第10話 第一部完
『コロニスといっしょ』とは、俺こと
「ぶっちゃけ、昔書いたショートショートをかき集めたらなんとか十万字いけるんじゃないかという目論見ですね。で、今そんなこと書いてるってことは今回は『振り返り回』ですか」
『振り返り回』。
近い言葉に『総集編回』がある。
テレビアニメなどではクール区切りや「〇〇編」など物語に一区切りついたあとのエピソードとして使われる。
「だから今回で第一部完ということになる」
「仕切り直しですか」
「そう。一旦ここで終わる。ほらショートショートも在庫がもうなくなってきたし。昔いっぱいアップしてあったショートショートがあったんやけどそのサイトがなくなったことに気づかず消えてしまったし」
「けどほら、第3話で一部使った『俺が毎日書くというだけ』ならまだ在庫ありますやん」
「あーそれがあったなぁ。まあでも今回で第一部完ということにして、第二部はまた日を置いて始まるかもしれないしこのまま終わるかもしれない」
「このまま終わると私はなんのためにアライグマに転生したのかわからないままですね」
「わからないと終わられへん?」
「うーん。じゃあ捏造しますか」
▼
「あなたはアライグマに生まれ変わります」
いきなり禿頭白髭のおじいさんに言われた。彼は神らしい。
わたしはその言葉を聞いたとき「なんで?」と思った。
「アライグマであることがあなたにとって大きな意味をもちます。意味あると思う」
なんかいい加減な物言い。
転生のルールなんか実のところ誰も知らない。チートが与えられるなんかフィクションでしかない。
生物の種類は数多あるから、そのすべてのどれかにランダムで転生する仕組みならば、人間がまた人間に転生できる確率なんかわずかなものなのかもしれない。
だとしたらアメリカシロヒトリに生まれ変わるかも知れないし、セイタカアワダチソウに生まれ変わるかも知れない。
「ちゃんとチートは与える」
「え?」
チートが与えられるなんてフィクションで……。
「アライグマだが人語を話せる。これまでの記憶もすべて持ったままで。そして人間の食べ物はすべて食べることができる」
「はあ」
それのメリットは? とか思う。
むしろ知性のない野生動物のほうが楽なんじゃないのか。
転生したわたしは日本の郊外の河原にいた。
聞いた通りやっぱりアライグマだった。尻尾がしましま。
ハードモードやん。なんのメリットあるチートやねん。運良く温和で話が通じる人と出会わないことには見世物か研究材料にされるしかないぞ。
▲
「ってデタラメに前日譚を考えてみたけど」
「正直憶えてないんでなんとも言えませんね。わたしがしゃべるアライグマになった意味を探す物語になる流れですか」
「さあ。『枠物語』だから案外気にしなくてもいいのかも」
「まあわたしもなんでアライグマになったのか考えるつもりもないです。これが換えの効かない自分なんだからそれでやっていくしかないんで」
「7話のときに、ショートショートの在庫が足りなくなったら『どんどんショートショートの質が落ちていく』って言ってたけど、コロニスとふたりでそれを読んでなんやかや話すという構造だと『スベり芸』が成立するんよな」
「『スベり芸』ってウケなかったことを笑いにするやつですね」
「そう。単体のショートショートならその作品単独で面白いか面白くないか決定づけられるけど、こうやって『枠物語』にすると、『これはおもろないな』とか言う会話の流れとして成立させることができる」
「なるほど。じゃあ、あえてスベってるショートショートを見せてください」
「…………」
ああそうか。そういう流れになるよな。
「探してみる」
ノートパソコンで検索する。
▼
『すきやき』
「今夜のおかずはすきやきよ」
「わーい」
って今どきすきやきで喜ぶ子供も少ないらしいが、裕二くんはすき焼きが大好きだった。
やがてテーブルに電気鍋が置かれ、その中に醤油と砂糖と牛肉が入る。
裕二くんは自分の碗に卵を割って、箸でかきまぜてとき卵にする。こういう作業も好きだった。この儀式がすきやきを食べる気分をもりあげるのに重要なのである。
肉は取り合いにならない。
今どきはへたをすると肉より野菜のほうが高い。牛肉ぐらいたっぷり食べることができた。もちろん国産ではない。国産ではないが、高い肉を食わせてもらっていない裕二くんにとってはオーストラリア産牛肉でもアメリカ産牛肉でもエクアドル産牛肉でもよかった。エクアドルから牛肉を輸入しているかどうかは知らないが。
「すきやきって名前の由来を知ってるか?」
裕二くんの父が言った。
「好きなもの入れるから」
裕二くんは当てずっぽう答えた。
「おしいなぁ。ほんとはな」
父は自分の知性を誇るようににやりとした。すきやきの由来ぐらいで自慢するか。
「すきやきというのは、昔、
「すき?」
「鋤ってのは畑を耕す道具でな。
「どうやって?」
「鋤の刃のところに肉を乗せて、たき火なんかで焼いたんだ」
「くわでは焼かなかったの?」
「そうなんだ。
おとうさんのダジャレオチに、裕二くんはぽかんとした表情をもって答えた。
▲
「…………」
「…………」
しばらく無言だった。
「ああ、スベり芸ですね」
「やろ?」
「ってことは出来を気にせずに多作できるんじゃないですか」
「そうかもれない」
「完成しなくてもわたしとその後どうなるか話すとかしたら『コロニスといっしょ』の一本としては成立するんじゃないですか」
「その結果『コロニスといっしょ』のそのエピソード自体がスベってたら」
「うーん。……わたしと秀さんが楽しければそれでいいんじゃないですか」
コロニスの言葉に何かすとんとひっかかりが取れた気がした。
「……そうやねぇ。そうなるとなんでもいいのか」
「十万字いくために手段選ばない方向で行くんでしょ?」
「なんでもいいのかぁ」
うなずくコロニス。
「今夜はすきやきにしませんか?」
「そうやね。なんか食べたくなった。新鮮な卵を買ってくるわ」
『コロニスといっしょ』の生活は続く。
コロニスといっしょ 第一部 邂逅篇 鐘辺完 @belphe506
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます