第3話バフの日のおわり

 バッファローの暴走は日が落ちたところで終わる。


 きものが落ちたかのように突然正気にもどり、あとは好みの草が生えている場所を目指してゆっくり歩きながら、群れが再編されて行く。


 もしも上空から眺めることができたら、彼らが暴走した道筋だけが帯のように続いているのが見られただろう。

 草や木はなぎ倒され、はね飛ばされた小動物の死骸があちこちにばら撒かれて、無残な光景があるはずだった。


 ディノンたちの村も例外ではなかった。

 地上に住居がないだけましというものだが、村を囲んでいた粗末な柵は最初からないも同然で、踏み潰された畑だった場所は、バファローの汚物にまみれていた。


「まあいいさ。よくきこんでおけば、来年には肥えた土に変わるというもんよ」

 畑仕事をうけ負っている老人たちが笑った。


「狩ったバファローは八頭。大きいのは高齢のヤツだが、小さいの五頭は柔い子どもだな」


 解体班が報告する声に、まわりから期待の声が上がった。


「まずステーキで食いてえもんだな」

「ニンニクのタレがいいな。うまいぞ」

「それに酒があれば、言うことなしだな」


 男たちが騒ぎたてるのに、後で聞いていた女たちが笑う。


「ほらほら、まずやることやっちまいな。肉はすぐには食べられないんだよ。干肉と塩漬けを作った後で、残ってたら焼いてやるよ」

「細切れ肉でソーセージも作ろうか。子供たちにハーブを摘んできてもらおう」


 女たちもテンションが高い。極度の緊張から解き放たれて、ようやく力が抜けたのだろう。


 ディノンは村人たちの笑い声を背にして、けが人を見舞うため、彼らが収容されている部屋へ向かった。


 やはり無傷とはいかず、十人余りの負傷者が出てしまった。


 それでも、一番重症だったのは足を骨折したラノで。他は捻挫や、打ち身、擦り傷程度ですんだ。死者が出なかったのが幸いだった。


 明日から忙しくなる。


 早急に畑を復旧させなくてはならない。収穫できるものは収穫して蓄えてはあるが、村人全員分にはこころもとない。


 バファローに何度も体当たりされた監視台も補強しなければならない。それに、デコボコに掘り返された地面も。子供たちが駆け回るのに危険だ。


 ディノンはこれからのことを思い巡らせながら歩いて行った。


《終》

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バフの日 仲津麻子 @kukiha

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