第12話 食わせ者達よ2



「結界が、破られた…!!」

「おい、いったいどうしたっての、神父様…今の揺れがなんかあんの?」

「今詳しく調べている」

信じ難いとでも言いたげに言ったアーロンに、不思議そうに言ったオニキス。そんなオニキスに神父は手短に答えながら指先で軽く空を切るように動かした。

ふわ、と室内だというのにカソックの裾が揺れ、ほんのりと清潔な石けんの香りが漂う。


「…街を覆っていた結界が一部内側から壊された。それに乗じて何かが侵入してきたようだ」

「は?それって、お前が何重にも加護重ね掛けしてたやつじゃないのか?」

「…なんでお前がそれを…まぁ良い」


アーロンは一瞬不審そうな表情をした後、アーロンは十字架のブレスレットがついた腕を前に出し、手のひらを上に向けた。

伸ばした指先が青白く輝き、手のひらには透明な水晶のような物が浮かび、その中には黒いモヤが蠢く。

「見えた、」

アーロンは、掌握するように強く握り込むと、水晶は砕け散りサラサラと空気にとけていった。アーロンは森のある方向に顔を向ける。


「ヴァルムークの森の方面だ…街から距離はあるが、今日は子どもたちがベリー摘みに行っていたはず…」

「えっ、それって……まずいんじゃ…!」

ヘルトが思わず言うと、神父は「あぁ」と一言だけ返した。


「よって、君たちとの話は後だ。私は子どもたちの保護をしに行く…」

きびすを返したアーロンは吐き捨てるように言うと目付きを鋭くさせ、集会所を出て一目散に走って行く。


「あっ、神父様!?待てって神父様ー!?…くそ、アーロンの奴…!!もうそっちの事しか頭にねーな!?仕方ねー!坊ちゃん嬢ちゃん行くぞ!」


「わっ!?」「!?」


ガシガシと頭をかいたオニキスはヘルトとシュティルの腕を手荒く掴み、遠くに見える神父の背中を目印に走っていく。


「あ、あの人、いつも、運動不足とか、言ってた、くせにっ…何であんな足早、いんだよっ!!」


ヒラヒラと揺れるカソックを追いながら、ヘルトはヒィヒィと息を吐きながら言う。

シュティルはその隣を涼しい顔で並走していたが、ヘルトを心配そうに見つめて口を開いた。


「ヘルト…脈拍が高くなっています…抱えましょうか?」

「だ、だい、ぜぇ、じょう、ぶ…!!」

その少し前を走るオニキスは首に下げていたゴーグルを走りながら装着すると、苦々しい顔をする。


「アイツ…!筋肉強化のバフと自分の周りの重力とか気圧いじって風魔法も使って、みたいなチートくせぇ事してやがる…!!アホみたいな魔法式組みやがって…!」


「神父様そんなこと出来るの!?」


魔法を複数使うのは、宮廷勤めの魔術師でも一握りだ。

王都とはいえ、こんな端の端のちいさな街に居ていいようなスペックではない。


「それが出来ちゃうのよ、あのチート神父は…!!反動と縛りがあると言っても、天って一部に色々与えすぎだよなぁ!」


神父の後を追い走り続けると、ヴァルムークの森の入り口までたどりついた。

入り口では、神父がキョロキョロと辺りを見回している。背の高い雑草をかき分け、服や靴が汚れるのを気にせず進んでいく。


「くそ…!いつもいつも…一人で行きやがって…!」


オニキスは余裕をなくしたような表情でその後を追いかけていく。

オニキスの黒い背中を見失わないように追いながら、ヘルトはオニキスに声をかける。

「あの、オニキス、さんは…神父様と仲が良くない、んですよね?」

「…そう見えるよな、やっぱ」


振り返ることなく返された言葉は、どこか悲しそうな響きを持っていた。

それだけ言うと、オニキスは以降一言も話さず、ただ前を見て走り続けた。

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出来損ない勇者とアンドロイドは二人三脚でいきていく 塩ノ下ユカリ @mayuzumi0206

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