ケンタウロス男子の特別な日
愛田 猛
ケンタウロスの特別な日
ケンタウロス男子の特別な日
ケンタウロスのケンタには三分以内にやらなければならないことがあった。
それは、街外れの建物に、何かが入った紙袋を届けることだ。
魔法学園高校のクラスメイトで、憧れの女子、ペガサスのペガが困っているのを知ったからだ。
「あそこにいる父に、これを届けないといけないの。でも予定では、あと3分で父は出発してしまうのよ。私、ケガしてしまって飛べないのよ。」
本来なら、ペガサスであるペガは、空を飛んで荷物を届けることができる。だが彼女は、運悪く、先ほど羽をケガしてしまい、飛べなくなったのだ。
「ペガちゃん、俺に任せろ!足の速さが自慢の俺なら、間に合わせてみせるよ!」
俊足自慢のケンタは、自信満々で紙袋を受け取り、走りだした。
(ここでペガちゃんにいいところを見せれば、きっと彼女は『ケンタくん、素敵~』ってなってラブラブになるだろう。)ケンタは内心ほくそえんだ。
何も障害が無ければ、ケンタの足なら2分もあれば届く距離だ。
そう、何も障害が無ければ…。
ところが、走るケンタの目の前に、信じられない光景が広がっていた。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが、正面から向かってきたのだ・
かなり大きな群れだ。
回り道したり、隠れて回避していたら、3分では間に合わない。 かと言って、中を突っ切ることもできない。
ケンタは焦った。ペガサスではないくケンタウルソのケンタは、空を飛んでよけることもできない。 ケンタは一応魔法が使えるが、空を飛ぶ魔法は使えない。
(どうする…考えろ、考えろ、考えろ…)
ケンタは、脳筋の頭で必死に考えた。
(フライの魔法は使えない。ペガサスでない俺は羽がないから飛べない。ケンタウロスに使える何かないか…そうだ!)
ケンタは、昔何かで聞いたことがある、しかし内容を知らない単語を呪文として唱えた。すると、ケンタに羽が生え、バッファローの群れの上を飛んでいくことができた。
ケンタは、無事にペガちゃんの父親に、紙袋を届けることができたのだった。
意気揚々と戻ってきたケンタを、クラスメイトが取り囲んだ。
「凄いな、どうやって、あのバッファローの群れに対処したんだ?」
グレイウルフのグフが尋ねた。
ケンタは得意げに答える。
「いや、あの瞬間、昔どこかで聞いた言葉を思い出したんだ。ケンタウロスを鳥のように飛ばすことができる魔法の呪文をな。さすが、俺!
みんな興味津々だ。
ミノタウロスのミノ子が聞いた。
「それ、なんて言葉?」
ケンタは、もったいをつけて答えた。
「ケンタッキー・フライド・チキン、さ。」
全員、押し黙った。
この短いフレーズに、いったい幾つの突っ込みどころがあるだろう。
ペガサスのペガも、言葉を発することができない。
皆、無言で顔を見合わせるが、誰も突っ込むことはなかった。
脳筋のケンタだからこそ生み出した魔法、ということにしておこう。
ちなみに、届けたものは、ペガの父親が家に忘れた、昼食のフライドチキンだった。
今日も、魔法学園は平和だった。
どっとはらい。
(完)
ケンタウロス男子の特別な日 愛田 猛 @takaida1
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