【KAC20242】新生活・下宿の内見
XX
この学生、とんでもねぇな
俺は不動産屋をやっていて。
取り扱う物件には学生向けの下宿屋があるんだ。
下宿屋。
大家さんがご飯を何食か出してくれる、学生には嬉しい仕様の部屋。
そんなに広くなくて、トイレ共用なんてものがざらにあるのだけど、同じ下宿仲間との絆とか、大家さんとの関係性とか。
普通の安アパートやマンションなんかと比較して、得られないものがたくさんある物件だ。
今日のお客さんは親同伴で下見だ。
この春から息子さんが大学生になるらしい。
そのため、同じように今年で卒業の学生にお願いして
「キミの部屋をお客さんに内見代わりに見せて良いかな?」
こう頼んだ。
無論、いくばくかのお礼を渡して、だ。
すると。
「良いっすよ」
快くOK。ありがたや。
下宿は普通の物件と違い、空っぽ状態が無い場合がザラだからな。
皆借りるから。だって楽だし。
だから内見用のサンプル確保が大事なんだが……
上手く行ったよ。
「ささ、こちらですよ」
この部屋の新しい借主になる高校生は真面目そう。
顔つきは穏やかで、頭の角にもアクセサリーつけてないし。
触手も色つや良くて、健康的。
親御さんは脂肪がたっぷり乗ったでっぷりした身体で、とても美しかった。
息子さんを受精したときは、さぞこの人が産んだ卵に男たちが群がったんでは無いかと想像する。
「さあ、息子よ。ここがそなたのこの春からの部屋です」
「はい。親様」
言葉遣いも上流階級をイメージさせた。
……でも、なんで下宿屋なんだ?
こんな人、お金持ちのはずなのに。
下宿屋は便利だけど、お金が無い人が寄って来るイメージあるから。
金持ちはマンション。そう思うんだけどなぁ。
まぁ、いいや。
とりあえず俺は、部屋の扉を開くため、ドアの鍵穴に自分の触手の先端を突っ込み、自分の遺伝子を読み込ませた。
すると、クワ、という音を立てて、ドアが開く。
その様子は生き物の肛門が開く様に似ている。
実に美しい。
……さて、中は……
げっ!
何やってんだ、ここの住人!
メチャクチャやないか!
なんで内見用に見られるのに……
ズリネタの疑似卵が使用済み状態で放置されていたり。
酒精生物の体液を啜った残骸がそのままだったり。
美食生物の脳を食べ尽くした残骸を捨てずに放置してんのさ!
あいつ、こんな部屋他人に見られて平気なんか!?
信じられん!
ゴミは捨てろ!
あと整頓しろ!
「……あ、無論この部屋は新春には綺麗になってます。住人が卒業するので」
あまりの部屋の汚さに絶句している親子2人に、俺はフォローの一言を入れた。
このせいで、この部屋に借り手がつかなかったら俺は困る。
「キャーヤメテー! イヤー!」
「オトナシクシロ! アキラメテオレノオンナニナレ!」
すると俺はそこでさらにとんでもないものを発見した。
ペットだ。
しかも最近流行のやつ。
宇宙の果てに存在する青い色の悍ましい惑星に生息する生物なんだけど。
特筆すべきはその姿の醜さ。
我々と違い、身体表面は湿った粘膜の皮膚では無く乾いた皮膚で。
色は薄い。寒気がするキモさ。
眼はたった2つしかないし。しかも、手足もだぞ?
2本ずつしかないんだ。キモ過ぎ。
体毛は生殖器と頭部、あと腕の付け根くらいしか生えてない。
なんでこんなにキモいのかね。
で、一番意味不明で理解しがたいのが、雌雄で体型が違うことなのよな。
我々は卵を産むのが女、精子を振りかけるのが男なのに。
こいつらは
男の方が体長が大きい。女の方は生殖器が外に出ていない。
そういう違いがあるようだ。
なんでそうなってるのかは意味不明。理解できん。
創造神の悪意で、ねじ曲がったデザインで形作られた外見。
それが、俺がこの生き物を見たときの感想だった。
「ワタシ、カレシイルンデス! オネガイダカラー!」
「ウルサイウルサイ! アキラメテオマエモタノシメヨ! スグニヨクナル!」
……部屋の片隅の飼育ケースの中で、そんなキモイ生物が交尾を開始していた。
嫌悪感しか無いな。
……交尾の後、この生物のメスが自分で命を断ったり、異常行動を起こし始める切っ掛けになるので、この生物の愛好家の間では「交尾の兆候が見られたら、雌雄混合での多頭飼いはやめる。飼育ケースを分ける」こういう記事がネットに上がってたりするんだけどさ。
知らんわ。
ペットの面倒は飼い主が見ろ。
自己責任だ。
……それに大体、この部屋ペット禁止なんだよな。
何やってんだ、ここの住人!(2回目)
【KAC20242】新生活・下宿の内見 XX @yamakawauminosuke
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