【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿⑧虫眼鏡で完結編

竹神チエ

この事件の真相は……!!

 大富豪左利きのマヨネーズ氏が怪盗タルタルの餌食になった。

 今宵の月を見る前にマヨネーズ氏を見つけないとタルタルソースに変貌してしまう。事件解決に乗り出した右利きのケチャップ名探偵。


 しかし次々と仲間たちがいなくなり……果たして名探偵は無事事件を解決できるのか!?


 🍅🍅←全シリーズで区切りにコレ(熟柿じゃないよ、トマトだよ)使えばよかった。


 🍅🍅


 名探偵右利きのケチャップには三分以内にやらなければならないことがあった。真っ赤なトマト色した太陽が沈みかけているのだ。


「急いで、もう一度最初から捜査しなおすのです」


 ケチャップ名探偵がやって来たのは、事の発端となったマヨネーズ氏の執務室である。ここでマヨネーズ氏の体内液状物質(マヨネーズ)が大量に発見され、大富豪は行方不明になってしまった。


「細かく現場を見てみるのです。こういう時には、コレを使いましょう!」


 取り出したのは名探偵アイテム、虫眼鏡。ケチャップ名探偵は虫眼鏡で執務室のあらゆる箇所を見て回った。


「トーマトマトマ(ふーむふむふむ的なもの)……わかりましたよ!」


 絨毯に這いつくばっていたケチャップ名探偵は、すっくと立ちあがる。


「怪盗タルタル! 探しに行くまでもない、キミはぼくを見張っているはずだ!!」


 すると、どうだろう。その呼びかけが届いたのか……。


 がっしゃーんっっっ。


 突如、窓を割って何者かが執務室に転がり込んできた。


「キミって人は派手な登場をしますね」


 呆れるケチャップ名探偵。


「タールタルタル(笑い声)。よくぞ見破った、右利きのケチャップ名探偵くん。さすがわたしの盟友だね。そうとも、わたしは常にキミの動きを把握していたのだ」


 黒いマントにシルクハット、片眼鏡をかけている人物。まさしく怪盗タルタルである。呼んだらすぐ来た。しかしケチャップ名探偵の追及はこれだけでは終わらない。


「あなたの正体はわかってるんです、怪盗タルタル。いえ——左利きのマヨネーズくん!」


 ズビシッと指をさす。タールタルタルと笑いながら、怪盗タルタルはシルクハットと片眼鏡を脱ぎ捨てた。そして現れたのは、大富豪左利きのマヨネーズ氏だった。


「さすがだね、全部お見通しかい?」

「怪盗タルタルはキミの裏の顔、そうでしょ?」


🍅🍅


 説明しよう。


 左利きのマヨネーズ氏はマヨネーズ販売に大成功して大富豪になったが、そろそろ新しい自分に出会いたくて、夜には怪盗タルタルとして、タルタルソースを配り歩く運動をしていたのである。


 そして今回、怪盗タルタルのターゲットになった大富豪マヨネーズ氏事件を自作自演するとケチャップ名探偵を誘い出し、ゲームに興じたのだった。


 🍅🍅


「マヨネーズとタルタル。左利きブランドの知名度をあげるために、この事件をでっちあげた……なんて思ってないだろうね? なぜ、わたしがこんな茶番劇を起こしたか。まさか、それも解決済みかい?」


「当然です。ぼくの真っ赤なリコピンと虫眼鏡を使えば、すべてお見通しなのです」


 胸を張るケチャップ名探偵は高らかに言い放った。


「この事件の真相、それは左利きのマヨネーズくんの自作自演だけではない。全員グルなのです!!」


 と、その時。

 執務室の灯りが消え、室内は真っ暗になる。


 ドアが開く音。そして。


「トーメイトーゥ!!(ご名答!!)」


 大合唱と共に、わらわらと仲間たちが入って来た。手にはケーキやらクラッカーやら大盛りのポテトサラダ(ソルト&ペッパー夫婦が仲良く作りました)やらを持ち、みんな笑顔だ。


 ハッピバースデー、ケチャップさあん♬

 ハッピバースデー、ケチャップさあん♬

 ハッピバースデー、カクヨムさあん♬ 


 ハッピバースデー、アニバーサリー8周年♬



 ひゅー、ぱんぱん。口笛とクラッカーが盛大に鳴り響く。


「バジル、お前もグルだなんて助手失格ですよ」


 プンプン怒りで赤くなる(元々赤い)ケチャップ名探偵。


「サプライズパーティーをしたかったんですもん」


 ちょっと申し訳なさそうなバジル助手だ。

 その隣にはマスタード嬢がいて、なんと二人は腕を組んでいる。


「すみません、ケチャップ名探偵。おじさんがどうしてもサプライズがやりたいってしつこくて。ソースソースディップ村はいつも平和でしょう? たまにはこうして事件でも起こしたら、良いプレゼントになる、だなんていうものですから」


