彼女に、風が吹いたら。

うびぞお

怖い映画を観たら一緒に夜を過ごそう 番外編

「ブラジルで蝶が舞うとテキサスで竜巻が起きる映画」




 いつものごとく彼女が映画を観ていたので、わたしが何の映画か尋ねたら、そんな返事が返ってきた。わたしが顔を顰めたのに気付いた彼女はちゃんと粗筋を教えてくれた。


「不幸な境遇で育った主人公が、自分にタイムリープ能力があることに気付いて、好きな女の子と幸せになるために人生を何度もやり直そうとするんですけど、仲々うまくいかないって映画です」


 主人公イケメンじゃんなんて思いながら、わたしは彼女の隣に腰掛ける。

「うまくいくんでしょ」

「観てれば分かります」




 うーん、なんか切ない。


 見終わって、そう思って、ため息をついて、寂しくなって、横から彼女に抱き着く。

「誰が何度タイムリープして人生をどうやり直しても、わたしは絶対あなたの隣にいるわよ」

「ははは、きっとそうですね」

 彼女は抱き返さずに、指でわたしの背を撫でる。


「私たちの場合は」

 彼女の指がわたしの背骨を辿って行ったり来たりする。


「……広いアフリカ大陸を飛ぶ1匹の虻」


 彼女の声に合わせてわたしは目を瞑って想像する。


 ふーんと宙を飛んでいた虻が黄金色の何かを針で刺す。

 それはライオンで、隠れてバッファローの群れを狙っていたライオンは、針に刺された痛みで走り出す。

 飛び出したライオンにバッファローの群れが驚いて走り出す。

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。

 群れの前には大河が流れていて、バッファローは何匹も何匹も流される。


 ……


「で、あなたは今、私の隣にいるってわけです」


 偉く壮大に始まった割に、彼女の想像力は早々に尽きて、ほぼ省略された。だけど、代わりにわたしの胸に熱が溢れる。


「要は、風が吹けば桶屋が儲かる、って話ね」



 風情がないと拗ねた彼女の耳元に、わたしがふっと息を吹き込むと、微かな声をあげて彼女が震える。





 確かに、蝶が舞うくらいの小さな風がキスのきっかけになる。







 ★☆

 ネタにした映画「バタフライ・エフェクト」

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彼女に、風が吹いたら。 うびぞお @ubiubiubi

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