第24話 エピローグ

 セクティは、ユリを見送るためにアーディアとナイラディアの境界にまで、見送りに来て居た。プロポーズはしているが、

拒否られて居る状態だ。


 セクティ:「ここまでよ、見送れるのは、ここまでだから」


 事前に結婚は出来ない旨を伝えてあったのに、母親から内諾を獲得してくるなど、陰謀を巡らせたことを問題視して、カコはご機嫌斜めなのだった。

 ご機嫌が斜めであるのに、見送りには来てくれる辺り、やっぱり、優しいなあなどと、ユリはデレていた。


 ユリ:「セクティさん、今まで、ありがとう」


 カコは怒って居るから、反応しない。


 ミラ:「カコ姉、婿殿が出発するって言ってるぞ。オル〜ナイ間のしこりも取り除かれて、ナイラディアは、アーディアの疎開地指定になったから、これからは、アーディアとナイラディアの交流はもっともっと進むだろう。


 カコ姉が何を危惧してるのかが、あたしには分からないよ。そもそも、ナイ様、いや、お母様が承諾してる以上、結婚させられることになるんじゃないの?」

 イマ:「まさかユリ君が、おねーさんの旦那さんになるとはね。おねーさんは、脳汁出まくりですわ。良い子を沢山生みますからね」

 カコ:「貴方達の、そ~言う所が嫌いなのです! 私の目が黒いうちは、絶対に体は使わせませんからね」


 以前にも、ユリを性的に弄っていたミラと、ショタコン(少年愛)の気のあるイマに警戒心を募らせるカコ。

 セクティの中でユリを巡って、様々な駆け引きが繰り広げられるのだった。そんな大人な駆け引きとは無縁のチックがユリとの別れを惜しんで、ユリに語りかける。


 チック:「ユリさん、いつも練習して、くんなガード使えるように成りますからね! また、会いたいです」


 チックは名残り惜しそうに泣いた。


 タック:「おう、カコ様の体調管理は、任せておくれよ!」

 テータ:「ナイラディアからでも、ユリ様の情報は逐次手に入れて置きますからね。ご安心下さい」

 ユリ:「ありがとう。また、すぐ会えるさ。それまで、セクティさんのこと、頼んだよ」 


 落ちて来たのとは、逆に今度は長い長い階段を昇って行く。ユリの姿が小さくなるとセクティ、いや、カコは、小さく手を振ってくれた。ユリも元気に手を揺り返す。


 ユリ:「 今は、お母様の顔を見に帰るだけだから! また来るよ!!」

  

 そう言って、階段を昇って行った。階段を昇って行くと、一本道だが、幅広の道に出た。いよいよ、アーディアに着いたのだ。

 確かにアーディアなのだが、知らない土地に出たようだった。だが、ナイラディアから長い階段を独りで昇って来たのだから、御宮まではまでは、すぐだろう。心が弾んだ。泣きべそをかいていた自分は遥か遠くに見えた。

 進んで行くと、三叉路に行き着いた。行くべき道は、来た道を除くと、右と左の2択だ。

 考えあぐんでいると、三叉路の交点に、黒尽くめの天使が座って居た。ラーハムと同じ天使かな? それくらいの印象で黒尽くめの天使をスルーしようとした。


 アーリ:「おやおや、坊っちゃん、坊っちゃん。あっしを無視するとは、あんまりでは無いですか?」


 そう、話しかけてきた。ユリは、なおも無視して、周りをキョロキョロと見て、気付いて居ない振りをして通り抜けようとした。

 黒尽くめ天使は、慌てたように、ユリに語りかけた。そして、戯(おど)けたように、手を大きく広げ、さも目立ちたがりたいように、ばぁと言って飛び出した。


 アーリ:「無視しないで下さいよ。これでも見えなかっただなんて、言われないでしょう?」


 ユリは、面倒なことになったぞと思った。路地で会った人が、向こうから話掛けて来るなど、向こうから見て、こちらはカモでしか無いからだ。

 向こうが狙うものときたら、ホルスか悪戯の成功による愉悦くらいなものだろう。どちらにしても、どちらかの道の一方には罠が仕掛けられているのは、九分九厘は間違いはない。面倒だ、面倒だ。早く帰りたいのに。

 ユリは一度騙されて酷い目に遭っている。サギルカスのことだ。あいつも初めは人畜無害の様に振る舞って、他人の心の隙間に入り込んで来るのが手口だった。

 あれは同じリトルゴッドだったが、こちらは天使だ。宇宙の方式だと、見た目から怪しい詐欺が主流なのだろうか?

