悪役令嬢のお宅を訪問したら、ジャージ姿で迎えられた

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

干物令嬢

 わが校で「悪役令嬢」と陰口を叩かれている侯爵令嬢宅を訪問したら、令嬢がジャージ姿で私を迎えた。


「いらっしゃい……まっ!?」


「ご、ごきげんよう。アリアドネご令嬢」

 

 カゼで寝込んでいるというアリアドネ公爵令嬢に、私はプリントを渡しに向かったのだ。

 

「どうしてこちらに、ジュリアネス姫殿下!?」


「あの、溜まっていた宿題のプリントを、持ってまいりましたよ」


 大量の宿題を、私は令嬢に渡す。

 

「それは、どうも。しかし、姫殿下自らがいらっしゃらなくても。使いのモノにお渡しいただければ、受け取りますのに」


「そういうわけにも、参りません。随分と学校をお休みになられているでしょう?」


 病床の身というだけあり、アリアドネ様は弱っておられる。


「立ち話もなんですわ。どうぞお入りになって。お茶を入れさせます」


「おかまいなく」


「いえ。せっかくですもの。わたくしの病気は、人に感染はいたしませんわ」


「ありがとう。アリアドネ様」


 私は、お部屋に通された。


「中古のゲーム機ばかりですのね?」


 異世界の娯楽「てれびげーむ」が、棚を埋め尽くしている。

 私もたまに触るが、あまり得意ではない。


「チキュウとかいう異世界から、取り寄せましたの。これなんて、オススメですわよ」


 こちらによく似た世界の魔法学校を舞台に、女子生徒同士で仲良くなる恋愛シミュレーションだ。


 またこのお部屋には、女性が好むような人形やぬいぐるみの類はなかった。

 あるにはあるが、自身の念動波でチャッチするゲームで手に入れる品ばかり。


 とても、世間で悪役と呼ばれている禍々しさはない。

 普通の干物女の家だった。 

 

「お勉強は、なさっているの?」


「もちろんですわ。そうでないと、触らせてもらえませんもの」


 美しい銀色の髪をオールバックにくくって、アリアドネ様はオデコを出してらっしゃる。


 たしかに、アリアドネ令嬢は、テストなどの日はちゃんと出席をしていた。

 体育などは、座学に関しては高得点である。


 もし殿方ができたら、そんなはしたないマネはできない。


 せっかくチキュウ文化を習っているのだ。

 それまでは、干物女を満喫したい。


「ああ、チキュウ人の女がうらやましいこと。こんな生活を、大人になっても堂々とできるなんて」


「ねえ。大人になんてなりたくないものね」

 

 パーティゲームを遊びながら、もう帰る時間となる。

 

 「それにしても、おうちでは随分とリラックスなさってらっしゃるのね?」


「ええ。けど、ライバルのあなたに見られてしまうなんて」

 

「私も、いえではベビードール一枚でうろついていますわ。お風呂上がりは、冷蔵庫の牛乳を瓶で一気飲みするのが、乙女のたしなみと考えていますの」


「うわ、それ見たいですわ」


「うちにいらっしゃいな」


「よろしくて?」


「よろしくてよ。だってあなたの病気は、人には感染しないのでしょ?」

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