ヤギさんとキツネさんの、じゅうたくのないけん

豆腐数

クソ物件には気をつけよう!!!

 ヤギさんは、キツネのよろずやさんへ部屋を借りに行きました。近所のキツネのよろずやさんは、日用品から賃貸物件まで何でも取り扱っているのです。流石に尻尾が九つも生えているだけはあります。


「部屋を借りたいんだがね」

「ハイハーイ、今手が空いてますから、さっそく見に行きます? と、その前にご予算とどの辺の物件を探してるかご相談せんとですなあ」

「仕事場に楽に通える範囲ならあまりうるさい事は言わんよ、予算は……」


 ヤギさんは、住んでいるアパートの老朽化で、大家さんのウシさんの都合で引っ越すことになったのです。引っ越し費用の負担はしてもらえたので、細かい条件の相談もトントン拍子にまとまって、さっそく候補物件へと二人は足を運びました。



「うるさい事は言わんいうてもなるべく広く安いほうがいいでっしゃろ、ここなんかどうです?」


 キツネさんが案内したのは、森の中の大きなお屋敷でした。古い建物ですが、作り自体はなかなかしっかりしていて、少し手入れをすればまだまだ住めそうです。


「素敵だけど一人じゃ管理が大変だよ、それに予算をオーバーしとるんじゃないかね」

「いやいや、敷金礼金ゼロゼロ円、家賃もそちらの提示金額の3分の1でよござんす」

「何故? 確かに交通の便も悪ければ近くに店もないが……」

「私の遠い遠い親戚が遺産争いで凄惨な殺し合いをしたいわくつきの家でしてねえ、なぁに一日ちょっとずつ生気を吸われて一か月後にはゲッソゲソになるくらいでいきなり殺される事には」

「次行こうか」


 〇


 大きな池の中に水没した家を指さして、キツネさんが笑顔でセールストークをしました。


「こちらは夏も涼しく過ごせると評判なんですよぉ」

「涼しく過ごす前に溺死するだろ」

「魚人族には好評なんですがねぇ」

「俺はヤギだ、次だ次!」


 〇


 豚さんが雑に束ねて作ったような、粗末なワラの家を指して、キツネさんが揉み手をしました。


「ここなんかヤギさんには最高の物件じゃありませんか? ワラの家です!」

「オオカミの一息で飛ぶようなクソ物件だな」

「お腹がすいたら壁も食べられるし……」

「家がなくなるわ!」

「そやったら、食ってもなくならない家ならどうです?」


 〇


 柔らかい植物がひしめき合っているのを繰り抜いて、上手いこと家の形になっている不思議な物件に、キツネさんは案内してくれました。


「ここなんかどうでっせ? 特殊な栽培法で作った、生きたツリーハウス! 再生力もあって食ってもなくならない! 草を見たら即咀嚼、紙を見たら読まずに食べるヤギ族には最高の物件ですぜ」

「セールストークの中にものすごい煽りを感じるが、気に入った! ここにする!」

「まいどあり~」


 〇

 

 後日。おやつの油揚げをかじっているキツネさんの元に、怒ったヤギさんが飛びこんで来ました。


「おい、お前が貸したあの物件! しばらくしたら硬くて食べられたもんじゃなくなっちまったぞ!」

「そりゃーそうでっせ、なんせウドで作ったウドハウスですもん。大木になったらウドは食べられません! なくならないと言っただけで、ずっと食べれるなんて最初から言ってませんぜ」

「クソ、騙しやがったな!」


 悪びれもなくケラケラ笑うキツネさんに、ヤギさんはすっかり怒り心頭です。


「言うてずっと若芽のままだと耐久性も心配ですから、仕方ないですねん。ウドの若芽食べ放題は、入居始めの限定特典だと思ってくださいな」

「うーむ仕方ないか……」

「いうてウドですから、しっかり育ったところで冬になったら枯れちまうんですがなー」

「やっぱり欠陥住宅じゃねーか!」


 キツネさんの頭めがけて、ヤギさんのひづめをふんだんに生かしたドロップキックが飛びましたとさ。

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