フクロウの不動産屋
朱ねこ
小さなお客様
チリン。
ドアにかけられた鈴が鳴る。
「いらっしゃい」
今日のお客様は随分と背が低い。
「あ、あの! ひっ」
黒いとんがり帽子から見えたオッドアイの瞳が怯えている。
青と赤という対照的な色。色違いの瞳は、魔女界では珍しい。
「おっと。驚かせるつもりはなかったんですよ」
顔を反対に回してびっくりされない位置にする。
「ようこそ、フクロウの不動産屋へ。私は店主のフクロウ。お嬢さんはどのような工房をご所望で?」
私は魔女に必要不可欠な工房を紹介している。
問いに対する答えは沈黙。私は首を傾けたくなるのを我慢する。
「お嬢さんのお話を聞き、私のおすすめ工房を紹介させていただきたいです。よろしいでしょうか?」
今まで、私は魔女の無理難題にも応えてきた。
火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雪の中に設置できる工房。
足をはやして大陸の端から端まで移動できる工房。
幾度爆発しても壊れない丈夫な工房。
想像した形に変形する工房。
すべてのお客様にご満足頂けた事実が、私の自信へ繋がっている。
「おねがいします」
小さなお客様がこくんと縦に頷くと、金に輝くさらさらなツインテールが揺れる。
目を大きく開きよくよく見ると、黒のマントには細かな刺繍が入っている。家柄がよいのだろう。
「お客様、お名前は?」
「……ヒナです」
「ヒナさん。可愛いお名前ですね。では、雛鳥がたくさん産まれる工房はいかがでしょうか」
ヒナさんは、今度は首を横に振る。
もう少しお話を伺いましょう。
「ヒナさんは、工房で何をつくりたいのでしょうか?」
「……わたしは、ガラスをあつかうまほうがとくいです」
「つまり、ガラス職人ですね?」
ヒナさんのまぶたが少し落ちた。
ヒナさんの様子。ガラスの扱いを得意とする魔女。家柄。稀少なオッドアイ。
一つ、当たってほしくない推測が浮かぶ。
「ヒナさんは、他の工房にも足を運ばれましたね?」
「はい。ですが、子どもだからと、どこもおいだされました」
そうですよね。内心で返事をする。
この小さなお客様は訳アリなのだろう。
家に戻る選択肢はなさそうだ。
「……ものと会話できる工房はいかがでしょうか」
「ものと?」
「ええ、工房に入った道具たちとです」
オッドアイに光が宿る。
「または、フクロウの不動産屋の中にある工房というのはいかがでしょうか。私も、ひとりで寂しいですからね」
ヒナさんを受付の裏に案内する。
「いいの……?」
「魔女にご満足頂ける工房を紹介することがモットーなのです」
強張っていたヒナさんの頬が少しだけ緩む。
「お買い上げありがとうございます」
歓迎を表すために目を細めて笑顔を作ってみると、また小さな悲鳴をあげられた。
魔女の皆様へ。
ご要望に合う工房を必ず紹介します。
フクロウの不動産屋に是非お任せください。
フクロウの不動産屋 朱ねこ @akairo200003
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