【KAC20241+】今年もあのイベントがやってくる

この美のこ

あのイベントがやってくる

 奈々は夜遅くまで忙しく動き回っていた。

今年もあのイベントがやってくる。

年に一度の大一掃バーゲンセール。


 今や苦境にあえぐ百貨店業界。

そんな百貨店に勤め始めて三年目の奈々は、今はチーフとして、このフロアーを任されている。

一通りの仕事を終えて、殆んどの社員は退社していた。

一人残って再度、全ての個所を回り、漏れはないかチェックしていた。

「ふぅ~、これで良し、いよいよ明日かぁ」

深いため息をついて、会社を後にした。


 翌朝、百貨店前は活気に満ちていた。

開店前の朝早くから、お客様が列をなし並んでいる。

開店時間になり、ドアが開かれた。

お客様は一斉に店内に流れ込み走り出していった。


それは、あたかもった。


 奈々は、圧倒されながらも笑顔で挨拶や接客などしていた。

中でも、人気アイテムが山積みになったワゴンには、すでに人だかりが広がっていた。

それを熱意と情熱と言えば聞こえがいいが、見ている奈々にはバッファローの群れに見えた。


 バーゲンセールは主婦達にとって待ちに待った大イベント。

恥ずかしさなど、とうに捨ててしまった主婦達が目を輝かせて、買い物リストを手に走り回っている。

魔法に引き寄せられているかのようだ。


「これは私の!」壮絶な女の闘いが繰り広げられている。

安く手に入れた商品に満足しつつ、次のワゴンへ。

50%offに目を輝かせ「安いから買わなきゃ!」

実際には自分の気に入った商品は何もなく結局はタンスの肥やしになってしまうのに次回のバーゲンセールに向けての戦略を練りつつ、帰路に急ぐのであった。

奈々にとっては有難いお客様である。

お金をどんどん落としてくれる大切なお客様である。

しかしながら一方ではあんな、あさましい主婦にはなりたくない……。

そう思っていた。


 そんな奈々だったが、その十年後にはその仲間入りをし誰よりも闘志を燃やしていようとは……この時の奈々は知る由もない。


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