【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿⑦トマトケチャップ色の夕陽に決意編

竹神チエ

黄昏のぼっちケチャップ

 大富豪左利きのマヨネーズ氏の豪邸付近で、マヨネーズの残骸を発見した。もしやマヨネーズ氏の亡骸なのか?

 嫌な予感がする右利きのケチャップ名探偵だが……?


◇◇


「安心なさい。コレは市販マヨネーズのゴミですね。ポイ捨てでしょう」


 検視官ソイソースの言葉に胸をなでおろすペッパー警部とケチャップ名探偵。


「まさかの事態を想像して、危うく色を失うところでしたよ」


 やっと表情が和らぐケチャップ名探偵。ソイソース検視官も朗らかに笑う。


「しょうゆう(そういう)心配をするのも無理はないですよ。このマヨネーズは左利きのマヨネーズ氏が大量販売しているマヨネーズですから。彼と間違っても仕方ないでしょうゆ」


 左利きのマヨネーズ氏は、マヨネーズ販売で財を成した富豪なのである。


「それにしても、こんなに大きなマヨネーズを販売してるんですか?」


 そう疑問を持ったケチャップ名探偵。

 するとペッパー警部が笑いながら説明してくれた。


「業務用がありますからな。うちのソルト(妻)がよく買ってますよ。彼女は色鮮やかで具沢山のポテトサラダを作るのが得意ですから。大量のイモだけでなく、マヨネーズをたっぷり使うのもウマさの秘訣なんです。もちろん最後にコショウと塩も味の決め手ですがね」


 それは一度ごちそうになりたいですね、とケチャップ。近いうちにね、とウインクしたペッパー警部の愛嬌ある表情に、また笑いが起こる。


 ケチャップとペッパー、ソイソースが市販マヨネーズのゴミを囲み、和やかに談笑した……までは良かったのだが。


 事件解決は振り出しだ。再び左利きのマヨネーズ氏の自宅へと戻るケチャップ名探偵とペッパー警部。現場の捜査は終了したらしく警察官はおらず、集まっていたやじ馬も潮が引いたようにいなくなっていた。


 静まり返る大豪邸。二人は応接間に向かうが、待機しているはずのロマンスの若人カップル、マスタード嬢(失恋中も新しい恋の予感?)とバジル助手(傷心の彼女を癒せ、片思いが実るかも?)の姿までない。


「おや。あの二人はどこへ行ったんでしょう?」

「まさかデートにでも繰り出しましたかな」


 まったく近頃の若人調味料は色ボケして……、なんて文句を言いつつ、二人はお茶をもらおうとキッチンに声をかけてみたのだが、そこでも返事がない。


「困りましたね。ウスターさんはどこへいったのかな?」


 手分けして家政婦ウスターを探すケチャップとペッパー。しかしいくら探しても、ウスター家政婦の姿は見当たらなかった。


「ペッパー警部、そちらにウスターさんはいましたか?」


 声をかけるケチャップ。でも。


「ペッパー警部? どこです、ペッパー警部?」


 オーマイ・ケチャップ!!

 右利きのケチャップ名探偵は今度こそ色を失った(真っ赤なボディが毒入りケチャップのようにパープルにっ)


「ペッパー警部、ねえ警部、いたら返事してください、ペッパー警部ッ!!」


 大豪邸に名探偵の叫びがこだまする。


 ともに訪ねてきたはずのペッパー警部まで見当たらなくなってしまったのだ。


「もしや全員、怪盗タルタルの犠牲に……?」


 この世のすべてのマヨネーズをタルタルソースに変える野望を持つ怪盗タルタル。しかし奴の野望はマヨネーズだけでなく、すべてのソースをタルタルに変貌させようとしているのかもしれない。


「このままでは、ぼくもタルタルソースになってしまうのか……」


 色彩豊かなソースが自慢のソースソースディップ町の住人が、全員タルタル色に変わるなんて。あってはならない大事件だ。


 それでも孤独からくる不安からか、ケチャップ名探偵の真っ赤なリコピン(情熱)までもが色あせかけていた。嘆息し、窓辺に向かう。夕焼けが広がっていた。まるでトマトケチャップ色に染まる町だ。


「怪盗タルタルが指定したタイムリミットは夜。それまでには時間があります」


 自分を奮い立たせる右利きのケチャップ名探偵。色をなし、待ってろ、怪盗タルタルと真っ赤になる。


「今宵の月を見る前にケッチャプ(決着)をつけようではありませんか!」


♬真っ赤な夕陽をバッグに熱いテーマソングが流れる♬



(ケチャップ名探偵の事件簿⑧【最終回】に続く)



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