第33話 いつか星になりたい

 全ユニットがパフォーマンスを終え、結果発表の時が訪れる。集計が終わり、僕達はステージの上で祈るように結果を待った。


(どうか夢魔インキュバスに勝てますように)


 負けたら『夢魔』に移籍。そう約束をしているからこそ、負けるわけにはいかなかった。他のメンバーも緊張した面持ちで結果を待っていた。


 そして訪れた結果発表の瞬間。司会者は集計結果の紙を手にしながら、ステージの中央に立った。


「1年生デビューライブ。栄えある頂点に輝いたのは……」


 心臓が暴れまわる。息の仕方さえ忘れていた。

 会場にドラムロールが流れた後、司会者は一位のユニット名を口にした。


「カンパネルラ!!」


 わぁっと歓声が溢れる。盛り上がる会場とは裏腹に、僕は驚きのあまり放心していた。


(え? いま僕らの名前が呼ばれた?)


 実感が湧かない。ぽかんと口をあけて固まっていると、夏輝くんが人懐っこいわんこのように僕に抱きついてきた。


「勝った! 勝ったよ、俺達! 一番だって!」


 ぎゅーっと抱きつかれて、肩に顔を埋めている。身体を揺さぶられると、ようやく現実味が湧いた。


(そっか僕らは夢魔に勝ったんだ。それだけじゃない。一年生ユニットの中で頂点に輝いたんだ)


 いまだに信じられない。僕らが一番なんて。


 海斗かいとくん、瑛士えいじくん、ひじりくんも、興奮したように抱きついてきた。


「やったな! まさか一番に選ばれるなんて!」

「すげーじゃん、俺達! 最高だ!」

「あっはっは! 俺達が天才だってことを証明できたな」


 みんな思い思いに喜びを露わにする。その一方で、隣で控えていた氷室ひむろは頭を抱えていた。


「なんてことだ! 夢魔が負けるなんて。こんなの夢だぁぁぁ!」


 その後、司会者は観客からのコメントを発表した。


「アンケートからはこんな声が寄せられていました。『歌やダンスは荒削りだけど、可能性を感じた』『5人のチームワークの良さが伝わってた』『ラストの夏輝くんと詩音くんの演出が最高』とのことです」


 ラストのサビについて言及されてドキッとする。あれは演出じゃなくて、勢いでやってしまっただけとは言えない。


 夏輝くんと目が合う。ふわりと穏やかに微笑みかけられた。


「これで証明できたね。しおりんがカンパネルラに必要な存在だって」


 その言葉は、どんな賞賛よりも嬉しかった。


 4人で完成されていたカンパネルラ。そこに僕が加わったら、彼らの輝きが損なわれてしまうのではと恐れていた。だけど違った。


 メンバーからも、観客からも、必要な存在だと認められた。僕は、正式にカンパネルラの一員になれたのだ。


 司会者がこちらにやってきて、マイクを向ける。


「はい、じゃあカンパネルラの詩音くん。一言もらえるかな?」

「ええ? 僕?」


 突然マイクを向けられて慌てふためく。大勢に注目されているのが伝わった。

 いまだ興奮の冷めないまま、僕は宣言をした。


「これからもみなさんに推してもらえるようなアイドルになります!」


 巨大なアリーナは、歓声と拍手に包まれた。


~☆~☆~


 ライブを終えて、僕らは楽屋に戻る。心臓はまだドキドキしていた。

 心を落ち着かせるように深呼吸をしていると、夏輝くんから肩を組まれる。


「ライブ、どうだった?」


 突然距離が縮まったことに驚きながらも、ありのままに答える。


「最高でした! ステージの上から見る景色があんなに綺麗だなんて思いませんでした!」


 夏輝くんは嬉しそうに目を細める。そんな彼に、思いの丈をぶつけた。


「初めは、陰キャにアイドルなんて務まるはずがないって思っていました。だけど今日ステージに立って、考えが変わりました。こんな僕でも、誰かを笑顔にできるんだって分かったんです」


