マジカル住宅内見 ~チポン・チポポン・チンポポポン!~

正妻キドリ

マジカル不動産

 これは魔法世界のお話。


 ポートランド王国という国のペールという街で、魔女見習いのエリーが1人暮らし用の部屋を探していた。


「わぁー!すごい!素敵なお部屋ですね!」


 今、彼女は気になった部屋を内見しに来たところである。


「はい~、ありがとうございます!エリー様がご提示なさった条件にぴったりのお部屋だと思いますよ~!」


 マジカル不動産の社員、アイリスが笑顔で言う。


「この部屋に決めちゃおっかな~。どうしよっかな~。」


 エリーは部屋を見回しながらそう呟く。


「私はエリー様にぴったりのお部屋だと思いますが…まだちょっと決定打に欠ける感じですかね?」


 アイリスがエリーに問う。


 すると、エリーは苦笑いを浮かべながらそれに答えた。


「そうですね~…。とってもいいお部屋なんですけど、なんかこう…ちょっと普通過ぎるかな~、なんて…。」


 エリーが申し訳なさそうにそう言うと、アイリスは待ってましたとばかりに食い気味で喋り出した。


「そんなエリー様に朗報で~す!なんとこのお部屋、デザイナーズコラボ物件となっておりま~す!」


「デザイナーズコラボ物件?何ですか、それ?」


 エリーはキョトンとした顔をする。


「デザイナーズコラボ物件とは、複数人のデザイナー達がそれぞれアイデアを持ち寄り、それを部屋のオプションとして再現した物件となっておりま~す!」


 その説明を聞いてもエリーは困惑したままであった。自分の説明がうまく伝わらなかったことを察したアイリスは、慌てて補足説明をし始めた。


「例えばですね!こちらの白色の壁なのですが、一部色が変わっているのがわかりますでしょうか?」


 アイリスが手のひらで指し示した部分をよく見てみると、扉一枚分くらいの範囲が白色ではなく肌色っぽくなっていた。


 エリーはその部分を凝視しながら呟く。


「ほんとうだ…。確かに変わってますね。」


「そうなんですよ!ここにマジカル不動産オリジナルの魔法をかけま~す!」


 そう言ってから、アイリスはポケットから杖を取り出し、軽く咳払いをした。


「チポン・チポポン・チンポポポン!亜空間の部屋部屋へやべやよ、姿を現せ!」


 すると、部屋の中が光り出し、何もなかった壁に一枚の扉が現れた。


「わー!すごい!」


 驚いているエリーに笑顔を向けながら、アイリスはその扉を開いた。


 すると、その先には和風な、畳の部屋が広がっていた。


「こちら、亜空間系デザイナーである、ミスター・ディメンション氏がデザインしたオプションとなっております~!魔法を唱えることで、亜空間に存在します様々なお部屋とこの物件を繋ぐことが出来ます!このような和風のお部屋をはじめ、様々な国のお部屋を再現しておりま~す!」


「へー!すごいですね!」


「ありがとうございます~!このようなお部屋の数はなんと100部屋にも及び、オプションをつけていただくことにより、全部屋使い放題となりま~す!」


「100部屋!?それに全部使い放題!?そ、そんなことが叶うんですか!?」


「はい!もちろん~!」


「でも、お値段の方が高いんじゃ…?」


「いえいえ、そんなことはございません!お部屋は全て亜空間に存在しておりますし、ミスター・ディメンション氏の魔法で全てのお部屋が作られておりますから、とてもお安くなっております!この物件の家賃、5万マドカにオプション代の5000マドカが毎月追加されるだけです!」


「じゃ、じゃあ、月々5万5千マドカで100部屋使い放題ってことですか!?」


「そうなりますね!」


 エリーは破格の値段設定に驚きを隠せない様子であった。


「めちゃくちゃいいじゃないですか!ここに決めます!」


「ありがとうございます!…あっ、言い忘れていたのですが。」


 アイリスは思い出したかのように言った。


「お部屋は全て亜空間に存在しておりますので、偶にその亜空間が不安定になると、そこから出られなくなってしまうことがあるみたいです!まぁ、実際出られなくなった人がいるという話は聞いたことがないので、大丈夫だとは思いますけどね!」


