全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに絶望しながらも、まだ、間に合う……
夏空蝉丸
第1話
○○には三分以内にやらなければならないことがあった。
○○としているのは、筆者が名前を考えるのが面倒とか何も考えていない。というわけではない。単に当人の名誉のためにである。そう。この話は名誉に関する話なのだ。
これは、つい先日の話である。
夜の九時五十七分。〇〇は飲み会の帰り道、家まで無事に辿り着けないことを知った。ビビビと脳内に電流が走ったのだ。大ピンチである、と。
察しが良い方は、何が大ピンチなのかわかったことであろう。だから、これ以上はここに記述しない。何しろ大ピンチの話なのだ。多分、運とかその辺が関係している。
ただ、〇〇は運が悪いだけの男ではない。非常に猜疑心・警戒心が強く用意周到な男だ。こんな大ピンチが発生する可能性を脳内で何度もシミュレートしている。
〇〇は酔っ払いながらも冷静に、セーフティープランその1を発動させることにする。〇〇が常日頃から想定している大ピンチが発生した際の緊急避難行動、つまり近くの食品量販店に駆け込むことにしたのだ。
が、現実とは常に想定の斜め上を行く。そう、想定外のこと、大量のおばさんが現れたのだ。
まるで、夏の夜に灯りにつられて大量に窓にへばりつくカメムシのように現れたアフロヘアのようなパーマをかけたおばさんたちが、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの如く、食品量販店に侵攻していく。
この異様な光景にあっけにとられた〇〇であったが、ぼうっと突っ立っていたわけではなかった。〇〇は判断が早い。このおばさんたちに先んじなければ、この大ピンチを脱出することなど夢のまた夢。諦めたらおしまいなのだ。
破壊神が如く、セール特売品に群がるバッファローの隙間を通り抜け、〇〇は約束の地を目指す。閉店の音楽が流れているが、気にする必要はない。大丈夫だ。あと、二分ある。
〇〇には、自信があった。確信と言っても良い。
自分は、三十秒でピンチを脱出できる大人だ!
〇〇は心のなかで叫ぶ。ピンチに耐えきれなくなるのを必死に我慢しながら、ようやく目的の場所への道が開けた瞬間、おばさんがぶつかってくる。
「あんた、邪魔よ。特売納豆はあたしのよ」
〇〇は勝ち誇って納豆をカゴに入れたおばさんの言葉を聞きながら、自分の戦いが終了したことに気づいていた。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れに絶望しながらも、まだ、間に合う…… 夏空蝉丸 @2525beam
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