第2話

 彼は、野盗達の後を追っていた。

 これがの彼の任務である。


 依頼元はこの周辺にある村の村長だ。

 先程、野盗達に絡まれた際に口にした「マルク」というのが村長の名前である。

 物資輸送の要所となっている街道に野盗達が居座ったため、それをなんとかしてほしいというのが依頼内容であった。

 内容に対する提示した報酬は、割に合わない程の少ない額だった。

 しかし、それでも彼はその依頼を受けた。

 その返答にその場にいた村長を含め数人の村人は、喜びよりも驚きと疑問の方が大きかった。

「なぜ?」という村長の言葉に、彼は思うことがあったように沈黙してから「それがこちらの任務の一環だからだ」と言って、今に至る。


 強風の過ぎる音と共に激しい銃声と悲鳴が聞こえてくる。

 この坂を上がった先に何が?

 急いで駆け上がって、その光景を確認する。

 先程の野盗の生き残りが、後方のティルトローター機のような航空機の攻撃を受けていた。

 いや、攻撃を受けていたではない。

 一方的な虐殺。

 逃げまとう野盗達に感情も容赦もなく、機関銃弾やロケット弾を降らせていた。

「運がつくづく無いな。ドローンに出くわすなんて」

 そう、航空機並の大きさのドローンなのである。

 かつての戦争で多く使われたドローンも「星の怒り」の電磁波嵐でほぼ全滅したが、わずかに嵐の影響で制御系にバグなどの異常により、無差別攻撃機として動いているものも存在する。

 今、目の前にいるのも恐らくそうだろう。

 野盗を殺し尽くした後、こちらに機首を向けた。

 こちらを認識したのだ。

 急速に距離を詰める。

 機関砲が、ロケット砲から砲弾を放った。

 しかし、彼は後ろに跳んだ。

 その後にドローンの放った弾が着弾する。

 着弾を確認すると、彼は地面から離れていた足を踏み込み、今度は前に体を動かした。

 ドローンは自身が作った弾幕に、一時的だが各砲を止めていた。

 弾幕周辺のロケット弾の熱により敵をロストしていたためである。

 機械故に効率的かつ、無駄な弾を使わない様にする。

 通常では間違ってはいない。

 だが、このときばかりは間違っていた。

 彼が弾幕をかいくぐり、視界が晴れた時には目前にドローンの機首に迫っていた。

 突如の敵の出現に反応し迎撃しようとするが、そんな時間は無かった。

 彼は機首を蹴り、更に上に跳んで左右の腰のホルスターから銃を引き抜いた。

 グラファイトブラックの2丁の拳銃は、ドローンの右翼に連射して弾を浴びせた。

 それぞれ10発がローターのモーター部に突き刺さり、やがて火を吹き出しながら失速して墜落していった。


 太陽が夕日に変わっていた頃に、彼は村に戻ってきた。

「よく戻ってきてくれました・・・」

 村長のマルクが心配そうな顔で声をかける。

「心配ない。獲物を横取りされる形ではあったが、野盗は全員いなくなった」

 その言葉を聞き、村人に喜びの顔と声があふれていた。

 その光景を見ていた彼に、近くの子供がじーと見ていた。

 視線を感じ彼は子供に目をやると、ビクッと彼から逃げるように離れていった。

「あの人に何かいじめられたの?」

 他の子供が声をかける。

 すると、

「あの旅人さん。みんなの顔を見て少し嬉しそうな顔をしてるように見えた。

 こっちを向いたら元に戻ったけど・・・」

「そうなの?あまり変わっていなかったと思うけど・・・」

 彼は子供の様子を気にしないで、また村人達の喜びを見つめていた・・・


 その後、彼に感謝するため村総出の祭りになっていた。

 誰もが笑いながら食事や話の花を咲かせる。

 中心となる彼は、話しかける事は無くて逆に話を聞くに徹していた。

 そんな彼にマルクは声をかける。

「それにしても、本当に良いのですか?報酬の追加が水と周辺の人里の情報だけで・・・」

 彼が報酬のわずかなお金以外に要求したのが、この村に近い村や町の地図と情報、そしてその移動に必要そうな水だけである。

「それでいい。むしろ、貰い過ぎたとも思っている」

「そんな。この過酷な中で旅をしていて、それだけでいいとは思えませんよ」

 申し訳なさそうにし続けるマルクに、彼は話しを始める。

「俺は元軍人だ。こんな行軍はいつもの事だったから問題は無い」

「軍・・・ということは、あなたは『リビングドール』なのですか!?」


 生きた人形リビングドール

 人の思考と意思を持ったまま、戦闘用に特化された機械の体を与えられた存在。

 いわば、サイボーグである。

 この時代で人間とは体の一部に機械が埋め込まれているのを人間と呼び、手や足、胴体や頭など多くが機械化されているのをリビングドールと呼ばれている。

 とはいえ、リビングドールにも彼のように食事や呼吸などが出来る様にされている者もいる。


「あんた達を見ていると、教官や戦友の言葉を思い出す。

 戦争は兵士だけで成立するわけでない。

 そこにいる人と助け、時に共に協力してこそ成り立つと」

 そして、彼は話を続ける。

「俺はこれまで守ろうとして、何度もこぼれ落ちていく命を見てきた。

 逆に敵の住む場所や平穏に過ごせる環境をも壊してもきた。

 だからこそ、今出来る事をやろうとしている」

「それは贖罪のためですか?」

「それもある。だが、出来ることをしないで後悔することしたくないだけだ」

 その声はいつものトーンであったが、悲しさをマルクは感じた。

 彼は、恐らく20代前半。

 10代、いやもしかするともっと幼いときから戦場で戦っていたのかもしれない。

 自分自身のやったことではないとはいえ、大人の都合で彼の人生は狂わされた。

 もし平和があったとしたら、彼はもっと豊かな表情をしてくれたのだろうか。

 そう思うと、無関係とは思えないとマルクは考えてしまう。

 その間、喜びあう村人の言葉よりも近くで燃える焚き火のパチパチという音だけがよく聞こえた。

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果ての世界に花は咲く 瀬渡 @setokura-26co

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