ア・イ・シ・テ・ル
空山羊
ア・イ・シ・テ・ル
あいるには三分以内にやらなければならないことがあった。
それは胸の内に秘めた想いを伝えることだった。
小さい家だが、愛に溢れたこの家で私は産まれた。
両親からの『愛してる』という想いから、『あいしてる』から『して』を抜き取って私の名前は『あいる』と命名された。
余談だが、『愛流』とかにすると私の家の苗字と相まって、暴走行為をしている方たちみたいな名前になってしまうので平仮名にしたそうだwww
話は戻るが、私は今、家族と一緒にいる。
家族は今も泣きながら、笑いながら私に『愛してる』を伝えてくれている。
私も精一杯この25年間の愛を家族に伝えた。
でも、私には家族だけでなく、この想いを伝えなくてはならない人がいる。
だから、「ごめん。いかなくちゃ」と家族に言って家を飛び出した。
まもなく20時だというのにあたりは静まり返っていた。
私は夜の闇を走った。
人っこ一人いない。
はぁはぁと息を切らしながら走っていると、ふと気が付く。
いつもより早く走れてる気がする。
それに、なんか歩幅というか跳躍というか何かいつもより高い気がする。
これなら間に合うかもしれない。
そう思って走る走る。
残り2分。
なんで、こんなタイミングでお前来るんだよ!
「ふふふふふ、あ・あ・あい・あいるちゃん会いたかったよ!もう最後なんだ、ぼぼぼぼ僕は君が、ちゅ……」
「お前はお呼びじゃねぇんだよ~~~~~~!!」
私のそんな叫び声とともに告白に乗じて私を襲おうとしてきた全裸の同僚『
「汚ねぇもん見せんじゃねぇよ!!」と吐き捨てながら私は走る。
あのバカのせいであと一分しか時間がない。
時間がない!時間がない!!
後、30秒。
目の前には20メートルくらい幅のある亀裂が。
深い。落ちたらもう戻ってこれない。
それに迂回したらもう間に合わない。
私はこの事実に絶望した。
倒れ伏して泣いていると、叫び声が聞こえた。
「…!……!!ガ…ダ!!!
「え?」顔をあげるとそこにいたのは、、、「蜂澤さん!ハ・ハチさん!」
「あいる!飛べ!!」
私はその言葉を信じて助走をつけて跳んだ!
向こう岸では蜂澤さんも跳んだ!
あぁ月が凄く近くて奇麗。
夜の闇に異様なまでに大きく輝く満月。
19時59分55秒
二人は空中で抱きしめ合った。
19時59分57秒
「ハチさん!私!」「あいる!俺」
19時59分58秒
『あなた(あいる)のことを』
19時59分59秒
『愛してる!!』
20時00分
二人は抱きしめ合いながら口づけをした。
7日前。急に全世界のTV、ラジオやSNSがジャックされ、どこぞの大統領が出てきてこう言った。
あと7日後、20XX年6月10日20時過ぎに地球は月と衝突し消滅します。
先日、月の裏側に超巨大隕石が衝突したそうだ。
丁度その頃、月が地球に最接近している時だった。
月の軌道が狂い。あっという間に地球の引力に引き寄せられたとのこと。
偉い学者の話だと20時頃には生物は生息できない状況になるとのこと。
そうして世界は終末を迎えた。
世界は絶望した。
だが、最期は世界中が「ア・イ・シ・テ・ル」の言葉と想いに包まれた。
ア・イ・シ・テ・ル 空山羊 @zannyou
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