とある不動産営業マンの心霊体験

新巻へもん

サイドB

 いやあ、今日はついてるわ。

 家のテレビで見た情報番組の占いコーナーで水瓶座が今日の運勢1番だったんだよなあ。

 しかも、恋愛運は最高のハート5個、新たな出会いがあるかもだった。

 俺の勤める不動産屋のカウンターに座った2人に、とびっきりの営業スマイルを向けつつ観察する。

 右側に座った大学生ぐらいの女の子はベリーショートで少し少年ぽい感じはするがなかなかの美人だった。

 ただ、あまり物件探しに熱心さは感じられない。

 左に座った女性は社会人なりたてといった年頃で、こちらも化粧っけが全く感じられないのに目鼻立ちが整っていて何とも言えない色気もあった。

 こちらの方は本気で部屋探しをしている感じがする。

 左の子が部屋探しをしているのに右の子が付き合っているのかなと想像した。

 ところが話を聞いてみると2人で一緒に住む部家を探しているという。

 しかも、3LDK以上の部屋を探しているとのことだった。

 路線にこだわりがないのはいいが、駅から徒歩5分以内、治安がいい場所で生活に便利なところという条件もつく。

 予算を聞くと70平米のファミリータイプなら手が届きそうだった。

 早速、営業車で内見に案内する。

 ここは出来るところを見せてポイントを稼いでおきたい。

 個人的にとびきりの美人と親しくなるチャンスである。

 条件に当てはまりそうな2件を見せたが反応はあまりよくなかった。

 特に大学生ぽい子が気が乗らなそうである。

 色っぽい子が俺に笑顔を向けた。

「実はとっておきのものがあるのだろう?」

 金額的に条件にぎりぎり当てはまる物件があるにはあった。

 スペックとしてはかなり上のものである。

 でも、今までは連れて行ったお客さんが具合が悪くなるというハプニングが続いていた。

 そのためにいつまでも入居者が決まらず、オーナーから早く客を付けろとせっつかれてもいる。

 俺は具合が悪くなることはないし、単なる偶然だと思うのだが、そう何度も続くとちょっとだけ具合が悪い。

 クレームになっても困るので、ぼかしつつ格安の物件があることを告げた。

「なに、その言い方。ひょっとして事故物件?」

 大学生っぽい子が嫌そうな顔をする。

 慌てて事故物件には該当しないことを説明した。

「いいね。じゃあ、そこ見に行こう」

 亡霊とか怨霊とかそういうのを気にしないタイプなのか、意外なことに乗り気になる。

 まあ、今までは金額が金額だけに比較的年齢が高いお客さんが多かったから、それで具合が悪くなっただけかもしれないしな。

 この2人が気分が悪くなったんだったら、どこか静かなところで休憩してもいいし、どう転んでも悪くはなさそうだ。

 タワーマンションの一室に案内する。

 眺望のことを説明していたら、目の端に色っぽい子がボーイッシュな子の手を握って屈む動作をするのが見えた。

 次に気が付いたときはいつの間にか、2人がベランダに出ている。

 あれ? いつの間に?

 混乱する俺を気遣うような声をかけられた。

「お兄さん。さっきからぼーっとしてますけど、熱中症ですか?」

「あ、いえ、すいません」

 2人に詫びる。

 どうしたんだろうと不思議に思いながら、設備の案内をした。

 大きな鏡がシンクの奥に設置してある洗面所にさしかかる。

 説明しながらふと鏡を見ると俺の後ろに人影が見えた。

 慌てて振り返るが何もいないし、再び鏡に目をやっても3人の姿しか見えない。

 バスルームの鏡でも似たようなことが起きた。

 背筋がぞくぞくっとして内見を切り上げるように提案する。

 玄関から外に出てほっとしたのも束の間だった。

 閉じかけた扉の隙間から甲高い女の悲鳴のようなものがはっきりと聞こえる。

 お客さんの一人が俺の顔を見て言った。

「どうしたんですかあ? 随分と具合が悪いようですけど」

 お客さんにはこの気色の悪い声は聞こえていないらしい。

 この部屋には何かがとりついていてついに俺を標的に定めたということなのか?

 もう嫌だ。ここにもう2度と案内しに来たくはない。

 ツイてるんじゃなくて、憑いてるだなんてシャレじゃないんだからさ。

 3日後、ボーイッシュな子が正式に借りることを検討したいと言ってきたので、許される限りの下限額を早々に提示して成約済みにした。 

 

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