブルク連合王国との国境近くに位置する。

    そこは近代的な街並みを擁する『市街地』と、

    歴史的な街並みをようする『旧市街地』の2つに

    分けられていた。


▽ユティ:旧市街地は、ヒトが少なくてさびれているわね。


□ハイネ:ヒトは市街地エリアに集中しているからな。

     それよりも、ユーティライネン。

     ここがヤツらとの待ち合わせの場所なのか?


▽ユティ:ええ、そうよ。

     「旧市街の噴水ふんすい広場で待て、使いの者が迎えに行く」って。

     そろそろ指定された時間だと思うんだけど……


☆少女:おねえちゃん、おにいちゃん。


□ハイネ / ユティ:えっ?


●N①:ボロボロの服をまとった少女が二人に声をかける。

    笑顔で持っていたカゴから一輪の白い花を取り出した。


☆少女:お花、買ってくれませんか?


▽ユティ:えーっと、今は——


□ハイネ:いくらだ?


☆少女:何本買ってくれますか?


□ハイネ:そのカゴの中にある分、全部頂こう。


▽ユティ:えっ!?


☆少女:わあっ! ありがとう!!


▽ユティ:ちょっと!

     アンタだけかぶをあげようとするのはズルいわ!!

     お嬢ちゃん、お姉ちゃんにも花をちょうだい!!


●N①:少女はご機嫌な様子で、花をたばねて彼らに渡した。


▽ユティ:ありがとう、いい香りがするわね。

     何の花?


☆少女:アネモネだよ!

    白のアネモネは、「真実」を意味するんだって!!


□ハイネ:「真実」……


☆少女:お花を買ってくれてありがとう!

    バイバイ! ハイネさん、ユーティライネンさん!


●N①:そう言って、少女はけ足で路地裏ろじうらに入っていった。

    少し遅れてハイネが、突然走り出す。


▽ユティ:ちょっと、いきなりどうしたの!

     待ちなさいよ!!


●N①:少女が入った路地裏ろじうらに向かうも、そこには誰もいなかった。


□ハイネ:逃したか。


▽ユティ:はぁ……はぁ……いきなり走らないでよ……!


□ハイネ:知っていた。


▽ユティ:えっ?


□ハイネ:先程の少女、私たちの名前を知っていた。


▽ユティ:……あっ! そういえば!!


□ハイネ:やはり、あの子が使いの者だったようだな。


●N①:すると、花束から一枚の紙が落ちた。


▽ユティ:ハイネ、花束から何か落ちたわよ。


□ハイネ:――メッセージカードだ。


●N①:「これは招待状です、花束を持ってここに来てください」

    ――メッセージと共に、ある場所の住所が記載きさいされていた。



□ハイネ:アークホルダー・フラグメントレコード


△ヴェルナー:エピソード1『流星のおとし子、星の涙』、第4話



【Ⅰ】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部 / 部長室>


●N①:時間を前に戻す。

     アスクレピオス・ラボラトリーの医療部長室。


☆コーネリア:失礼します。


△ヴェルナー:――来たか、突然呼び出しておいてすまないね。


☆コーネリア:いいえ、大丈夫です。

       それで、ご用件はなんでしょうか……?


△ヴェルナー:ふむっ……ドクター・エンゲルマン、

       私は〝ある悩み〟があるんだよ。


☆コーネリア:悩み、ですか?


△ヴェルナー:私はキミのことを見誤っていたかもしれない。


☆コーネリア:えっ……な、なにを言って——


△ヴェルナー:君は、第一主治医の私ではなく、

       ウィリアムズ統括補佐とうかつほさを信用している。

       これは一体どういうことかね?


☆コーネリア:私は、ただ……ステラのことを第一に考えた上での……


△ヴェルナー:統括補佐とうかつほさが君を気に入っていることも理解は出来るし、

       彼と親しくすることは構わないが……治療全般について

       逐一ちくいち報告をしているようじゃないか。


☆コーネリア:そ、それは……


△ヴェルナー:彼はラボの関係者ではあるが、今回の実験では部外者だ。

       であるならば、ドクター・エンゲルマン、君の行いは、

       情報漏洩ろうえい該当がいとうする。


☆コーネリア:……はい。


△ヴェルナー:今までは目をつぶってはいたが、今回の彼による

       過剰かじょう干渉かんしょうがあった以上、看過かんかする事は出来ない。

       わかるね?


☆コーネリア:…………。


△ヴェルナー:実際に、治療計画に支障をきたしている。

       ――君が言う、「患者を第一」に思っているのなら、

       君自身の行いはその言葉に反すると思うがね?


☆コーネリア:っつ!


△ヴェルナー:若い故に使命感あふれるのは結構だが、目的を見失ってしまっている。

       一度、頭を冷やす時間が必要だ。

       医療部部長命令だ。

       ――コーネリア・エンゲルマン、君には、今回の治療

       における第二主治医を降りてもらう。


☆コーネリア:そんなっ! 待ってください!!


△ヴェルナー:なお、ステラの身の回りの世話については許可しよう。

       これは決定事項だ、くつがえることは無い。


☆コーネリア:部長……!


△ヴェルナー:話はおしまいだ……出ていきなさい。


☆コーネリア:――――はい。



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部 / 中央処置室>


△ヴェルナー:――という訳で、突然の変更で申し訳ないが、

       ステラ・ディーツの治療における第二主治医を

       ドクター・エンゲルマンからドクター・マックイーン

       に変更することになった。


◇ロイド:なっ!? ちょっと待ってくださいよ!!


△ヴェルナー:なんだね、ヴィーデマン君。


◇ロイド:〝覚醒かくせい療法〟が佳境かきょうに迎える中、突然の変更はないでしょう?!

     ステラにはどう説明するんですか!!


●研究員A:そうです!

      こんなことをしてしまったら、ステラに影響が出てしまいます!


△ヴェルナー:――静粛せいしゅくに。落ち着きなさい。

       皆の気持ちはわかるが、今後の治療継続には彼の力が必要だ。

       ドクター・エンゲルマンは、ドクター・マックイーンの

       助手として働いてもらう。

       それに実験体の身の回りのことについて、彼女に任せる。

       これならば、影響は少ないと考えている。


◇ロイド:そんなことで納得が——


▽研究員D:いちいちうるさいわね。


◇ロイド:あっ?


△研究員C:そうだ。これは、医療部の問題だ。

      部の人間じゃないお前に口出す権利はない。


◇ロイド:この治療は、俺たち、アーク・サイエンス部との合同だろうが!


△研究員C:相変わらず、足りない頭の持ち主だな。

      確かにお前らの部署ぶしょとの合同研究ではあるが、主導は医療部だ。

      気に入らなければ降りろ、邪魔だ。

      お前の代わりなんぞいくらでもいる。


◇ロイド:……ヒトをけなすことだけは一級品だな、この無能野郎が!

     統括補佐とうかつほさに怒られて、ガキのように逃げた臆病者はどこのどいつだ?


△研究員C:お前、いい加減に!


☆コーネリア:ロイド先輩!


◇ロイド:コーネリア……


☆コーネリア:もう……いいですから。


◇ロイド:お前、こんなんで納得できるのかよ!


☆コーネリア:いいんです……私には、それしか選択肢がないんですから……


◇ロイド:っつ!


△研究員C:さすが、ドクター・エンゲルマンは物分かりがいいな。

      それじゃあ、早速だがステラのバイタル管理を頼んだぞ。


☆コーネリア:はい。


△研究員C:ほら、お前らもサボっていないで仕事をしろ!


◇ロイド:――コーネリア、お前はこのままでいいのか?


☆コーネリア:…………。


◇ロイド:それがお前の答えか……わかったよ。

     もう、これ以上は何も言わねえ。



【Ⅱ】


▽N②:ステラがいる部屋に、第二主治医である男性研究員が入ってくる。

    その手には拘束具が握られていた。


●ステラ:来ないで!


△研究員C:我儘わがまま言うな。

      それに協力しないとエンゲルマンに迷惑めいわくがかかるぞ。


●ステラ:近付かないで!


△研究員C:ちっ、これだからガキは嫌いなんだ。


◇ロイド:おい、クソ野郎。


△研究員C:なんだ、お前。


◇ロイド:やってやるよ。


△研究員C:なに?


◇ロイド:下手くそのお前の代わりにやってやるって言っているんだよ。

     だから、さっさと出て行ってくださいませ、新しい第二主治医様?


△研究員C:ふんっ、コイツのいかずちで焼き殺されたくなければ、

      しっかりと拘束こうそくするんだな。


◇ロイド:ケッ……いけ好かねぇ野郎だ。


●ステラ:ロイド……


◇ロイド:あぁ、わるいな、ステラ。

     ちょっとばかり悪いが、つけさせてもらうぜ。

     (小声)だいじょーぶ、痛くないように少し緩めておくからさ。


●ステラ:ドクターは、どこにいるの?


◇ロイド:あっ、それは……だな。

     そうそう、コーネリアの奴はちょっと外せない用事があってな。

     今はここにいないんだ。


●ステラ:そっか……いないんだ……


◇ロイド:安心しろって!

     用事が終わったら、すぐ戻るようにって言っとくからさ!


●ステラ:うん、ありがとう……だったら、ステラ、がんばらないとね!

     ドクターがいなくても、だいじょうぶなところを見せる!


◇ロイド:ああっ、そうだな……俺も、応援しているからな。



(間)



△ヴェルナー:それでは、覚醒かくせい療法の定着活性3コース目に入る。

       投薬を開始。


☆コーネリア:……投薬を開始します。


▽N②:薬が投与されると、ステラはもだえ苦しむ声をあげる。


●ステラ:あああああああああ!!


☆コーネリア:っつ!


▽N②:どうすることも出来ない自分に、コーネリアは

    くやしさと悲しさが入り混じった感情にさいなまれる。


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン、採取した血液の

       データとバイタルサインはどうかね?


▽N②:そんな彼女に意を介さず、ストレンジラブは冷めた声で問いかける。


☆コーネリア:血液データは特に問題なく……バイタルは、問題ありません。


△ヴェルナー:ふむ、上々だな。



(間)



●研究員A:投薬完了しました!


☆コーネリア:――ステラ!!


●ステラ:はぁ……はぁ……ドクター……

     おわった、ね……


☆コーネリア:ええっ、そうね……よく、がんばったね……


▽N②:ステラはコーネリアに心配かけないように、何とか

    笑顔を浮かべるが、無理していることは明らかだった。

    その後もステラの治療は、以前と比較して速いスピード

    で進められた。

    治療が必要であることを理解しながらも、苦痛を与え続ける

    ことが果たして本当に治療なのか、と。

    コーネリアの心は、日々、罪悪感と不信感でむしばまれていった。


☆コーネリアM:私は……いったい、どうしたら……!



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部/ステラの病室>


●ステラ:うっ……おぇ……


◇ロイド:大丈夫か、ステラ。

     吐き気止めの薬を持ってきてもらうからな。


●ステラ:うん……うっ! おぇ……


◇ロイド:あぁ、我慢しなくていいぞ。


●ステラ:ありがと……うぇ……


☆コーネリア:――こんなことって……


●研究員A:今まで医療部で何人かの患者の治療をしてきましたが……

      おかしいです……何もかもどう見たっておかしいです……

      これじゃまるで――


☆コーネリア:――人体実験。

       本当に、これは彼女を救うのに必要な治療なの……?



(間)



<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部>


△研究員C:おい、エンゲルマン。

      これが次のコースのクリニカルパスだ。


☆コーネリア:――ちょっと待ちなさい!

       いくらなんでも、休薬期間が短すぎる!!

       こんなんじゃ、薬の副作用が出るリスクを高めてしまう!!


△研究員C:これは部長の指示だ。

      お前は黙って従えばいいんだよ。


☆コーネリア:だからってアンタだって、この内容が危険だってわかるでしょ!

       それにこの薬剤だって、ハイリスク・ドラックじゃない!!


△研究員C:はぁ……これだから……


▽研究員D:アンタ、状況じょうきょうをわかっていないわけ?

      マックイーンが第二主治医なの。

      元第二主治医のアンタがやるのは、

      部長と私たちのサポートよ。

      文句をつけるなら、降りたらいいじゃない。


☆コーネリア:くっ!


☆コーネリアM:こんなの治療と言えない!

        ストレンジラブ部長……あなたは何をしようと

        しているんですか……!



(間)



△ヴェルナー:――では、この薬剤を使用する際の注意事項を

       ドクター・マックイーンに伝えておいてくれ。


▽研究員D:はい、承知しました。


☆コーネリア:――ストレンジラブ部長。


△ヴェルナー:んっ?

       ああ、ドクター・エンゲルマンか。

       どうしたんだね?


☆コーネリア:お話したいことがあります。



(間)



△ヴェルナー:――それで話とはなんだね?


☆コーネリア:申し訳ありませんでした!


▽N②:突然のコーネリアの謝罪に、ストレンジラブは驚いた。 

    コーネリアは言葉を続ける。


☆コーネリア:冷静になって考えたんです。

       私は……目の前で苦しんでいるステラの姿に

       同情してしまい、判断力を見失ってしまいました。

       自分がすべきことを放棄し、その上、第一主治医

       である部長に口答えまで……


△ヴェルナー:…………。


☆コーネリア:今の自分があるのは、部長の支援があってこそです!

       多くの御恩があるにも関わらず、未熟さ故の自分の

       身勝手さに反省致しました!

       どうか……どうか、お許しください!


△ヴェルナー:――そうか。

       ドクター・エンゲルマン、私は安心したよ。


☆コーネリア:えっ?


△ヴェルナー:やはり君は、私が見込んだ子だ。

       君の反省はとても喜ばしい事だ、もちろん許すとも。


☆コーネリア:あ、ありがとうございます!


