レインウォーカー~スコール~

七四六明

レインウォーカー~スコール~

 レインウォーカーには、三分以内にやらなければならない事があった。


 六キロ先に見える、人食いバッファローの群れ。

 彼らが通った後は瓦礫の山と化して、多くの人々が犠牲となっている。


 これ以上の被害は許されない。

 都市部に逃げて来た人々だけでも、守らなければ。


「レインウォーカー! 都市の隔壁を起動するそうよ! 三分だけ時間を稼いで!」

「住民の避難誘導は僕達がやるから!」


 バッファローの数は百頭くらいか。

 生半可な異能者では太刀打ち出来ない数を、単騎で捌けとは難題である。が、無理ではない。


 ここまで破壊して来た規模と人食いの数から、四分の一にまで減らせれば隔壁で充分に止められるはず。

 三分以内に七〇頭以上の人食いバッファローを狩る。それが今のレインウォーカーに課せられた任務であり、使命。


 食事を終えたバッファロー軍団が、次の餌を求めて周囲を嗅ぎ回り始める。

 そうして都市部へと目標を定め、一斉に猛進して来たところで、レインウォーカーはビルの屋上から飛び降りた。


 地面に出来た水溜りに吸い込まれて、瓦礫の山の中に出来た水溜りへと転移。先頭を走るバッファローの下に出ると傘の先で突き上げながら跳び上がり、巨大な肉塊を貫いた。


 そのまま薙ぎ払って斬り捨てると、降り注ぐ雨を足蹴に突進。

 走るバッファローの首を次々と両断しながら突き進み、真正面に現れた一頭の頭蓋に傘を突き立てて脳を貫くと、抜き払った勢いそのままに後ろへ跳躍。再び軍団の真正面に出ると、止まる事無く肉薄する。


 食い殺さんと口を開けて来るバッファローの下顎を斬り落とし、そのまま体を上下で分かれるよう両断して、次へと走る。


 曰く、牛は実は色彩感覚に優れておらず、赤色を判別できない。

 闘牛士のマントに引き寄せられるよう突進するのは、動くものに反応するからとの事。

 人食いバッファローもそれと同じなのか、疾走、跳躍、乱舞する様に傘を振るうレインウォーカーの纏うレインコートの揺れ動く様を見せ付けられて、引き寄せられるように襲って来る。


 数が数なので面倒だが、時間稼ぎには好都合。

 四トントラックを軽々と横転。貫いた突進に対して、回避はしない。

 そこらのコンビニで買った百円ビニール傘が、バッファローの肉塊が如き肉体を貫き、穿ち、斬り伏せていく。


 残り時間なんて最早気にしていない。

 結局は全て倒さねばならないのだから、このまま決める。


 が、ただの突進では仕留めきれぬと悟ったか。

 バッファローらは大きく口を開き、何やら口内に溜め始めた。

 ただの巨大猛牛ではないのだから、破壊光線なり音波攻撃なり、何かしらの能力を持っていたとしてもおかしくない。


 同時に放たれる破壊光線。

 鉄が溶解する熱量を持つ光線がレインウォーカーを焼き尽くしたと見せかけて、水溜りへと潜っていたレインウォーカーは彼らの背後を取って、横薙ぎ一閃。横一列に並んでいたバッファローを一撃で両断した。


 降り注ぐ雨を足蹴に、高く跳躍。

 自分を見上げるバッファローの眉間に照準を固定。降り頻る刺突の嵐が、バッファローの脳髄から下顎まで穿ち、次々と仕留めていく。


 着地と同時に疾走。

 後ろ足で立ち上がり、圧し掛かろうとして来たバッファローの首を両断し、倒れて来る巨体を持ち上げて投げる。

 巨体をぶつけられて混乱する一同に向かって走りながら、横切る巨体を次々と両断。斬られた巨体が消えていく中、倒れたまま動けなかった数頭を微塵に断ち切り、血飛沫が爆ぜる。


 雨と共に返り血を浴びて濡れるレインウォーカーが次の標的を探して睨むと、バッファローらが怯え、怖気付き、無暗に突進して来なくなった。


 すると、都市部を守る隔壁が展開。

 三分経った事に今気付いたが、最終的に全て仕留めるのは変わらない。


 隔壁が起動したからお役御免、とはいかない。

 日本最強の称号は勝手に与えられたものだが、皆が期待している。

 日本最強の異能者として、人食いを狩る事は最早責務。一頭たりとも逃がさない。


「レインウォーカー!」

「……片付、けるよ」


 二人の仲間と共に、人食いバッファローの群れを片付けていく。

 念のため展開された隔壁がその役割を果たす事はなく、全てはレインウォーカーとその仲間達によって仕留められていった。


 それと同時、降り頻っていた雨が止む。

 わずかに光を孕んだ雲が見え始めると、レインウォーカーは水溜りへと落ち、一人何処かへ消えていく。

 残された二人はあれこれ文句を言っていたが、雨が止んだ今、彼がまた出て来る事はなかった。


 彼は最強、レインウォーカー。

 雨と共に現れ、雨と共に去る。

 日本最強の異能者は、今日も人々のために戦っている。絶えず、雨の中で。

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