3.お誘い

 冬が過ぎ、春が来た。私は2年生になっていた。だからといって何かが大きく変わったわけでもない日々の中で唯一変わったことといえば、毎日彼女から送られてくるメッセージが画面を賑わすことだろうか。学校の話や部活の話、彼女が好きなロックバンドの話。大した意味はない、それでいて私にとっては大きな意味を持つやり取りは、いつも22時頃に始まる。

 風呂から上がり、髪をドライヤーで乾かし終わった私はベッドの上に寝転がっていた。イヤホンを付け、彼女の好きなバンドの新曲を流しながらスマホを右手に持ち漫画を読んでいると、枕元に置いたスマホが震える。

《新曲聴いた?》

《もちろん聴きましたよ》

メッセージを送信する音が鳴った後、少し寂しげなメロディーに乗ったボーカルの優しい声が耳元に響く。

《めっちゃ良かったよね!》

《ですね》

彼女に勧められて聴き始めたバンドは、いつの間にか私のお気に入りになっていた。その後も曲がどうだ、バンドのメンバーがどうだ、というメッセージを送り合っていた。

《話変わるけどさ》

《はい》

ほぼ反射的に指が動く。

《今週末空いてる?》

画面に浮かんだ文字を三度読み返した私は、無意識のうちに左手を胸に当てる。もしやこれはデートのお誘いでは無いのだろうか。いや私は何を考えているんだ、自意識過剰も甚だしい。そう考えながら右手の親指で文字を打ち込む。

《日曜日なら1日中空いてます》

画面に緑色の吹き出しが表示されてから既読の二文字が付き、彼女からの返信が返ってくるまでの時間は気の遠くなるような、それでいて一瞬の不思議なものだった。

《じゃあ一緒に映画見に行かない?》

《この前言ってたやつ面白そうだし》

数日前に話していた映画のことを思い出した私は、小さくガッツポーズをしながら慎重に言葉を選ぶ。

《分かりました》

送り返した6文字は、どこかぎこちないものだった。

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先輩 ぱんじゃん @TheGreatPanjandrum

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