△ヴェルナー:ならば、君を第二主治医に戻すよう調整しよう。

       ドクター・マックイーンは優秀ではあるが、

       君のほうがより優秀であるからな。


☆コーネリア:そこまで言っていただけるなんて……ありがとうございます!

       それでは私は仕事に戻りますね!


△ヴェルナー:――おっと、待ちたまえ。


☆コーネリア:どうされましたか?


△ヴェルナー:今度のクリニカル・パスのほうは目を通したかい?


☆コーネリア:はい、なんでもハイリスク・ドラックを使用するんですよね。


△ヴェルナー:それなんだが、機械の投薬設定を忘れてしまってね。

       申し訳ないが、やっておいてくれないか?


☆コーネリア:勿論もちろんです!

       ですが、ハイリスク・ドラックについては

       副部長以上の権限が必要ですが……


△ヴェルナー:おっと、そうだったね。

       それじゃあ、私のIDカードを渡しておこう。

       終わったら、私の部屋のデスクに置いておいてくれ。


☆コーネリア:はい! わかりました!!



【Ⅲ】


<国境の街『ザルツバーグ』 旧市街地エリア/Bar Light>


●N①:時間を少し前に戻す。

    国境の街『ザルツバーグ』・旧市街地エリアにある

    酒屋・Bar Lightの店前にハイネとユーティライネンがいた。


□ハイネ:――どうやら、ここのようだな。


▽ユティ:まさか、色々と振り回されるとは思わなかったわ……


□ハイネ:行くぞ。


●N①:ハイネが店に入ろうとした時だった。

    入口にいた店番の女性が立ちふさがった。


☆店番:待ちなよ、ウチは会員制のバーなんだ。

    悪いけど、紹介がない一見さんはお断り――


□ハイネ:これが紹介の証だ。


●N①:そう言って、ハイネは少女から買った花束を差し出した。


☆店番:――あぁ、アンタたちが委員長の客人か。

    入りな、奥の席に座っているから。


□ハイネ:わかった。


●N①:店内は薄暗く、心地よいジャズ・サウンドが聴こえてくる。

    来客に気付いたバーテンダーは、彼らを奥の席へと案内した。


◇ヴィルヘルム:歓迎――ようこそいらっしゃいました。

        二人のご来訪を楽しみにしていました。


●N①:顔を覆う仮面を被った紳士がひとり。

    丁寧ていねいな口調であるも、しゃべり方はどこか機械的であった。


□ハイネ:お前が、ハイラント諮問しもん委員会の――


◇ヴィルヘルム:提案――まずは落ち着いてください。


□ハイネ:はっ!


◇ヴィルヘルム:色々とお話したいことがあるでしょう。

        まずは、お二人とも、席についてください。



(間)



◇ヴィルヘルム:どうぞ、私のお気に入りの紅茶です。

        安心してください、薬や毒などは入っておりません。


▽ユティ:それじゃあ、いただきます……わぁ、おいしい!

     紅茶って苦いって聞いていたから避けていたけど、

     こんなにおいしいものなのね!


◇ヴィルヘルム:喜んでいただけてホッとしてます。

        それでは、自己紹介を。

        ――私の名前は、ヴィルヘルム・リリエンタール。

        以後、お見知りおきを。


▽ユティ:ぶっ! ゲホ! ゲホッ!

     プロフェッサー・リリエンタール!?

     どうして、あなたみたいな大物が!!

     てか、いつも目元しか隠していないのに!!


□ハイネ:仮面の天才科学者……ヴィルヘルム・リリエンタール。

     なるほどな、名が知られている以上は下手に行動は出来ない。

     ――こんな形で貴方の様な偉大な科学者に出会うとはな。


◇ヴィルヘルム:恐縮――ですが、私はもう科学者としては老兵です。

        前途有望な貴方たちと比べたら、私の名声は過去のものです。


□ハイネ:それで今は、あらゆる手段を用いて違法な実験を行う研究所や

     企業をつぶし、そして犯罪者に正義の鉄槌てっついをくだす事にご執心しゅうしん

     というわけか?


▽ユティ:ちょ! ハイネ!!


◇ヴィルヘルム:いいんですよ、リーズベリーさん。

        ウィリアムズさんのことは、間違っておりません。

    

□ハイネ:否定しないんだな。


◇ヴィルヘルム:はい――それが我ら、ハイラント諮問しもん委員会の

        活動であり、目標でもあります。


□ハイネ:――話を逸らしてしまったな、本題に戻そう。


◇ヴィルヘルム:ええっ、そうですね。

        ――ウィリアムズさん、リーズベリーさん。

        あなたたちは、スターロンバー研究所の件で、

        私との会談を臨んだ……そうですね?


