捨てん知る

作家:岩永桂

OUR TIME WILL COME!

捨てん知る

内見一回目

「ねえねえ、あの壁のシミって女の子みたく見えない?」

「本当だ! ちゃんと報告しないと

 俺たちの敷金礼金に関わるぞ」

タケルとミサチは新しい愛の巣探しを開始した。

家電製品はお互いの実家にスタンバイ。

異変は内見二回目に起こる。

明らかに、女の子のシミの横に赤い風船が飛んでいたのだ。

ミサチはケタケタ笑っていたが、タケルは内心ムッとしていた。

まるで世界を賑わす落書き師みたいだ。

厳重注意!

「申し訳ございません。前の住人が合鍵を作ったかも知れません。

 連絡が付き次第捨てるようにいっておきますから」


内見三回目。タケルが畳の部屋で職員を怒鳴っている。

リビングとの仕切りのふすまに

(恐らくは)火炎瓶の代わりに

花束を投げようとする兵士の絵が描かれていたのだ。

メッセージ色が強く、既視感も強い作風。


内見四回目。寝室の壁に愛を告げるようなネズミのイラスト。

……イラストっていうか、これはアレだな。

有名なステンシル画と呼ばれる手法だ。

何者かが部屋に侵入して、嘲笑うかのように絵を残していく。

天然さんのミサチも目の前で何が起こっているか

流石に察しはついた様子だが、

落書きさんwelcomeという具合だった。

そんな彼女はあることに気付く。

「ねえタケルン、あのお部屋のスタッフさんって

右手の人差し指だけ黒いネイルしているよね?

オネエ業界の流行りだったりするのかな?」

右手(恐らくは利き腕の)人差し指にだけ、ネイルか……。

気味が悪いが、何か真理に辿り着けたような。

とにかく、前の住人が合鍵を捨てたことが判明出来ないようでは

鍵穴を変える他ないという結論に。

鍵穴を変えても透明人間のように出入りを自由に出来る人間は

知人の中でたったひとり。そうですよね、職員さん。

注意を促してもステンシル画は増える一方だし

内見の日以外に消しに来ることもしない。

今日から入居日迄、寝ずの番だよ。

寝ずの番を駆使して、落書き師をとっちめてやるっ!

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捨てん知る 作家:岩永桂 @iek2145

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