 それとも本当に困っていて、頼みごとをしたいだけの人ということはなのだろうか? だが、その頼みごとも曲者ではないか。今、時間は取られたくない。悩ましい。

 そんなことをユリが考えていると、黒尽くめの男は、自己紹介を始めた。


 アーリ:「あっしは、天使のアーリと申します。実は、人探しをしておりましてね。ラー・ハームという極悪人を探しております。こいつは凶悪犯なのでね、逮捕に力をお貸し頂きたく思っておりましてね」

 ユリ:(おっと、正解が飛び込んできた。ラー・ハームだって? ラーハムのことじゃないか。我が友ラーハムは、天使達から追われる存在なのだった。

 天使達に腐敗が蔓延しているので、ラーハムが意見を述べると、他天使達と衝突が増え、争いにまで発展したのだと、ラーハムは言っていた。

 問題は、この場をどう切り抜けるかだ。当然、ラーハムの情報をやる訳には行かない。ラーハムは、親友だ。ラーハムは、お母様にも師事し、兄弟弟子とも言える間柄。確かに、こんな感じの人と付き合って居ると、ラーハムが落ち込みがちだった気分を抱えていたのも分かる気がする。

 ラーハムは、天使であることに誇りを持っていた。しかし、天使は天使のホルスであるヤンキーに依存する様になった。ヤンキーに溺れる様になったのだ。

 目の前の人物が、どの様な人物であれ、あのラーハムを捕まえて、極悪人で凶悪だなんて、この人の標準は狂っている。恣意が入って居る。

 それが感情的なものなのか、ホルスにより歪められたものなのかは、相手の事情も分からないので、断定は出来ないが、自分自身の判断は、この人物の判定は、黒。体色が既に黒ではないか。でも、ここは念を入れて、探りを入れるのも面白い)


 そう思い至ったユリは、素知らぬ振りをして、アーリとの会話に参加するのだった。


 ユリ:「ごめんなさいね。今は先を急ぐので、時間を取られたくないのさ。それで見えない振りをしてみたのですよ。

 貴方の体は、黒いですね。疑うのは当然ですよ。疑わしい人に話し掛けられたら、捜査員であろうとも、疑われるのが当然でしょう。天使組織の管理の不徹底を感じずには居られません」


 アーリ:「おやおや、これは失礼を致しました。自分の体色管理の甘さが天使組織の信用に陰を差す結果に成ったとは、大変申し訳ない次第と思っております。

 しかし、しかし、差別はいけません。予断からの冤罪が、天使界でも問題になっておりまして、その点、アーディア界の皆様にも宣伝広報する必要があると、記者天使達とも話あったことがございます。

 どうかどうか、差別だけは成されませんよう、お願い致します」

 ユリ:「ふむう。確かに差別は行けないことだよね。ごめんなさい、謝罪をします。受け入れて貰えますか?」

 アーリ:「分かって頂ければ、それで良いのです。ところで犯人の目撃などについて、情報をお持ちではないですか?」

 ユリ:「ごめんなさい。天使さん自体を見たことがあまり無いので、貴方を偏見で判断することになったのです。すいませんね。情報は無いです。急ぎますので、失礼します」


 体良く、その場を離れようとしたユリだったが、アーリはまだ離してくれそうも無い。食らい付いてくる。


 アーリ:「お待ち下さい、お待ち下さい。貴方様のお顔はお見かけしたことがありますね。どこで、だったかな? はてはて、最近、とみに情報が増えましてね。このアーディア界に於いても、ピラーが選出されたり、アーディアと諸天使界との関わりも深くなって来て居ります。

