まだ分からん

@Ichiroe

第1話

ある陰鬱な雨の日のこと。


地形が迷宮のように複雑な中央都市のスラム街——粗末な様式をした建物の間の大通りで、一人特に上品に見える礼服を着た精錬な顔立ちの老人は、傘もささずに、左手で宝石を嵌めてある杖をつつきながら、泥だらけで、生活ゴミがあちこち散らばってある道を進んで行く。


キョロキョロと首を振り回すその様相からして彼はどうやらここで何かを探しているようだ。


突如と遠い空に纏わりついた暗雲の切れ間から、ひとすじの光が閃過した時、老人は急に何かに気付いたように目を細め、そのまま歩みを止めた。


「待ち伏せか……」


彼が白い髭に埋められた口を開け、低い声で独り言を吐き出してから合間もなく、どこかで誰かの声が大きく響いた。


「囲めえ!」


——ホロンロンー。


静寂を破った雷鳴と共に、周りの建物から出て来た数十の銀の鎧を被り、柄に帝国紋章が刻まれている剣を携える騎士達が迅速に円陣を取り老人を取り囲んだ。


「大人しく杖を捨てれば手荒な真似はしない、大魔術師・アフルード殿」


聞こえたその洗練された女声はさっきの騎士様への号令の声とはまったく同じものだった。


声の主は全身を覆った厚い黒色の鎧を身につけ、細長い眞白の槍を握りしめながら、路地に通じる建物の間にある曲がり角から馬に乗って悠然と姿を現した。


「小僧……いや、小娘よ、貴様が帝国騎士団の団長、ロゼッタ・イーステリアか……?」


「そうだ」


「ならば、これは一体誰の差し金だ?私は宮廷魔術師だぞ?!」


「言わずとも分かっているだろう、我々を動かせるのはシュヴァイン皇族だけだ」


「まさか、この私の忠誠を疑っているのか……?」


「さあな、彼女の考えは誰にも分からない。だが忠告する、今のイーステリア大陸上、誰であろうとかの一族には逆らえない、それがたとえ貴殿ほどの強者であってもな」


憂いげに眉を顰めてアフルードは俯き、杖を方を見詰め、沈思した後、それを遠くへ投げ捨て、丸腰となった。


「賢明な判断だ」と、ロゼッタと呼ばれた黒騎士はそう言い褒める。


「……ふん、私はこれからどうなる」


「どうなっても死ぬよりはましだろう」


ロゼッタそう言った後、隣で従え立つ騎士達に小声で命じた。


——あれをつけろ、と。


彼らはお互いに視線を交わって、共にアフルードの方に近寄って行いく。


「ロゼッタ、これは何の真似だ?」


とアフルードは少し焦った形相を顕して彼女に向かって問いかける。


「すまないが、少し保険措置をさせてもらおう」


ロゼッタの顔を隠したヘルメットからはロボットのような冷たい声が外に漏れる。


「何をする貴様らあ!離せっ、離せえ……!!あああああー!!!」


あの騎士たちがなり振り構わずに喚き続けながら抵抗するアフルードを地面に押さえ込み、彼の手首と足首にそれぞれ真っ白の枷をつけたその瞬間、彼の顔は感じた苦痛に歪まれ、発狂したように叫び声を上げ続ける。




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