「今朝、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ騒ぎがあったばかりです!!」


 プンプンのケチャップ名探偵はますます赤くなる(元々赤色)。


「でも楽しかったでしょう?」


 ウインクするのはペッパー警部だ。


「しかしよく全員グルだとわかりましたね」


「そんなの、簡単です」


 真っ赤なままケチャップ名探偵(通常も赤い)は説明する。


 怪盗タルタルの挑戦状が入ったびっくり箱を見つけたのは、鑑識ではなくバジル。バジルはあらかじめ用意してあった挑戦状を、あたかも捜査の最中で見つけたように装い、ケチャップ名探偵に渡したのである(事件簿③参照)。さらに。


「ウスターさん、あなたの家政婦は見た情報もウソです。マスタード嬢とマヨネーズ氏が口論していたなんて真っ赤なウソなのです。それにマスタード嬢。あなたはマヨネーズ氏のダンスホールで踊り明かす(事件簿④参照)のだと言いましたね。それも真っ赤なウソなのです」


 ケチャップ名探偵は軽やかなステップを披露した。


「学生時代からダンスホールで踊りあかすのは右利きのケチャップなのです。左利きのマヨネーズくんがダンシング・トゥメイトウ(トゥナイト)するはずがない!」


 さらにさらに、


「実はぼくもあなた方が行くダンスホールに出入りしてるんです。そこでマスタード嬢と踊り狂っていたのはウスターさん。あなたでした」


 どきっとしてマスタード嬢と視線を交わすウスター家政婦。


「まさかご覧になっていたとは思いもしませんでした。わたくし、いじわる家政婦を演じてみたかったんです。ねちねちご令嬢をいじめてみたかったんです」


「悪い人ね。でも本当はわたしたち仲が良いの。カラシくんのことを持ち出した時はびっくりしたけど」


「あのカラシ青年はお嬢さんには似合いませんもの」


 フンッと鼻を鳴らし、ちらっとバジル助手を見やるウスター家政婦。バジルはポッと赤く(ほぼ緑だけど)なった。


「マスタード嬢、あなたもウソ泣きしましたね。ぼくは見ましたよ。『話さないで!』とツブツブの涙を流す寸前(事件簿⑤参照)、目にマスタードを塗りつける行為をね」


「あらやだ。だって泣いたほうが面白いと思って」

「ウソ泣きだったの!?」


 驚くバジルだが、マスタード嬢は「心はささくれだったのは本当よ。一時はカラシくんに惚れてたもの」とのことで、いろいろあるにはあったようだ。


「それからソルトさん、あなたもやらかしましたね!」

「わたしはポテトサラダを作っただけよ。ねえ?」


 夫のペッパー警部に助けを求めるソルト。でも「トリあえずっ、トリあえずっ」とペットのビネガーちゃんが自分の働きをアピールするように鳴くものだから、「しおがないわね(しょうがないわね)」と白状した。


 ソルトは左利きのマヨネーズ氏が販売する業務用マヨネーズをたっぷり使ったポテトサラダを作ると、大富豪の自宅付近の茂みに捨てた。そしてペットのビネガーちゃんを放ち、悲鳴を上げたのだった(事件簿⑥参照)。そして大方の事件をうまく回していたのが、ペッパー警部である。


 名探偵ケチャップはすべてを指摘し終えると、盟友であり、今回の事件の首謀者兼被害者の左利きのマヨネーズ氏に向き合う。


「キミってマヨネーズは本当に無謀なことをする。あれだけのマヨネーズをまき散らして平気だったのか? 瀕死になっているのではと心配したよ」


「タールタル……、はもうよそうか」


 すっぱり怪盗マントも脱ぎ捨てタルタルモードをやめるマヨネーズ氏。

 その透明チューブの体内にはたっぷりのマヨネーズが入っている。


「心配かけて悪かったね。でも酢と新鮮な卵、それからオリーブオイルを飲んで跳びはねたら、すーぐ回復するよ。それにソルトさんとペッパー警部にも協力してもらったから、味付けもばっちりさ」


 マヨネーズ氏は「キミほど踊りは得意じゃないけどね」と言いながらも、ブレイキンを披露する。これでシェイクすると、もったり濃い味マヨネーズが完成するのだとか。


「さーて、事件も解決したことだし、次はパーティーだよ」


 そうして憮然としたままのケチャップ名探偵を椅子に座らせると、急いで会場準備に取り掛かる各種調味料たち。


 やがてソースソースディップ村の住人も集まり、大豪邸はいっきょに賑やかになった。ちょっと部屋を見せて、と住宅の内見をするものまでいる。特に事件現場になった執務室は大人気だ。


「おめでとう、ケチャップ名探偵」

「今夜もとっても真っ赤ですね」

「事件解決、素晴らしかったですよ」


 たくさんの祝いの言葉や誉め言葉をもらうケチャップ名探偵。花火も打ちあがり、美味しいトマトジュースを飲み終える頃には、少し機嫌も直ってきた。


「からかったわけじゃないですよ。みんな先生を喜ばせるためだったんです」

「バジル、ぼくだってね」


 ケチャップ名探偵はコソッと助手にだけ打ち明けた。


「最初からわかっていて、みんなに付き合ってあげてたんですよ」


 それはウソかマコトか、強がりなだけか。


 虫眼鏡を取り出して月を見る名探偵に、バジル助手は言ったのだった。


「トーメイトウ。今回も事件解決、お見事です」



【完】

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