 こんな時期にお知り合いに成れたと言うことは、貴方と私めとは、余程、深い縁が有ると思われますよ」


 ユリは、いちいち、長たらしく、慇懃な話し方の、この男は好きに成れなかった。縁があ有るとなどと、御免被りたい。そんな気分だ。

 しかし、ユリは、ここでミスを犯す。早く離れたかったのだ。そんな焦りがミスを呼び込んだのかも知れなかった。


 ユリ「背中の翼は私の知ってる天使と違うみたいだけど、なんで?」

 アーリ:「あっしは、難病を煩いましてね。奇形になったのですよ。シクシク痛む痛みとも戦っている次第です。出来ましたら、御喜捨など頂けますと、励みになります」

 ユリ:「しゃーないね、一万ホルスで良い?」

 アーリ:「ありがとうございます。御喜捨の額で、人の価値が決まる訳では有りません。志こそが重要です」

 ユリ:「上手いこと言うねぇ。馴れてるねぇ。それじゃあ、またどこかで」


 ユリは、その場を離れようとした。悪魔アーリの目が輝いた。獲物を捉えたときの眼光だ。キラリと輝く。


アーリ:「お待ち下さい、お待ち下さい。貴方は、先程、なんと申されましたか? 天使を余り見掛けたことが無いとのことでしたのに、知り合いに天使が居られる? 

 なるほど、なるほど。その天使はどこに居られるんです? なんと言う天使なのです? さあ、天使の名前をおっしゃって下さい」


 ユリは思った。不味った。故郷が近い所為で気が逸ったか。知り合いの天使などと口走って居た。

 腐敗に溺れる天使としても、この天使はやり手である。出会った時の気の無い仕草とは、比べ物に成らない圧で尋問を仕掛け、その目線も鋭い。

 ユリは、嘘を突き通そうとすることの愚かさをセクティより学んで居た。嘘は新たな嘘を呼び、ドツボと言うのは、その先に控えて居るのだと。ユリは正直に言うことにした。


 ユリ:「私の知ってる天使は、ラーハムさんという方で、私は事故に遭って、ナイラディアまで落ちて居たのだけれど、あちらで親切な人に助けて貰い、やっと、ここまで帰って来たところなのです」

 アーリ:「ほうほう、遭難復帰でございましたか。それはそれは、ご苦労様でした。ところでラーハムとは、聞かぬ名前ですな? どちらかと言えば、アーディアっぽい」

 ユリ:「名前は伝えたでしょう。もう行って宜しいか? 気が急けるので」


 気が急けるのは、事実だった。良い加減にしてくれ、そんな気分だ。


 アーリ:「おやおや、おやおや。お待ち下さい。どこかで見た顔だと思ったら、ピラーのユリセウさんでは無いですか? これは良い縁を得られた。握手をして下さい」


 アーリは、本当に嬉しいらしく、握手をしてやると、強い調子で両手で握って来たをして来た。

 その後、おべっかを何やら沢山述べて居たが、ユリはユリで、ラーハムのことを突っ込んで聞かれやしないかと、緊張していたので、全く聞いて居なかった。

 その後、お気を付けてと、丁寧に送り出され、やっとのことで解放された。


 ユリは、天界に帰って来た。落下してから、実際には、数日も経っていないはずだが、ユリは成長し、青年と成っていた。

 ここは何もかも変わっていない。ユリのピラー就任は、既に号外が刷られ、容姿風体は、広く内外に伝えられている。


 門番:「ユリ王、お帰りなさいませ!」


 門番に敬礼を返す。母を探して急ぎ帰る。庭園に入ったところで、マピィと出会う。


 ユリ:「マピィ、お母様は!?」

 マピィ:「坊ちゃん!? 奥様!!パピー兄様!! 坊ちゃんがお帰りになりました!」


 パピーもマピィの声を聞き付けて、駆け寄って来る。


 パピー:「坊っちゃん、お帰りなさいませ。奥様も喜ばれるでしょう」


 ユリ:「パピー、マピィも健在で何より。それだけでお母様の健在は分かる、嬉しい」


 パピーは、やや顔を曇らせ現状を告げる。エリは心労が祟り、急激な老化をしてしまったとのこと。ユリの急ぐ気持ちに拍車が掛かる。エリの寝室の扉を開ける。

 そこには、エリが居た。間違いなく我が母エリだ。だが、その加齢がエリの心労を表して居た。ユリは申し訳ない気持ちになった。


 ユリ:「ごめんなさい、お母様」


 ユリは、それだけを絞り出すのが精一杯だった。


 エリ:「良く帰りました。心配しましたよ。お帰りなさい。貴方のことは、ラーハムより、報告を受けて居りました。この度は、ピラーへの就任おめでとうございます。これらから、大変ですね」


