才の選択肢

空峯千代

屑と宝が対等でいるためには

 宝の友人である鵜飼くんが、僕らの家を訪ねてきた日が一週間前。

 たまたま来客中にリビングへ降りてきてしまった僕を、宝が鵜飼くんに紹介してしまったことから始まった。


「あ、こんにちは~。鵜飼です」

「伊能才…です」


 宝の友人こと鵜飼くん。

 彼は、コミュニケーション能力が高くて気さくな人だった。

 どちらかというと初対面の人と上手く話せない僕にも、気を遣ってそれとない温度感で話してくれる。

 

「せっかくだし、伊能くんも物件の内見来る?」

「内見?」

「そ、俺の引っ越し先探し」


 どうやら、引っ越し先の相談役として宝を指名しに来たらしい。


「意見は多い方がいいし、伊能くんは観察力ありそうな気がするからさ」

「それはどうかな…あんまり自信ないけど」

「まあまあ、もし嫌じゃなかったらおいでよ」




 結局、僕は内見当日に宝と二人で出向いた。

 待ち合わせの場所に行くと、すでに不動産屋の人と鵜飼くんが物件前で話し込んでいる。


「友達二人とも来たんで。早速内見お願いします」


 不動産屋のお兄さんは「こちらにどうぞ」と、僕らを先導してくれた。

 僕と宝について何も言わないところを見ると、先に鵜飼くんが説明してくれたんだろう。

 さりげない手際の良さが、どことなく宝に近い気がした。


「キッチンは広い方がいいですねー」

「ユニットバスはな~」

「うーん…間取りがイマイチ!」


 撤回する、全然似てない。

 宝なら不満があっても、不動産屋のお兄さんにその場で言わないだろう。

 鵜飼くんはかなりハッキリとした物言いをするタイプだった。


 五件目の物件もお気に召さなかったようで、内見は終了。

 ひきつった笑顔のお兄さんを尻目に、僕らは帰り道を歩いた。


「付き合ってもらって悪いけど、もうちょい考えるわ」

「気にしなくていいって。ゆっくり決めたらいいよ」


 それじゃ、と手を振る鵜飼くん。

 手を振り返して見送る宝に、僕は思わず声が出てしまった。


「え、二人で遊ばないの?」

「ん? どっか寄りたいとこある?」

「僕じゃなくて鵜飼くんと」


 宝は本当に不思議そうな顔をして僕を見る。


「今日は内見に付き合うだけだったし」


 目を何度かしばたたかせる宝に、僕はひとつ納得した。

 宝にとっての友達って、本来これくらいの距離なんだな。


「コンビニ寄って帰ってもいい?」

「…何買うの?」

「肉まん。半分あげるから才も食べよ」


 見慣れた帰り道。

 街灯の先にあるコンビニ。

 いつもの柴犬を散歩させているおばさんが通りかかった。


 この景色があたりまえで無くなる日はいつか来る。

 宝が隣にいる帰り道を一度捨てないと、僕はずっと大丈夫になれない。

 

「そういえば、才が内見に付いてくるの意外だったなー」

「……まあ、なんとなくかな」


 コンビニから外へ出ると、やはり寒い。

 宝が半分に割った肉まんは、心なしか僕の分の方が大きかった。

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才の選択肢 空峯千代 @niconico_chiyo1125

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