エージェント五畳半悟
たたみや
第1話
「こちらが先ほど検索した物件になります」
エージェント
やって来たのは金に困った苦学生。
ボロボロのちゃんちゃんこにパンパースという出で立ちだ。
全く、どうしたものだろうか。
安ければ安いほどいいと言うが、限度と言うものがある。
だが、悟にはとある激安物件に覚えがあったのでここをひとまず紹介することにした。
「この建物は口コミで『十円の物件』と呼ばれています」
「『十円の物件』?
「んなわけねーだろ! オンボロに決まってるだろ!」
悟、激昂!
彼は気が短い。
対人の職に就いている人間にあるまじき性格だ。
彼もまた難物なのだ。
難物同士お似合いなのかもしれない。
「何か備え付けの家電ってありますか?」
「安い家探してるくせにクッソ生意気ですね」
「世の中はね、金払ってる方が偉いんですよ!」
「老害ジジイの戯言みたいなこと言いやがって!」
売り言葉に買い言葉、どうしょうもないやり取りが続く。
悟に物件を売る気はあるのか?
苦学生に物件を買う気はあるのか?
傍から見たら誰にも何も分からない。
「まあ、あるにはあるんですけどね」
「何ですか?」
「蛍の光窓の雪」
「どういうことですか?」
「照明備え付きってことです」
「マジっすか~、すげ~!」
(こいつガチの貧乏だな)
悟が癖の強い考察を始めた。
苦学生になんか大して興味ないくせに。
「あと夏は勝手に暖房が、冬は勝手に冷房が効きますよ」
「う~ん、ハイテク~!」
(これが令和の苦学生か……)
悟の考察は続く。
正直言ってバカにしているとしか思えない。
「あとはゲームも付いてます」
「!?」
「水道管むき出しだから、気分はいつでもマ〇オですよ」
「イッツミ~、マ〇オ~!」
(金をかけない楽しみを一つくらいは覚えておくといい)
これが悟なりの優しさなのだろう。
「実はゲームって言っても一つだけじゃないんですよね」
「まだあるんですか?」
「窓の外をご覧下さい」
悟は窓を開き、苦学生に景色を見せる。
「実は外から競馬場が見えましてね、いつも馬が走っているんです。窓を開けばいつでもウ〇娘」
「う〇ぴょい、う〇ぴょい!」
(これで一件契約成立だな……)
勝ち確だと言わんばかりに自信に満ち溢れた表情の悟。
「それでは契約成立ということでよろしいですか?」
「嫌です」
「買えよ!」
悟再び激昂!
彼の契約成立への道のりはまだまだ遠い。
エージェント五畳半悟 たたみや @tatamiya77
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