まさに理想の物件

笛吹ヒサコ

まさか、家が更地にされるとは考えもしなかったので

 事故物件専門の不動産屋があるという噂があるのは、知っていた。知ってたけれども、自分とは無縁だと右から左に聞き流していた。そのときは、まさか家なしになるなとは考えてもなかったのだ。

 家がなくなって初めて家の存在の大きさを思い知った。

 家が、家がほしい。

 今ではすっかり減ってしまった同類たちのツテでどうにか、件の不動産屋の戸を叩いた。そうして初めて知ったのだが、事故物件専門の不動産屋というのは事業の一部だということだった。


 これだけは譲れない条件をいくつか提示すると、担当のピンク髪でサイケな女はピッタリな物件があると言う。

 善は急げ、思い立ったが吉日、こんな素晴らしい物件早く契約しなければ後悔しますなどなど、まくしたてられながら不動産屋に行ったその足でそのまま内見に行くことに。帰るところもない、行くあてもないので、願ったり叶ったりなのだが、正直担当のテンションと強引さは苦手だ。


「こちらは、日当たり最悪、風水は絶望的な上に、なんと三方を墓地に囲まれているので、一番近い隣家まで徒歩十分なので、ラップ音、ポルターガイスト可というお客様のご条件にもバッチリ★ なおかつ、悲鳴も異臭も全然オッケーです。どうです? 雰囲気、条件、最高じゃないですか?」


 たしかに理想の物件だった。地震がなくても倒壊しそうな平屋。そして庭の片隅には……


「あちらの祠、なんかヤバそうですけど、お客様に比べたら全然大したことないですよ。今にも消滅しそうな忘れられた土地神なんで。なんなら、弊社で取り壊しちゃいましょうか? もちろんサービスで」

「あ……あーあ」


 取り壊すのはもったいないと、首を横に振る。


「他に気になることがあったら、遠慮なくおっしゃってください!!」


 パパンパンッパンッパパン パパンパンッパパンパパンパパン パンッパンッパパンパパン パパンパパンパンッパパンパンッ パンッパンッ パンッパンッパパン パパンパンッパパンパンッ パンッパパンパンッパパンパンッ パパンパンッパンッパンッ  


「えーっと、以前お住まいだった方は、ご家族を呪い殺して成仏されてますね」


 それは安心して住めそうだ。前の住人の怨念の残滓もすぐに上書きできるし、オプションのクリーニングも依頼せずにすむ。

 ニタっと舌を抜かれ裂けた口で嗤うと、担当は淀んだ目で手を叩いて喜ぶ。


「契約成立でよろしいでしょうか?」

「あ、あ゙あ゙」


 指がねじれた手を差し出すと、両手で握り返されてブンブンと上下に振り回された。やはりこのテンションは苦手だ。


「では、早速本日よりこちらにお住まいとり憑きなってください。今週中には生きの良い生者を住まわせますので、徹底的に呪ってやってくださいね☆」


 望むところだ。

 事故物件専門の不動産は、呪いを請負おう会社の事業の一部だった。彼らが送り込んでくるターゲットを呪い続ける間は祓われる心配もない。


パパンパンッパパンパンッパパン パンッパパン パパンパパンパパンパパン パンッパンッパパン パンッパンッパパンパパン パパンパパンパンッパンッ パンッパンッ パパンパンッパパンパパン パンッパパンパンッパパンパンッ パンッパパンパパンパパン パパンパパンパンッパパンパパン パパンパパンパンッ パンッパパンパンッパンッ パンッパンッ パンッパンッパパンパンッパンッ パンッパンッパパン 


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まさに理想の物件 笛吹ヒサコ @rosemary_h

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