【オリジナル脚本】童話・絵本系【短編】

悠宇呂

【短編】魔女の片思い【童話・絵本】

シナリオセンターで書いているオリジナル脚本

原稿用紙10枚分:約10~15分の短編 or 作品冒頭 or 作品の一部シーンの切り出しのような形


脚本の読み方は特殊なので、こちらを一読して頂けると幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/animaarca777/news/16818023214175603705


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 執筆日:2022年10月21日


【登場人物】

麻女あさめマナ(14)魔女見習い 実年齢*歳

麻女ティルダ(36)マナの母親 実年齢*歳

正野しょうの誠侍せいじ(14)野球部員

太田寛徳(32)野球部監督


【あらすじ】

校庭に飛んで来た一羽の白い鳩。正体は魔女の娘・麻女マナ。マナは野球部の中学生正野誠侍に恋をしていた。しかしマナには秘密があった。


【作中表記】

M……モノローグ=心の声

N……ナレーション


以下、本文


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魔女の片思い

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〇長野県『或井沢』・全景


   或井沢町全景。空を白い鳩が飛ぶ。


 


○或井沢中学校・校庭


   白い鳩が校庭にある野球用のバックネットの上に留まる。野球部が練習中。正野誠侍(14)が素振りをしている。太田寛徳(48)が正野を呼ぶ。


太田「次、正野!」


正野「はい!」


   太田が打席に立ち、自ら球を上に放り、


   それを打つ。正野に対するノック練習を始める。カンッと金属バットで打つ音が響き正野が立つショートのポジションに球が飛ぶ。正野はグローブに当てるも捕球し損じ、もたつく。


太田「何やってんだ正野!次は落とすな!」


正野「はいっ!」


   白い鳩は「クルッポー」と鳴き、正野を見つめる。


○ペンション・ソルシエール外観


   白い鳩が屋根に降り立ち、二階の窓に


   開けられた小さな扉を開き、自ら入る。


 


○同・二階・マナの部屋


   白い鳩が中に入ると、ポンッと煙が発生して麻女マナ(14)が現れる。


   マナはベッドに倒れこみ、枕に顔をうずめる。


マナ「はぁ……今日も頑張ってたな……」


 


○同・一階


   麻女ティルダ(36)がキッチンで準備をしている。ティルダは階段の下に移動して、二階に向かって声を張る。


ティルダ「マナ~?いるなら手伝ってぇ」


 


○同・二階・マナの部屋


   マナは枕にうずめた顔を横に向け、


マナ「え~……面倒臭いぃ……」


○同・一階


   ティルダは少し苛立って、


ティルダ「マナ!いるんでしょ!?今日はお客様がいらっしゃるから手伝いなさい!」


 


○同・二階・マナの部屋


   マナは体を起こし、ベッドから降りる。


マナ「はいは~い……」


   マナはシュッシュと『パフュリーズ』と書かれた消臭剤を体に振り撒く。


マナN「我が家は長野県『或井沢』町で、小さな民宿を営んでいます。おしゃれな呼び方をすれば、ペンション。今日は久しぶりにお客さんが来るみたい。あ~ぁ、面倒臭いなぁ……」


 


○同・一階・キッチン


   マナがキッチンに入ってくる。ティルダが皿を拭きながら話しかける。


ティルダ「あんた、どこ行ってたのよ?」


マナ「どこだっていいじゃん」


   ティルダがくんくんマナの臭いを嗅ぐ。


ティルダ「あんた、また鳩になって中学校行ってたでしょ?」


   マナは少し嫌な顔をして、


マナ「え~、何でわかるの~?ちゃんとシュッシュしたのになぁ」


 


○同・二階・マナの部屋


   『パフュリーズ』と書かれた消臭剤が置かれている。


   


○同・一階・キッチン


   ティルダとマナは料理をしながら話す。


ティルダ「あんた、好きな子でもできたの?」


   マナは目を見開き、振り向く。


マナ「そ、そんなわけないじゃんっ!ただ、学校に興味あって見に行っただけ!」


ティルダ「あら、通いたいの?大きくなるのは無理だから来年から三年間通うって言ってたじゃない?」


マナ「来年……中一からでしょ~……」


マナM「今すぐ中二になりたい……」


ティルダ「あら?どうして中二になりたいのよ?」


   マナはハッとした顔をして、眉間に皺を寄せて怒る。


マナ「ちょっとママ!?今、心を読んだでしょ!?ほんとやめてって言ってるでしょ!」


   ティルダもハッとして、


ティルダ「あ、あら!ごめんなさい。つい……。でもあんた、心の声が駄々洩れだったわよ?」


   マナは眉をひそめて、


マナ「なんだよ……心の声が駄々洩れって……はぁ~……もうやだ。魔女の娘なんて」


   ガシャーンッと皿が落ちて割れる音。


ティルダ「ちょ……ちょっとマナ……?ほ、本気で言ってるの……?」


   ティルダは目を潤ませながら言う。


マナM「大袈裟だなぁ……」


   マナは溜息をつき、頭を抑え、


マナ「……さぁ、どうだろうね?しーらない。もう心の声は読ませないよ!」


   頭を抑えた箇所が少し光る。マナが皿を指差し、指を動かす。割れた皿が空中を飛んで元通りの皿に修復される。


マナ「そんな事よりお客さん来るんでしょ?」


   マナは急にテキパキ料理を始める。


マナN「私は麻女マナ。こう見えて42歳。私は魔女なんです。魔女は普通の人間より三倍も長生き。だから成長も遅くて実年齢は42歳だけど、肉体年齢は14歳なのです」


   二人は手際よく料理を作り進める。


マナN「こんな体質だから、来年から六年ぶりに中学校に通い始める予定……なんですが、今はペンションのお手伝いや魔女の修行ばっかりでつまんない‼……あ~あ、今すぐ中学二年生になりたいなぁ……」


   おいしそうな料理が出来上がる。


○(回想)或井沢町郊外の山林


   タイトル『2ケ月前』


   マナが自転車に乗って林の中のアスファルトの道を走っている。マナは道の脇に自転車を停め、少し脇道を歩いて


   ヤドリギ模様の水筒を取り出して飲む。


マナ「ぷはぁ~。おいしー」


   すると目の前に小さな子熊が現れる。


マナ「あら~!かわいい~!くまちゃん!」


   マナはハッとする。


マナ「もしかして……」   


   後ろを振り向くと、ツキノワグマの母熊がいる。熊が走って近付いてくる。


マナ「ヤバッ……!キャーッ!」


   慌てて自転車まで戻り、直前でつまづいて転んでしまう。


マナ「いたた……キャーッ‼」


   ガンッ!と音がして、「ギャインッ」


   と熊が引き下がる。正野がバットを構え、息遣いを荒くして立っている。


正野「ハァ……ハァ……。大丈夫!?」


マナ「う、うん……」


   熊は子熊と共に山道の奥に走って去る。


マナ「あ……ありがとう……」


   正野は右手を差し出し、マナを立ち上がらせる。


正野「け、怪我はない?」


マナ「うん……転んだ時に脚を擦りむいただけ……」


   マナは砂埃で汚れた服を叩く。


マナ「き、君こそ大丈夫?引っかかれたりしてない?」


正野「俺は大丈夫だよ。へっちゃら」


   そう言いながらも、正野は痛そうな顔をする。正野の左腕にはそれほど深くはないが、引っ掻き傷がある。


マナM「あ……怪我……」


マナ「ちょっと向こう向いてて」


正野「え?なんで?」


   マナがそっと左腕に掌を当てると、いつの間にか傷が消えている。


正野「あれ?本当は怪我してた気がしたんだけど……気のせいだったかな……」


マナ「うん、怪我してなくて良かった……。それにしても、君、勇気あるね」


   マナはニコッと微笑む。


   正野は照れて顔が赤くなる。


正野「いや、悲鳴が聴こえたからとにかく必死で……たまたま野球の練習の帰りでバット持ってたから良かったよ」


マナ「でも、危ないから、次こういう場面見かけても無理しないで」


   マナは正野の手を両手でしっかり握って、真剣な目で言う。


正野「あ……あぁ……」


マナ「ありがとう」


   マナが正野にハグをして、正野は驚き硬直する。


正野「……ど、どういたしまして……」


マナ「君……、名前は?いくつ?」


正野「正野……正野誠侍……中二。君は?」


マナ「私はマナ。麻女マナ。私は……14歳」


正野「マナちゃん……タメだね」


   正野の顔は紅潮し、ドキドキと胸が高鳴る。


マナ「タメ……か……でも、今の事は忘れて」


   マナは正野のおでこを人差し指でトンと叩く。


    ×    ×    ×


   正野が気づくと、マナはいない。


   正野はキョロキョロと周りを見渡す。


正野「あれ?俺、ここで何してんだろ……」


   正野は、左手にバットを持っている事に気づき、さらに、バットがぐにゃりと凹んでいる事に気づく。


正野「あ~っ!?な、なんで??」


   バットの凹みを凝視して、


正野「やっべ……父ちゃんに怒られる……」


   正野は自転車に乗って走り去る。


   バットに少し熊の血と毛が付着している。

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【オリジナル脚本】童話・絵本系【短編】 悠宇呂 @animaarca777

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