妖精の住処
くれは
*
妖精の住処の好みは様々だ。
日当たりの良い場所を好む者。暗い場所を好む者。高い場所を好む者。地面の下を好む者。人間好きな好奇心旺盛な者もいれば、人間嫌いだっている。
そんな相手の気質や要望を見極めて、ぴったりの住処を用意するのが、オーパスの仕事だった。なかなか誰にだってできることではない。
特に一般的な妖精は、あまり他の妖精に興味を持つことは少ない。だからまず、相手がどんな妖精なのかなんて気にしない。自分が心地良ければそれで良い、という者が大半だ。
だからオーパスの、相手の好みを把握して住処を案内する仕事は妖精たちには好評だった。
今日尋ねてきたお客様はウテーリアというお嬢さんだった。
背中に透き通るようなトンボの羽を生やしていて、いかにもしっかり者といった風貌と、好奇心に瞳を輝かせている。
両親の元から独り立ちして、住む場所を探しているのだと言った。
「父さんと母さんは、とにかく森の奥にしなさいって言うの。だけどわたしは人間の街に住みたいわ! だって、楽しそうじゃない!」
はしゃいだ様子で語るウテーリアの言葉に、オーパスはなるほどと頷いた。
人間の街に住むにはいくつかのコツがいる。でも、ウテーリアには羽があった。空を飛べるのであれば、比較的安全な場所も勧められるだろう。
「せっかくひとりで暮らすのだから、いろんなものを自分で集めて暮らしたいわね。自分の好きなものに囲まれて暮らすの! 素敵じゃない?」
「ええ、素敵だと思います」
オーパスは頷いて、いくつか候補の場所を見繕って話した。
ウテーリアはそのうちのひとつに目を輝かせて、ぜひそこを見てみたいと言った。
それでオーパスはウテーリアを連れて、人間の街に行ったのだった。
「お気をつけて。見られると面倒なことになるので、姿くらましの魔法をかけておきましょう」
オーパスが手早く魔法をかけたことで、ウテーリアは少し頬を膨らませた。
「あら、それくらい自分でもできたのに」
「それは失礼。まあこれは、サービスのようなものだと思ってください。あなたの魔法は部屋を整えるとっておきのために使う方が良いでしょうから」
オーパスの言葉に、ウテーリアは大人しく頷いた。
「それもそうね。では、早く連れて行ってちょうだいな」
「ええ、わたしは羽がないのでこちらで失礼」
オーパスは大きな葉っぱに乗って、その縁をそっとなぞった。そうすると、その葉っぱがふわりと浮かび上がる。
ウテーリアは自分の羽で飛び上がると、オーパスが乗るその葉っぱの後をついていった。
そうして、人間たちの街を見下ろして飛んでゆき、到着したところは街で一番高い時計塔のてっぺんだった。
「この時計塔には、週に一回掃除と修理の人間がやってきますが、それ以外に人は滅多にきません。それも、屋根と壁のここの隙間、ここは人間の目からも手からも逃れられます」
「何より、人間の街が見渡せるのが素敵!」
「ただ……難点があるとすると、時計の鐘の音がうるさいことでしょうか」
ちょうどその時、時計の針が十二時ちょうどを指した。途端、がらんがらんと大音量で鐘の音が響く。
オーパスは眉を寄せて片耳を覆った。ウテーリアはぽかんと口を開けてその音を聞いていたけれど、鐘が鳴り終えると、ころころと笑い出した。
「いいえ、この鐘の音も気に入ったわ。わたし、ここに住むことにします」
「それは良かった。人間の目にはくれぐれも気をつけて」
「もちろん。ヘマはしないわ。大丈夫よ」
ウテーリアは早速、部屋に置く家具を集め始めることにしたようだった。
それを見て、オーパスは頷くとまた大きな葉っぱに乗って縁を撫でる。葉っぱはふわりと浮いて飛んでいった。
ウテーリアがオーパスに向けて手を振るので、オーパスも振り返した。
「さて、また新しい住処を見つけないとな」
オーパスは、妖精の中でも変人なのだろう。でも、彼自身はそんなこと、ちっとも気にしてなかった。
彼は妖精の住処になりそうな場所を巡るのが、好きなのだった。
妖精の住処 くれは @kurehaa
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