最高の物件

緋色 刹那

🏘️👻

 住んでいるアパートの取り壊しが決まった。

 これを機に、新しい土地へ移るのもいいかもしれない。僕は不動産屋で内見の予約を入れた。


 最初に案内されたのは、新築のマンションだった。


「キレイな部屋ですね」


「女性に人気の物件です。駅近、バストイレ別、オートロック完備、ロフトもございます」


 予算は大幅オーバー。やはり新築は厳しい。

 おとなしく、中古の物件に絞ってもらった。


「こちらの物件はいかがでしょう? お客様がお住まいになっているアパートとよく似ていますよ」


「うーん。安心感はあるけど、新鮮味に欠けるなー」


「では、あちらの戸建ては? 訳アリで、アパートより安くお住まいになれます」


「へー……って、中に血だらけの女の人が! まさか、事故物件?!」


「あら、気になります?」


「なるに決まってるでしょ!」


「弱りましたねぇ。あと紹介できるのは、マンションだけなのですが」


 最後に訪れたのは、団地を改装したシェアハウスだった。僕好みのレトロな建物だ。


 ドアを開けると、最高の空間が待っていた。


「いらっしゃーい!」「新しい人?」「けっこう若いね」「どこから来たの?」「これ、食べる?」「ちょっと、足踏まないでよ!」


 おびただしい数の人、人、人。薄暗く、蛍光灯が不気味に点滅している。

 テレビ、電話、パソコンなど、必要な家電は一通りそろっていた。


「家賃はみなさんと折半です。百名近く住んでいるので、今ならタダ同然で住めますよ」


「最高の物件じゃないですか! 僕、ここに決めます! どうして最初に案内してくれなかったんですか?」


 不動産屋は寂しげに微笑んだ。


「すみません。こちらにお住まいの方はどなたも退去されようとしないので、つい」


 僕は首を傾げた。

 それの何が悪いんだ? 僕らはいつまでもいられる住処を求めているんじゃないか。


 僕はその日のうちに契約し、新居へ引っ越した。




 廃墟となったはずの団地に、今日も大勢の笑い声が響く。

 成仏する者は誰もいない。


(了)

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最高の物件 緋色 刹那 @kodiacbear

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