内見で外見ばかり気にする奴

日和崎よしな(令和の凡夫)

内見で外見ばかり気にする奴

 客が来た。物件を探していて内見したいのだという。


「写真とかアテになんないから。とにかく内見させて」


 条件の提示もなく内見させろと言われても困るが、とりあえず最寄りの物件に案内した。



 一件目。一人用には大きい一軒家。


「ここは南に大きな窓がありまして、駅からも――」


「あ、それより外観を見せてくれる?」


 庭にまわった。


「あー、ダメ! 壁の色がダメ。他の物件見せて」


「わかりました」



 二件目。ボロアパート。


「ここは浴室とトイレと洗面台が一緒ですが――」


「あー、ダメ! 外の壁が汚い。シミだらけ」



 三件目。高級マンション。


「外見を気にされるなら、こちらはいかがでしょう」


 なかば当てつけに外観はいい高級マンションを紹介してやることにした。


「あー、惜しい! あそこに小さい汚れが……。でも他は汚いとこばっかだし、決めちゃおうかなぁ……」


「あの、ここはけっこうお高いですよ」


「あ、そういうのは気にしないんで」


 この人、本当に外見しか見ていない。

 だったらいっそのこと……。


「あの、お客様。もっと良い物件に心当たりがありまして」


「え、それを早く言ってよ」



 四件目。超絶ボロアパート。


「トイレは共同で風呂なし。床はきしむし、建てつけが悪く隙間風がひどい。しかも事故物件のオマケ付き。でも、外観だけはいいでしょう?」


 さっき電話して急ぎでペンキを塗らせたのだ。


「外観いいやん! ここに決めた!」


「よっしゃ! チョロッ!」


 そのとき、物陰から数人の人が飛び出してきた。テレビカメラを構えている。


「こんにちは! テレビ番組で『内見で外見ばかり気にしていたら、外見だけ良くて内装がひどい物件を売られる説』っていうのを検証していたんですけども」


 やってもうたー!


「やはりチャンスだと思われました? 心苦しさとかはありませんでした?」


「あちゃー。事前に言ってくださいよ~。知ってたら美容室に行ってきたのに~」


 客役の男に手の甲で胸を叩かれた。


「あんたも外見派かいな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

内見で外見ばかり気にする奴 日和崎よしな(令和の凡夫) @ReiwaNoBonpu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