「…。」


 アイリスの話を聞いたエリーは黙りこくってしまった。


「では、お手続きの方を…」


「あの…もうちょっと部屋を見て周ってもいいですか?」


 アイリスの言葉を遮り、エリーが言う。


 アイリスは不思議そうな顔をしながらも、エリーの要望に応えた。


「ええ、もちろん。構いませんよ!」


 エリーは少し気まずそうにしながら、窓の方へと歩んでいった。


「わぁー!すごい!とっても景色がいいですね!」


 エリーは窓から外の景色を見ながら言った。エリーの眼前には、ペールの街並みが広がっていた。


「ありがとうございます~!ペールはとても綺麗な街ですからね~!その街並みを眺めることのできるのも、この物件の良さの一つです~!」


「窓が南向きなのもいいですね!太陽の光がいっぱい入ってきて気持ちいい!」


「ええ!もちろん!お客様にできるだけ快適に過ごしていただけるようデザインしておりますので!」


「いいですね!やっぱりここに決めちゃおっかな~…!」


 エリーは窓の外を眺めながら呟く。すると、アイリスが嬉しそうにエリーに告げた。


「エリーさん!実は、この窓にもデザイナーズコラボのオプションがついております!」


「…えっ?」


 エリーがアイリスの方を向く。エリーから笑顔が消えていた。


「こちらの窓なんですが、預言者系デザイナーのマダム・プロフェ様がデザインされましたオプションがついております。魔法を唱えることでなんと、この窓に未来の景色を映し出すことができます!…まぁ正確には、マダム・プロフェが未来視をして見えたビジョンを、魔法で忠実に再現したものなんですがね!」


 アイリスは笑いながらそう言った後、再び呪文を唱えた。


「チポン・チポポン・チンポポポン!未来の景色よ、窓の外にその姿を現せ!」


 アイリスが呪文を唱えると、窓の外の景色が若干変化を遂げた。


「こちら、未来のペールの街並みとなっております~!」


「み、未来のペール!?これが…!?」


 エリーの眼前に広がる街並みは、先程より多少華やかになっており、人通りも増えていた。


「未来のペールでは現在よりも街が賑わっているみたいです!町おこしの為に『街中お花畑計画』という、街中でお花をいっぱい育てることで、街をお花畑みたいにしよう!というプロジェクトが現在のペールで進められているのですが、その計画が成功したみたいですね~!おかげで居住者や観光客が増えて大賑わい!」


「へー!すごいですね!とってもいい眺め~!今のペールもいいですけど、未来のペールの街並みもとってもいいですね!このオプションをつければいつでも未来のペールを覗き見れるんですか?」


「はい、もちろん!お好きな時にこの活気づいている街を眺めることが出来ますよ!」


「え~、いいな~!やっぱり、ここに決めちゃおっかな~…!」


 エリーは窓のその外の景色をキラキラとした目で眺めながら言った。すると、それを見たアイリスがそれを後押ししようとする。


「ありがとうございます~!この機能とってもいいですよね~!このペールの姿は二年後のものなのですが、もっと先の未来を見ることもできますよ!三年後、四年後、五年後、六年後…と、どんどん先の未来へ!」


 アイリスがそう言いながら杖を振ると、窓の外の景色がどんどん変わっていった。


 街の景色はどんどん華やかになっていき、そして人の数も増え、賑わってくる。


 エリーはその様子をワクワクしながら見ていた。


 すると、突然…


 ペールの街が滅んでいる姿が映し出された。


「…え?」


 エリーは突然の出来事に目が点になった。


「あ、あの…?これは一体…?」


 エリーが戸惑いながらアイリスに問う。


 アイリスは少し沈黙した後、笑顔で答えた。


「どうやら、ペールの街は滅んでしまうみたいですね!マダム・プロフェの予言では、この先の未来で巨大隕石が地球にぶつかると出たそうです!そこを境に地球は崩壊の一途を辿るそうなのですが、たぶんこれはその未来を移しているのでしょう!」


「…あの。…その未来って何年後くらいなんですか…?」


「…十年後となっております~!」


 エリーから笑顔が消えた。


「では、エリーさん!こちらのお部屋、ご契約ということで宜しいですか?」


 アイリスが笑顔で尋ねる。


「…はい。」


 エリーは無気力に返事をした。


「…オプションはどう致しましょうか?」


「…もちろん」


 エリーは言った。


「なしで。」

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