ケーキ屋さんで
西しまこ
三分で!
しまこには三分以内にやらなければならないことがあった。
三分。
それはお客さまが買ったケーキを箱に詰める時間である。三分以内にケーキを全て美しく詰める、それが見習いスタッフしまこの当面の目標であった。
苺ショートケーキ二個!
これは楽勝である。対角線をイメージして長方形にすればいいのである。しまこは苺ショートの詰め方はマスターしてきたと言ってもいいだろう。
しかし、タルトが入ると難しくなる。タルトは倒れないよう、紙を巻き、そして箱にテープで貼るのある。
「ああ、もう、しまこさん、遅い! そして、テープがくちゃくちゃ。もっときれいにやりなさい!」
「はいっ、すみません!」
エクレアは簡単だと思っていたら、意外な落とし穴にはまる。
「ああ、もう、しまこさん! ちょっと斜めにしたら入るから、箱のサイズが違います! それにチョコがつかないように巻く紙はもっと早く巻いて」
「はいっ、すみません!」
しまこはケーキ屋さんで働き始めて、自分が不器用であることを自認したのである。
しかし、しまこは健気にも毎日頑張って働いた。なぜなら、ケーキがおいしかったからである! 毎日ケーキを眺める幸せ……うっとり。
「しまこさん、ぽやっとしない!」
「はいっ」
そんなある日、しまこはパニックになった。
「苺ショート二つと、苺のタルト二つ。それからフルーツロール二つに、モンブラン二つお願いします。全部で八個ね」
「はい、かしこまりました!」
「急ぐから、早くね」
「はい、かしこまりました!」
しまこがケーキ箱に入れていると、そのお客さんは言った。
「さっきのケーキ、同じものをもうワンセットお願いするわ」
「ええっと、つまり全部で十六個ということですね」
「そうよ。八個と八個で分けてください。一つは差し上げるから、保冷バックに入れて欲しいの。保冷バックも買うわ」
「はい、ではお会計変わりまして……」
しまこはとりあえず、会計をすませた。あとは、三分以内にケーキを詰めるだけだ。
「すみませーん、こちらのクッキーもお願いします」
「はい、かしこまりました。ご自宅用ですか?」
「人に差し上げるの。よろしくね」
「はい、かしこまりました!」
再びお会計を済ませ、詰め始める。
苺ショートとモンブランはいいとして、タルトとフルーツロールが難しい。フルーツロールは紙の入れ物に入っているから、意外にスペースをとるのだ。あっ、やっぱり間違えた、入らない。一箱に八個は入らないから、二箱に分けよう。苺ショートとモンブランで一箱、タルトとフルーツロールで一箱。……あっ! 苺ショートとモンブランの方はうまく入ったけど、タルトとフルーツロールの方はうまく入らなかった“もう一つ大きい箱にしよう。
「ねえ、まだですかー?」
「はいっ、すみません、お待たせしております!」
「しまこさん、遅いっ! どいてください、わたしがやります」
「すみません……」
しまこはおろおろしながら、ベテランスタッフの作業する様子を見ていた。神技とも思える手さばきでケーキはあっという間に詰められていく。
「しまこさんはクッキー、袋に入れてください」
「はいっ!」
ギフトだからギフト用のシールを貼らねばっ。シールシール。……ふう。出来た!
「お待たせいたしました!」
ベテランスタッフは笑顔でお渡しに行く。
三分。それは闘いを完了させる時間なのである!
了
■お知らせ■
①この物語はフィクションです!!
②参考エッセイ
「ケーキ屋さんで働いて、自分の特性を再認識した件について」
https://kakuyomu.jp/works/16817330668691633253
ケーキ屋さんで 西しまこ @nishi-shima
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