果てにあったもの……。
「ふぅ~、今日も働きましたっと」
未だに慣れない農作業に体が悲鳴を上げる。
ここは限界集落の中でもまだまだ元気な人が多い村の移住者用の畑だ。
自分が何処に消えたのか分からなくするために全国を転々として、ここに辿り着いたのが二年前になる。
あれからもう四年の月日が経とうとしている。
あの後、俺は学校に退学届けを出して姿を消した。
両親には、法律上勘当しておいてくれとだけ連絡した。
こうすれば、両親の戸籍から抜けた俺だけの戸籍ができるからだ。
彼奴の恋人や妹、その親友、そして彼奴のバイト先の女性のあられもない画像や動画はすべて消し去った。
もし、それらが残っているとしたら、脅す目的で相手側に送り付けたものぐらいだろう程に徹底的に消した。
復元もできないようにハードディスクやスマートフォンを物理的に粉々にした。
彼奴を死に追いやったことを後悔はしていない。
良く復讐は何も生まないというが、それは本気で復讐をしたことがない人間が言うことだ。
彼女が死んで、彼奴がのうのうと生きていることが我慢ならなかった。
だが、目的は達成された。
その達成感たるや言葉に表せないほどの快楽だ。
ただ、その後にやってくる寂寥感と後味の悪さが付き纏うのだけは堪らなかったが……。
最近になり、ちょっとした拍子に復讐のために穢した彼女たちを思い出すことがる。
彼奴の妹とその親友は、高校を卒業したはずだ。
彼奴の恋人と俺の恋人だった彼女たちは、大学を卒業して社会人になっているはずだ。
そして彼奴のアルバイト先の女性は、……歳のことには触れないでおこう。
たしか20代半ばのはずで、もう結婚でもしているだろうか?
あんなことに巻き込んだことに後悔はしていないが、それでも罪悪感はある。
自分勝手ではあるが、幸せになっていてほしいと思う。
「ホント、自分勝手だな……」
自嘲気味に笑う。
しばらく歩けば、自分が住んでいる移住者用の家がある。
一人で住むには広すぎる家だが、住み心地は最高だ。
あと少しで家に着く。
今日の夕飯は何にするか考えていると、家の玄関の前に見慣れない車に五人の女性たちが大きなキャリーバックを片手に佇んでいた。
なんとなく嫌な予感が頭の片隅を過ぎる。
まさか、そんなことはない。
彼女たちが追い駆けてこれないように、いや、そもそも追い駆けてこないだろうと思いながらも万が一に備えてあちらこちらを転々として、絶対とは言わないまでも彼女たちが追い駆けてこないと確信が持てたからここに移住者として住み着いたのだ。
それが約二年前のこと、それからたったの二年で追いつかれるだなんて……。
余程、俺のことを恨んでいるのだろうな。
とうとう俺も年貢の納め時か。
なら最後はだらしない姿を晒すことなく、覚悟を決めて行きますか。
「あっ!帰ってきた」
「本当だ」
「やっとたどり着いた」
「「……」」
昔の面影を残しながらも、綺麗になった5人の女性たち。
「お前達だったら、もっといい男がいるだろうに何で……」
俺を見つめる瞳には、いったいどんな感情が渦巻いているのだろうか?
俺から見るに憎悪に染まっているようには見受けられないが、果たして俺に何の用があるのだろう?
「勝手に私たちの前から姿を消したんだから、覚悟はできてるわよね?」
「ここまで来るのに四年もかかったんだから、覚悟しなさい」
「一生をかけて責任取ってもらうんだからね」
「そうですよ、私たち二人なんか性奴隷にまで堕とされたんですから、ご主人様として責任取ってもらわないと!」
「うんうん、一生ね」
絶対そうは思ってないであろう笑みを浮かべながら、宣う五人。
「「「「「そう簡単には死なせてあげないんだからね!」」」」」
結局、彼女たちには俺の本心なんて一欠けらも隠せてなくて、バレバレだったわけだ。
それとも、これは君を追って死のうと考えて、でも彼女たちが心配で死ぬことができなかった俺に対する君が用意した
もし、そういうことだったのなら、もう少しだけ待っていてほしい。
必ず君の所にいくから……。
夕日に染まる空を見上げながら彼女に心の中で語り掛けると、彼女たちを家の中へと招き入れるのだった。
断罪の果てにあるもの……。 龍淳 燐 @rinnryuujyunn
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