座敷童子が出る家

右中桂示

軽々しく触れてはいけない

 重厚な存在感のある立派な日本家屋に、ナリトは内見に来ていた。


「いやあ、趣のある良いお屋敷じゃないですか!」

「歴史の長い旧家ですからね」

「いかにも座敷童子がいそうです」


 ここはとある大企業の会長の生家だった。

 そして座敷童子が棲んでおり会長と企業の成功はそのおかげなのだ、との噂がまことしやかに語られていた。


「どうして売りに出されたんです?」

「維持管理が大変ですからね。相続された息子さんは座敷童子を全く信じていないようですし」

「あれだけ成功していたのに?」

「純粋な実力だと考えているようです」

「そういうものですか」


 話を切り上げ、中を案内される。

 内装も外観同様に立派な造りだ。家具などはないが、畳やふすまや欄間、庭までが芸術品のよう。


 しかしナリトはろくに説明を聞かずキョロキョロとするばかり。

 噂に興味を引かれての観光気分だったからだ。話の種になればいい、程度の軽い気持ちで座敷童子探しを楽しんでいた。


 が、ゾッと鳥肌が立つ。


「え?」


 廊下に、それはいた。

 おかっぱ頭に赤い着物、赤ら顔の、幼い子供。妙に不気味な雰囲気でじっと佇んでいる。


 瞬きを繰り返す。見間違いではない。

 確かに、そこにいた。


「どうされました?」


 訝しげに振り返られ、裏返った声で答える。


「いやほら! そこに座敷童子が!」

「はい?」


 指差したが、子供は消えていた。

 探しても見つからない。

 怪訝な顔を無視し、興奮気味に質問する。


「この家、今は誰もいませんよね?」

「はい」

「近所に子供は?」

「子供がいる家庭はありません」


 生身の子供ではない。

 幻か。

 いや本物だ。あの存在感は間違いない。


 ならば、ここに住めば幸福になれるはず。


「決めました! 契約します!」






 座敷童子。

 主に子供の姿であると伝わる妖怪、あるいは神。

 座敷童子がいる家は栄える。見たら幸運が訪れる。

 等、様々な話が残っているがその中には、、というものもあった。

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