物書きはバッファローになるか
棚霧書生
物書きはバッファローになるか
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れには三分以内にやらなければならないことがあった。
「ちょっと待ってくれ……」
「なに?」
とある一人の物書きが首を傾げた。
「さすがに二つのお題をそのままくっつけるのはどうなんだ? ひねりがなさすぎるというか……」
物書きはお題つきの小説を書こうとしていた。そのお題とは『◯◯には三分以内にやらなければないことがあった』と『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』というもの。
物書きはそれらを直接つなげて冒頭を始めたのだった。
「小説は自由である」
「そうだけどさ、その冒頭で話が成り立つの?」
この小うるさく物書きにツッコミを入れているのは物書きの内なる批判者、ウチナー・ルワレである。物書きはウチナーから目をそらし、宙空を見つめる。
「…………小説とはパズルである!」
「全体像見えてないけど、とりあえず組み立てようとしてるわけね。なんも考えずに書き始めるのやめなよ、結局結末まで書けなくてボツったりするんだから」
「うるさいっ! プランならある!」
ウチナーは胡乱げな目を向ける。ウチナーは物書きのことをよく知っていたので、先の言葉が信用ならないことをわかっているのだ。
「だいたいさ、バッファローに三分って概念あるの? バッファローが三分以内にやらなければならないことってなに? ないでしょ、そんなもの」
「……これは、ただのバッファローじゃない。宇宙バッファローなんだ。……知能は人間並みで言葉も操れる!」
「へえ……。で、宇宙バッファローが三分以内にやることは?」
物書きは脂汗をかいている。いやいや、プランはある。なにも思いついていないわけではない。本当である。これ、嘘じゃない。
「む、群れのみんなで力をあわせて、ハンコ屋を轢くんだ!」
「ハンコ屋を……?」
「そう、ハンコ屋は宇宙バッファローを密猟し、その角をハンコの材料として使っていた!! この設定、イケそうじゃない!?」
「イケそうじゃないと言われても……」
ウチナーは心配と呆れの混じった顔をする。しかし、物書きはそんなウチナーのことは全く気にせず話を続ける。
「宇宙バッファローの幼い子供、バファ郎を人質に取ったハンコ屋が言った! 三分間待ってやろうと!」
「なんで急に人質が出てくるんだよ……」
「……人質をエサに交渉……してる、んだよね! そう……宇宙バッファローの群れにはとびきり美しい角を持つバファリンという名の青年がいた! バファ郎の命が惜しくば、バファリンの角を差し出せというわけだ!!」
「頭痛に効きそうな名前だね……」
「ああ! ダメです、バファリンお兄さま! バファ郎の命よりもお兄さまの角のほうが大事です! こんな悪党にどうか屈しないでください!」
「バファ郎とバファリンは兄弟なんだ……」
「ハンコ屋の前に膝をつき、角を切り落とすことを承諾するバファリン、彼の角を無慈悲にもノコが傷つけていく……。ううっ、ぐぅあああ! お兄さま、お兄さま! 大丈夫だ、バファ郎、これくらいの痛みなんてことない!」
苦悶の表情をしている兄弟とは反対にハンコ屋は笑みを深める。堪えきれずに喉から漏れる悲鳴。バファリンの肉体は雄の象徴である角を切り落とされる怒りと恥辱に支配されていた。しかし、悶えるバファリンの姿はハンコ屋を喜ばせるだけであった。
「ねえ……あの……ハンコ屋さんちょっと性癖が……」
「ヌハハハハハ! どうだ、雌になる気分は! お前の角は物干し竿にしてパンツでも干してやるよ!」
「ハンコ作れよ」
「バファリンの角を切り落とす作業に夢中になっていたハンコ屋は背後から近づいてくるバッファローの影に気がつかなかった!」
「どっかの劇場版でよく聞く台詞回し」
「後方からやってきたバッファローの群れに弾き飛ばされ、ハンコ屋は空の遥か彼方へと飛んでいく! バハハーンコ!!」
「…………ちょっと落ち着こうか?」
ウチナーは物書きが暴走していることを察した。なんとか正気に戻そうと声を掛けるが物書きは止まらない。
「そう、まるで全てを破壊しながら突き進むバッファローのように、止まらないのだ!!」
「えっ……まさか、その台詞でオチにしようとし……」
バァーファッファッファッファッ!!!!
※これより以下のデータは暴走突き進みバッファローにより全て破壊されました。
物書きはバッファローになるか 棚霧書生 @katagiri_8
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