□ハイネ:そうだ。


◇ヴィルヘルム:質問――知りたいことはなんでしょうか?


□ハイネ:スターロンバー研究所について委員会が知っていることを

     全て話してもらおう。

     ――私は、アスクレピオス・ラボラトリーの統括補佐とうかつほさとして

     NSインダストリーの罪を告発するつもりだ。


◇ヴィルヘルム:……NSインダストリーの罪を告発、ですか。

        疑問――罪を犯したのはNSインダストリー〝だけ〟でしょうか?


□ハイネ:…………。


◇ヴィルヘルム:推測――どうやら、私と同じ考えがあるそうですね。

        今回の会談について、委員会は当初反対意見が占めていました。

        皆々が「口封じのために来る」と言っていましたから。


▽ユティ:そりゃあ、行動調査部の奴らだったらあり得ない話じゃないけど……

     安心して、私たちは生憎あいにく、奴らと違って野蛮やばんじゃないから。


□ハイネ:ラボは確かに利益のために真相を隠蔽いんぺいしたが、

     法や倫理に背いた人体実験とあれば話は違ってくる。

     ――これは許されない事であり、私には真相を

     追求する責任がある。

     立場は違えど、委員会と同じ信念だと考えている。


◇ヴィルヘルム:同意――我々、ハイラント諮問しもん委員会は法と倫理に

        背いた研究の根絶を考えております。

        我々の行為が、人類や文明の進歩をはばめることに

        なろうとも。


▽ユティ:なら——


◇ヴィルヘルム:疑問。


▽ユティ:えっ?


◇ヴィルヘルム:我々が苦労して集めた情報を、あなたたちに

        提供するメリットとはなんでしょうか?


▽ユティ:そ、それは……


◇ヴィルヘルム:お答えできますか、ウィリアムズさん。


□ハイネ:――お前たちも私と同じ状況なのだろう。

     真実に近付こうとしているが、壁に当たっている。

     だから、こうして私たちと話をしている。


◇ヴィルヘルム:…………。


□ハイネ:それに、私の権限を使えばラボや政府からの協力も得ることが出来る。

     ここで協力関係を結ぶことに互いに利がある筈だ。


◇ヴィルヘルム:――理に叶った回答です。

        質問――あなたが連れ出した被験者はどうしていますか?


□ハイネ:ラボの医療部で治療を受けている。


◇ヴィルヘルム:彼女は……生きているんですね。


▽ユティ:ええっ、そうよ。

     医療部とウチの部が全力で治療を行っている。


◇ヴィルヘルム:そうですか、あの被験者は——


□ハイネ:待て。


◇ヴィルヘルム:どうしましたか?


□ハイネ:被験者と言うのはやめろ。

     あの子には、ステラ・ディーツという名前がある。


◇ヴィルヘルム:理解――なるほど、ロイドの言葉通りですね。


●N①:そう言って、ヴィルヘルムは自身の仮面を外す。


▽ユティ:えっ!? どういうことなの……


□ハイネ:ロイド……なのか……?


●N①:目の前にいる人物はヴィルヘルム・リリエンタール。

    しかし、顔はロイド・ヴィーデマンであった。


◇ヴィルヘルム:――驚かれましたか?

        ロイド・ヴィーデマンは、私の弟です。

        年は離れていますが。


▽ユティ:えっ、アイツ、こんなすごいお兄さんがいたの!?

     って、待って! ファミリーネームも違うし、

     確か、プロフェッサーってを50を超えて——


◇ヴィルヘルム:色々と聞きたいことはあるでしょうが。

        今はひとまず置いておきましょう。


□ハイネ:それよりもロイドの言葉とはどういうことだ?

     まさか、アイツは……


◇ヴィルヘルム:同意――委員会のメンバーです。

        彼が、今回の会談開催を強く推しました。


▽ユティ:だから、アイツがエージェントとして……


□ハイネ:それがお前の言うサプライズか?


▽ユティ:だって、アイツが来るもんだと思ったんだもん!

     そしたら、遥に超える事が起きちゃったんじゃない!!


◇ヴィルヘルム:声帯模写、開始。

        ――「兄貴! あのヒトはちょーっとめんどくさい人だけど、

           ステラを助けたいと思う心は本物だ!」

        ――「あのヒトなら、きっと公正に物事を判断してくれる

           はずだ!」

        ――「主観的な意見なのは理解している」

        ――「だけど……お願いだ、あのヒトの力になってくれ」

        声帯模写、終了……どうです? そっくりでしょう。


□ハイネ:ロイドがそんなことを……


▽ユティ:それじゃあ、アイツはスパイなの?!