 母のその言葉が、どれ程、嬉しかっただろう。ユリは号泣した。


 ユリ:「それで、ラーハムは?」


 ユリは、キョロキョロと見回すが、ラーハムの姿は見えなかった。


 エリ:「あれは、天使界に帰りました。あれも、追われる身ですからね。ここでは目一杯、戦えない。」


 ユリは、ラーハムのことに思いを馳せて居たが、エリの傍に居る2人の少女に気が付いた。1人は愛想が良く、1人は無愛想だ。


 ユリ:「この娘(こ)達は?」


 ユリは、エリに聞いてみた。


 エリ:「リナリートとセリィよ。リナリートは、私の娘。セリィは私の孫で貴方の娘よ。もう一人、ハーという曾孫も居るけれど、それは別のときにね」


 ユリ:「えーーーーーーーっ!?」


 思わず、大きな声が出た。自分のことでも色々あったが、ここで状況の変化は理解を超えてた。

 しかも、そのことに自分も関係している。その様な記憶は無い。しかし、母への信頼が、この場の真正を示していた。母は良い加減な納得をしない女性だ。

 そして、何より目の前の自分の娘と名乗る少女、セリィと言ったか?、彼女の表す真正さの圧力は半端無いオーラを放っている。出会ってから彼女は、ジト目でこちらを見つめている。

 ユリは、環境の変化にたじろぐばかりだ。

 

 リナリート:「リナで〜す、宜しくね、お兄ちゃん」

 セリィ:「今の状況で、私が笑顔になる必要が?」


 リナリートは、笑顔で愛嬌ある微笑みを見せる。だが、セリィは相変わらず、無愛想で不機嫌顔だ。エリには既にタメ口だ。

 エリの話に拠れば、父テューは生きていたのだそうだ。それどころか外で作った子供を育てろと置き、また出奔したのだそうだ。飛んでも無い父親だ。

 でも、それは親同士の話だ。問題は、セリィという身に覚えのない子供。この子は、何なのだろう? 

 気になる。セクティさんとは、まだ結婚式も挙げていない。他の女性との子となると、更に身に覚えが無い。圧倒的に気になるが、自分以外の男の子供が、成り済ましをしている線は、やはり気になる。

 方法は分からぬが、お母様を取り込んで、孫認定も成功させてしまっているところを見ると、かなりの知能犯な気がする。

 などと考えているところを、セリィをチラッと見ると、無言ながら、凄く怒っているのが、見て取れた。

 混乱する、ユリ。


ユリ:(え? なんで怒ってるの? 心の中なら、失礼なことも思っているけれど、心の中でも読めるのかな?? 不気味な娘だ)


 怒りながらも、黙って居る姿を見て、誰かに似て居ると思った。

 セクティ・・・、いや、カコだ。無口、ブー垂れ、でも可愛い感じがカコにそっくりだ。いやいや、私には、そんな経験は、まだ無い。有ったとしたら、重大な記憶喪失だ。私の心は弱っている。お母様も同じ手口で、やられたのだ。敵は手強いぞ。

 私はピラーだ。ピラーの地位を狙う何者かの、手先と思われる。そいつを炙りだすことが必要だろう。それにしても、誰の子なのだろう? 話す糸口が見えず、まごまごして居ると、セリィが話しかけて来た。


 セリィ:「コンというカナンをご存知でしょう? あのカナンがセクティの中に居る、カコ、イマ、ミラの3人の魂と貴方ユリの魂を結び付けたのです! 魂の量子ゆらぎ状態から産まれたのが、私なのです!! 身に覚えが、お有りでしょう!?」


 ユリはハッとした、コン!! アイツか。アイツは、私が指示した悪戯を杜撰(ずさん)に解釈して、そこにある魂を全て繋げてしまったのだ。腑に落ちた気がした。

 コンに指示した赤い糸の計画。でも、アイツ、律儀に計画やったんだなと感心してみる。どうせやるなら、カコちゃんだけで良かったのに。無鉄砲な2人の因子も付いているとすると、先々、面倒なことが待っている気がする。

 これを見ても、どうやら本当にセクティと私の子らしい。見てると、3人の面影がチラつく気はした。


 セリィ:「母上のところに向かいますよ、父上!」

 ユリ:「いつ?」

 セリィ:「今すぐ!!」

 ユリ:「えーーーー??」


 まだ故郷に帰ったばかりで休みも取れない内に、根拠はあるとは言え、娘と自称するだけの少女に急かされて、少女の母を目指して旅をすることになる、ユリなのでした・・・。しかし、その話は、別の話です。    

 (おわり)


第24話 セクティアドバイス 完結

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セクティアドバイス 福田英人 @Marduk03

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