 眩しいほどのペンライトの光と、たくさんの笑顔に包まれて、心を動かされた。同時にはっきりとした願望も芽生えた。


「僕、アイドルになりたいです! アイドルになって、もう一度この景色を見たいです!」


 夏輝くんの瞳に光が宿る。それからキラッキラの笑顔を浮かべた。


「うん! それでこそ、俺の最推しだ」

「最推し!?」

「うん。詩音は俺の一番好きな人」


 カアアっと顔が熱くなる。思わず両手で顔を覆った。


(最推しに最推しって言われた。嬉しいっ!)


 夏輝くんから応援されたことで、もうひとつの目標ができた。勢い余って、口にする。


「僕、夏輝くんが推して、推して、推し倒したくなるようなアイドルになりますっ!」


 夏輝くんはぱちぱちと瞬きをする。それからふふっと吹き出すように笑った。


「へぇー、押し倒していいんだ?」

「ええ? はい」


 おかしなことでも言ったか、と不思議に思いながら頷くと、夏輝くんから妙に色っぽい視線を向けられた。


「じゃあ俺は、詩音が推して、推して、押し倒されたくなるようなアイドルになるよ」


 推し倒されたくなる? ちょっとおかしな言い回しだけど、応援されるような存在になるという意味で合っているだろう。


 疑問を残しつつも夏輝くんとじゃれ合っていると、他のメンバーも集まってきた。瑛士くんは、けっと顔をしかめながら吐き捨てる。


「まーたお前らはベタベタしてんのかよ。つーか、ラスサビでの演出は何? あんなの打ち合わせになかっただろ?」


 瑛士くんの言葉に、海斗くんもうんうんと頷く。


「あれは衝撃的だった。完全に二人の世界が出来上がってたからな」


 マズイ。勝手な演出をしたことで、メンバーから顰蹙ひんしゅくを買ってしまった。ビクビクしていると、聖くんが突拍子もない発言をした。


「ならばいっそ、そういう売り方をしてみたらどうだ? 天才的な発想だろ!」

「はあ?」


 瑛士くんは声を荒げる。その隣では、海斗くんが腕組みをしながら、悪い大人の顔をした。


「確かに、その戦略はありだな。BLで二人を売り込むのも面白い」

「おい、マジかよ……」


 打算的な考えで僕らをくっつけようとする海斗くんを見て、瑛士くんはゾゾゾッと引いていた。


 そんな中、経堂きょうどう先生が楽屋にやって来る。


「みんな、おめでとう。だけど、ここで満足するんじゃないぞ。トップアイドルへの道のりは、まだまだ長いんだからな」


 経堂先生の厳しいコメントで、ハッと気づく。


(そうだ。僕らはまだ、1年生デビューライブで頂点を取ったに過ぎない。学園一のアイドルになるには、上級生のユニットにも勝たなければならないんだ)


 それだけじゃない。僕はこっそり、海斗くん、瑛士くん、聖くんの様子を窺った。


(この三人も重い過去を背負っているんだ。しがらみから解き放って、才能開花させないと)


 幸い僕は、みんなのキャラストを読破済みだ。ゲームの知識を活かして、彼らと向き合うことだってできる。


 こんな所で終わってはいけない。僕らの青春はまだ始まったばかりだ。


~☆~☆~


 夜空に輝く星には、手が届かないと思っていた。だけど違った。


 前世の僕がうっかり死んでしまったことで、運よく銀河鉄道スタートレインに乗ることができた。


 そこには夏輝くんをはじめ、大好きな推し達が乗っていて、輝く星に向けて出発していた。


 いまはもう、見上げているだけの存在じゃない。彼らと一緒に、輝く星に向かって走り出しているんだ。


 いまはまだ、淡くて頼りない光だけど、いつか夜空を照らす星になりたい。



~第一部 完結~





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スター☆トレイン ~アイドル育成ゲームの世界で「推し♂」と青春をやり直します~ 南 コウ @minami-kou

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