◇ヴィルヘルム:否定――ロイドは純粋にアスクレピオス・ラボラトリーの

        就職を希望されていました。

        リーズベリーさん、あなたの講演が決め手だったそうですよ。


▽ユティ:へ、へぇ~

     あいつがそんなところがあったんだ……


◇ヴィルヘルム:――話がれてしまいました。

        ウィリアムズさん、これが私たちが知る情報です。


●N①:ヴィルヘルムがひとつの封筒を差し出した。


□ハイネ:協力してくれるのか?


◇ヴィルヘルム:ですが、忠告でもあります。

        今回の事件は、ユグドラシルの科学界……いや、

        国家規模に関わる重大な事件となるかもしれません。

        私が知る限り……ここまで人命が軽視されたものはありません。

        事実は残酷です。

        ――この事件は私たちの想像以上に困難なモノとなるでしょう。


●N①:そして封筒から資料を取り出し、ある単語が目に入る。


□ハイネ:――『雷霆計画(トール・プロジェクト)』?



【Ⅳ】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部/部長室>


□N③:時間を元に戻す。

    コーネリアはラボの医療部長室にいた。


☆コーネリア:急がないと! 気付かれる前に!!


□N③:彼女の反省は、治療におけるストレンジラブの魂胆こんたん

    知るための賭けであった。

    それは上手く行き、彼女はストレンジラブのPCを操作していた。


☆コーネリア:きっとあるはず……どこかに今回の治療に

       ついてのファイルが……


□N③:一心不乱に目的のファイルを探し続ける。

    やがて、あるファイルを見つけた。


☆コーネリア:――『雷霆計画(トール・プロジェクト)』?

       これは——!


□N③:モニターには、「機密指定」と注意書きがある計画書だった。


☆コーネリア:なにこれ……国務省のエンブレムがある……

       コードネーム『ステラ』……そんな、どうして……


△ヴェルナー:――ダメじゃないか、勝手に他人のPCを見るのは。


☆コーネリア:っつ!


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン、君は全てを見てしまったのかな?


☆コーネリア:ぶ、ちょう……?


△ヴェルナー:ああ、別にとがめたりしないさ。

       いつかは、君に知ってもらう必要があったからね。


☆コーネリア:どういうこと……?


△ヴェルナー:「機密指定」の文字が見えただろう?

       申し訳なかったね、中々話すことは難しかったんだよ。

       そのせいで君に実験の意義を十分に伝えることが出来なかった。


☆コーネリア:――やっぱり、これは治療ではなく実験だったんですね!


△ヴェルナー:…………。


☆コーネリア:部長は、ステラの治療をするためにじゃなく、軍と共謀きょうぼうして

       あの子を能力者にして……人間兵器にするつもりだったんですね!!

 

△ヴェルナー:はぁ……ドクター・エンゲルマン。

       そもそも、覚醒かくせい療法を考案したのはどこの国の、どこの組織かい?


☆コーネリア:えっ……


△ヴェルナー:どの国よりも瘴気被曝しょうきひばく者を苛烈かれつ迫害はくがいし、アークホルダーたちを

       便利な道具としか考えていない帝国が考案したものだ。

       ウィリアムズ統括補佐とうかつほさもそうだが、君も理解していなかったのかね?

       ――その時点で、これが人体実験なのは明白だろう?


☆コーネリア:何を言っているの……?

       「目先の誘惑に負け、思慮が欠けた無責任な行動は科学者には

        許されない」

       ――あの時、私に教えてくれた言葉は嘘だったんですか!!


△ヴェルナー:……この計画は、あるひとりのアークホルダーの

       存在から始まったんだ。


☆コーネリア:私の質問を——


△ヴェルナー:まあ、話を聞きなさい。

       その人物の名前は、メテオール・エクシア。

       『雷霆らいてい』と恐れられた――世界を滅ぼす力を持つ能力者のひとりだ。

       今はもう死んでしまったがね。


☆コーネリア:そのヒトとステラに、何が関係あると言うのですか?


△ヴェルナー:――ステラは、メテオールの複製人間(クローン)だよ。


☆コーネリア:えっ……



【Ⅴ】


<???>


□N③:時は数年前にさかのぼる。

    ユグドラシル連邦内にある、とある研究所。


●エクシア:ううっ……


△ヴェルナー:おや、目覚めたのかね?


●エクシア:わ、たしは……っつ!


□N③:女性は目を覚めると自分が拘束されていることに気付いた。


△ヴェルナー:無理に動かないほうがいい。

       君は今、満身創痍まんしんそういの身だ。


●エクシア:ここは、どこだ……?

      それにお前たちは——


□N③:すると部屋の扉が開かれ、ひとりの女性軍人が入ってくる。


△ヴェルナー:おや、これはこれは〝少佐〟じゃないか。


▽軍人:彼女は目覚めたのか?

