【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿⑤話さないで!!編
竹神チエ
お黙りウスターとロマンスの若人
大富豪左利きのマヨネーズ氏が怪盗タルタルにさらわれた。夜までに助け出さねば、マヨネーズ氏がタルタル氏になってしまう。事件の真相を探る右利きのケチャップ名探偵と助手バジルくん。
マヨネーズ氏と姪マスタード嬢が進路をめぐり口論していたとのタレコミが、家政婦ウスターから寄せられたが、「和解しました」と断言するマスタード嬢。果たして真相は……?
◇
将来自分の跡を継ぎ、マスタードからからしマヨネーズになりなさい、との提案を突っぱねたマスタード嬢。わたしは死ぬまでマスタードです、粒入りマスタードなんです。その決意は固く、一時は不仲になったおじと姪だが、後日和解したそうだ。そのわけは。
「一緒にホットドック店で働いているカラシくんが『ぼく大富豪の財産が手に入るならからしマヨネーズになるよ?』といってくれたんです。おじも了承しました。ですから家政婦の盗み聞きなんて情報、当てにしないでください!」
つんっと鼻の奥まで刺激するほど憤っているマスタード嬢。しかしマスタード嬢が怪盗タルタルの仲間ではないか、と疑うペッパー警部はさらに質問を重ねる。
「でもお嬢さんはそれでいいんですか。そのカラシという奴がおじさんの巨万の富をすべて受け継ぐというのでしょう?」
「カラシくんは素敵な練りカラシですから」
ぽっと頬が染まる(黄色い顔なのでほんのり橙になる)マスタード嬢。その表情に何かぴんときたペッパー警部は右利きのケチャップ名探偵に耳打ちする。
「やっこさんたち、デキてんでしょうかね。そうとなりゃゆくゆく結婚して財産は二人のもの。お嬢さんはマスタードのまま、巨万の富を得るってね」
黙ったままうなずくケチャップ名探偵。しかしその隣で耳打ちを漏れ聞いてしまったバジルくんの表情が引きつる。
「そ、そんな。マスタードちゃんとカラシくんがそんな仲だったなんて……!」
と、そこへ。
「お待ちください、ペッパー警部」
前掛けで手を拭きつつ戸口に姿を見せたのは、例のおしゃべりウスターこと家政婦のウスターさんである。
「その話には続きがあるんですの。お嬢さん、現実は現実でございますよ、認めなくちゃね」
「ま、待って。何を言う気なのウスター。わたし聞きたくないわっ」
耳をふさぐマスタード嬢。がぜん興味が湧いたペッパー警部が帳面を取り出してウスターに詰め寄る。
「何を知ってるんです、ウスターさん。早くはなして」
「いやよっ、はなさないで!!」
「マスタード嬢、落ち着いて。そんなに頭を振ったら瓶の蓋が開いて部屋中がマスタードになってしまいますぞ。マヨネーズより刺激的で大惨事です」
「マスタードちゃんが嫌がってるじゃないか、おばさん黙ってなよ」
わちゃわちゃする中、ウスター家政婦は得意げに宣言した。
「いいですか、カラシ青年にはワサビさんという婚約者がいるんですわ。マスタード嬢の恋は一方的。旦那様の築き上げた富でカラシ青年の心を掴もうとしたようですけどね。その企みは失敗したんですよ」
「はなさないでって言ったでしょ、どうして何でもかんでもしゃべっちゃうのよ!!」
そう叫んだマスタード嬢は大粒のつぶつぶ涙を噴出させて泣く。
「おっとまあとんでもないことになりましたね」
ケチャップ名探偵のギャグの切れも鈍る修羅場の形相だ。
「でもですねえ」
ペッパー警部が首をひねる。
「マスタード嬢の失恋と怪盗タルタルの事件がどうつながるんです?」
「腹いせでしょうよ」
すぐさま答えたのはウスター家政婦だ。
「何もかも失敗。財産も恋も手に入らなくなったところで、怪盗タルタルが誘拐話を持ち掛けてきたんだと思いますわ。どうとでもなれってことですよ」
訳知り顔のウスターだが、ケチャップ名探偵とペッパー警部は首を傾げながら顔を見合わせた、その時だ。
「きゃあああああ!!」
悲鳴だ。
一体何事だ、と部屋を出て行くペッパー警部とケチャップ名探偵。助手のバジルも後に続こうとしたが立ち止まる。そして泣き続けているマスタード嬢のもとへと引き返した。
「マスタードちゃん、泣かないで。まさか本気で悲しんでないよね?」
「……ひくっ、ひくっ。あんな風に失恋話をされるなんて嫌だわ」
「う、うん。でも。そのー、あんなカラシ野郎、どうだっていいだろ?」
ぎゅっと手を強く握る。泣いていたマスタード嬢の目が丸くなった。
「ま、まあ。バジルくんたら。そんなに強く握らないで」
「ごめん」
慌てて手をはなそうとしたのだが……。
きゅっ。
握り返すマスタード嬢。
「はなさないで。つないでましょうよ」
♬良い感じのロマンス曲が流れる。見つめ合う二人。シャララ♡はーなさーないでー♬
(ケチャップ名探偵の事件簿⑥に続く)
【KAC2024】ケチャップ名探偵の事件簿⑤話さないで!!編 竹神チエ @chokorabonbon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます