🏘️
「……」
山本は少し困惑していた。
そして佳苗はとても不服そうな顔で山本を見上げる。
「続けて」
「んー……ちょっとやめようよ。おうち屋さんごっこ」
そう、ここは住宅展示場ではない。
とある幼稚園の校庭である。
校庭の土に間取りを年長児の佳苗が書き、佳苗たちの担任である幼稚園教諭の山本が住宅展示場の社員を任せられ、増山佳苗と双子の弟である康二が考案した「おうち屋さんごっこ」をしていたのだ。
どうやら先日の日曜日に二人は両親と住宅の内覧に行ったそうだ。
ここ数ヶ月、彼らの両親が家を建てるために家族で住宅展示場に行っていたそうでおうち屋さんごっこをするようになっていた。
「もぉいいよ違う子たちと遊んでくるー」
と佳苗は別の子達の方に遊びに行った。
するとそこに康二と一緒について行った子供役の坂崎園長も戻ってきた。
「佳苗ちゃんは?」
「あっち行っちゃったよ」
「僕もあっち行くー!」
と元気に康二は駆け出して行った。
その場に残ったのは山本と坂崎園長だった。
「……園長、子供って本当よく聞いてますよね」
山本は顔を引き攣らせた。
「ええ……」
園長もだ。
「そういえば康二くんはお父さん役やってたけど仕事の電話とか言ってあっち行ったけど……」
「それがねぇ。仕事の電話とか言って『ごめんね……うん、今さー住宅の内覧しててさ……あーだーからーっ。え? 一軒家建てたら離婚できないって? 大丈夫、妻となかなか意見合わなくて10軒目なんだよ。やっぱり一番落ち着く部屋は君の部屋だよっ、まりえちゃん』って……」
園長は山本の方を見た。山本は顔を引き攣らせた。
「子供って怖いわ」
子供たちは校庭で所狭しと駆け回る。先ほどのおうち屋さんごっこの間取りもその上を何人もの子供たちが走りまわって消えていく。
子供達の興味は風に舞う砂のように移り変わっていく。
「まりえせんせー、あそぼー」
「はーい、今行くわー」
山本まりえは苦笑いしながら子供達のところに遊びに行く。
終
【KAC20242】とある夫婦の一日 麻木香豆 @hacchi3dayo
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