   

△ヴェルナー:ああっ、無事に生きていたよ。

       それにしても、痛めつけすぎじゃないかね?


▽軍人:相手はあの〝雷霆らいてい〟だ。

    生け捕りにしただけでも感謝することだな。


△ヴェルナー:あはは、わかっているよ。


●エクシア:生け捕り……雷霆らいてい……はっ!


□N③:即座に今の状況を理解した女性は、拘束具を壊して、

    すぐさま起き上がって臨戦態勢に入る。


▽軍人:無駄な抵抗はよせ、メテオール・エクシア。

    ここに運ばれた時点で、貴様の運命は決している。


●エクシア:何故……


▽軍人:んっ?


●エクシア:何故、私を狙う?!

      私はただ、故郷に帰ってきただけで……


▽軍人:故郷?

    ククク……アハハハハ! 笑わせてくれる!

    お前を含めた一族は我が国を裏切り、帝国に隷属れいぞくした咎人とがびとだ。

    ――罪の清算をするべきだ。

    〝雷霆らいてい〟の力を有効活用させてもらう。


●エクシア:私は……もう戦いに身を置きたくない!


▽軍人:世界を滅ぼす力を持つアーク・ホルダーが何を言う?

   

●エクシア:我らの一族は、この力におぼれて多くの罪のない命を奪ってきた!

      この力は永遠にほうむりさるべきだ!


□N③:そう言って、女性は近くに会ったメスを持ち、自らの首に突き立てる。


▽軍人:自害するつもりか?


●エクシア:そうだ! これ以上、この力で悲劇を起こしてはいけない!!

      もう一族は、私しかいない!

      私が死ねば、命と共に〝雷霆らいてい〟の力は消滅する!


▽軍人:ちっ……どこまで、ふざけたマネを!


●エクシア:あぁ……これでやっと私は解放され――


□N③:そう言って、女が自身の首を突き刺そうとした瞬間だった。


●エクシア:うっ!!


□N③:突如として女性は痙攣けいれんし、気を失ってその場で倒れ込んだ。


△ヴェルナー:――私の様な素人同然の人間に隙を見せるとは、

       相当追い詰められていたようだ。


▽軍人:ストレンジラブ、貴様!


△ヴェルナー:安心したまえ、神経麻酔銃を撃っただけだよ。

       時間が経てば目を覚ますよ。

       ――少佐、私にひとつ提案があるんだがね。


▽軍人:なんだ?


△ヴェルナー:彼女は死を望んでいる——なら、死なせてあげようじゃないか。


▽軍人:何を言ってる?


△ヴェルナー:だが、その前に素材として有効活用しよう。


▽軍人:はっ……?


△ヴェルナー:少佐、〝雷霆らいてい〟の力というのは実に素晴らしいモノだよ。

       君たちと戦ったときに彼女が放ったいかずちは、まるで神の所業だった。

       私はすっかりと惚れこんでしまった。

       だが……能力の持ち主がこれではダメだ。

       彼女の複製人間クローンを作ろうじゃないか!

       遺伝子が同一であれば、問題ない。

       現に能力の継承けいしょうにおいて遺伝が大きくかかわっている。


▽軍人:ストレンジラブ……貴様、正気なのか?


△ヴェルナー:何を言うんだ、少佐。

       探究を何よりも求める科学者が、正気じゃないのは当たり前だろう。

       さあ、新しい〝雷霆らいてい〟を作ろうじゃないか。

       彼女を入れる培養液が必要だ、いや……それだけじゃない!

       潤沢な資金に、最新鋭の設備、そして誰にも邪魔されない

       場所も必要だ!

       あぁ……偽物の身分も必要だ。

       名前を考えなくては……そうだな、困ったことに、

       私はネーミングセンスが皆無なんだ。

       そうだ、自身の名前をもじってみよう!

       ――うん、決めた。ウェゲナー・スターロンバーにしよう!


【Ⅵ】


<アスクレピオス・ラボラトリー 医療部/部長室>


△ヴェルナー:――かくして、メテオール・エクシアの複製人間クローン

       の作成が始まった。


☆コーネリア:(※絶句して何も言えなくなっている)


△ヴェルナー:それでも苦労したよ、新しい生命体を創り出すという

       神の真似事をしたもんだから、失敗を何度も繰り返した。

       作っては捨て、作っては捨て……作業の様に多くの金、

       資源、そしてヒトの命を使い捨てにしたのは、普通に

       生きていては経験する事が出来ない貴重なモノであった。


☆コーネリア:あ、あなた……


△ヴェルナー:んっ?


☆コーネリア:ステラはただの使い捨ての実験体で、道具やモノのだと

       思っているんですか!

       例え複製人間クローンであったとしても、ステラ・ディーツの命はひとつしか

       ないんですよ!


△ヴェルナー:もちろん貴重な人物だと思っているさ。

       彼女は今まで産み出されたクローンで最高傑作だ。

       現に〝雷霆らいてい〟の片鱗へんりんが見え始めている。

       彼女の貢献こうけんはきっと歴史に刻まれるだろう。


☆コーネリア:正気ですか!?

       人体実験は非人道的で、我々、科学者にとって

       許されざる所業です!

       あなただって科学者のはずです!!

       どうしてそんなことができるんですか!!


△ヴェルナー:……理解できないな。

       優秀な君であるなら理解できるはずだ。

       あらゆる分野において、科学は数多あまたの犠牲

       があって解明されてきたものだ。

       人間の命だけじゃない、ヒト以外の動物と

       植物の命を犠牲にしてきた。

       特に医学や生命科学はその最たる例だ。


☆コーネリア:たとえそうであっても、今を生きる私たちは、

       過去と同じ轍を踏まず、犠牲を産み出さずに

       科学の進歩に取り組むべきです!!

       あなたの様に犠牲ありきを行うことは科学ではなく、

       犯罪です!!


△ヴェルナー:やれやれ……自分たちはその犠牲によって

       得られた恩恵を受けているのに、それを

       非人道的と批難する事は偽善ではないのかね?

       ――ステラの暴走によって研究所は爆破され、

       それによって彼女は重度の瘴気被曝しょうきひばく者となってしまった。

       通常の医療機関ならばさじをなげるのを君は全力で救い出し、

       我々は明日に困らないよう彼女に衣食住を与えている。

       そうした恩恵を受け、彼女はこの偉大な実験に貢献している。

       多くの瘴気被曝しょうきひばく者は困窮こんきゅうあえぎ苦しみ、国が違えば

       家畜以下の扱いを受ける。

       そういった他の者たちと比べたら彼女は幸せ者だ。


☆コーネリア:だとしても、そんなの……間違ってる……!!

      

△ヴェルナー:彼女は科学への貢献こうけんを果たしている。

       なら、君はどうだ? ドクター・エンゲルマン。

       科学のともがらとして、科学に身を捧げる君が科学を否定するのか?


☆コーネリア:違う! わたしは——!!


△ヴェルナー:落ち着き給え、ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:はっ!


△ヴェルナー:――君の強い責任感を、私は高く評価しているんだ。

       君がステラを救ったおかげで、『雷霆計画トール・プロジェクト』が進められる。

       君の功績だよ。


☆コーネリア:違う、こんなの違う!

       私はステラの命を救うために、あの子に元気になって

       ほしいために!!


△ヴェルナー:ドクター・エンゲルマン。


☆コーネリア:ゆるさない……あなたがしたことはゆるさない!!

       こんなこと、ステラだけじゃない!

       アスクレピオス・ラボラトリーに対しても冒涜ぼうとくしている!!

       この件は必ず……ウィリアムズ統括補佐とうかつほさに報告させてもらうから!!

       彼ならきっとあなたのしたことを許したりしない!!


△ヴェルナー:――本当にキミは、統括補佐とうかつほさのことを信頼しているんだね。

       君はスターロンバー研究所について世間が何処どこまで

       知っていると思う?

       ヒューリンデンの爆破事故からそれなりに期間が

       経過しているが、真実を報道する記事はないだろう?

       ただの研究所の爆破事故として扱われているだけだ。

       そういえば、この件については統括補佐とうかつほさが調査をしていたね。

       ――これは何を意味しているか、わかるかね?


☆コーネリア:うそ……うそよ……


△ヴェルナー:君も見た通り、プロジェクトは国が関わっている。

       それに対して幹部である彼が知らないはずはないだろう。

       ほら、見たまえ。


□N③:ストレンジラブが計画書のある場所に指をさす。

    そこにはハイネの署名があった。


☆コーネリア:そんな……


△ヴェルナー:もちろん、彼だけじゃなくフローレンス統括のサインもある。

       彼と私は考えが違うため衝突することはある。

       だが、根本である実験の成功を願うのは一緒なんだ。

       この間の統括との話でも、ステラの暴走についての話題があった。

       彼は言っていたよ、暴走した際は自らが対処しラボを守ると。

       ――君に足りないのは覚悟だ。

       それは彼から学ぶ必要があるようだ。


☆コーネリア:あっ……あっ……


△ヴェルナー:君が真に気持ちが変わったら言ってくれ。

       君は優秀だ。

       衝突したとしても、ドクター・エンゲルマン、

       君は私の意思を継いでくれる者だと信じている。

       ――だからこそ、私を失望させないでおくれ。



(To be continued...)

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