🥊三分一の伝説🥊
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
全一話 伝説の始まり
三分一には三分以内にやらなければならないことがあった。
「三分の一」の誤植ではない。この物語の主人公は三分一。
世の中には三分一(さんぶいち)という珍しい苗字があって全国に四百人ほどいらっしゃる。そのうち半分くらいが山口県で、25%ほどが広島県にお住まいだ。
でも実はこの物語の主人公の苗字は三分一(さんぶいち)ですらない。フルネームが三分一なのだ。
苗字が三分(さんぶ)で名前が一(はじめ)。フルネームは三分一(さんぶ・はじめ)なのである。名前の一(はじめ)の方はともかく三分(さんぶ)と言う苗字は三分一(さんぶいち)以上に希少で、徳島県や香川県にわずか十人ばかりしかいないというウルトラレアな苗字だ。
それはさておき、この三分一(さんぶ・はじめ)はヒョロリとした体型と天然パーマが目立つ子供だった。大人しい性格もあって小学生や中学生の頃は軽く見られていた。周りの子供たちはそんな彼を
「三分クッキング」
「カップ麺」
「三分の一(さんぶんのいち)」
などと呼んでからかっていた。
三分一(さんぶ・はじめ)もそんな境遇に満足していた訳ではない。この春の高校進学にあたって舐められないように彼はイメージチェンジした。いわゆる高校デビューだ。
眉毛を剃って髪の毛も思い切って金髪に染めた。自分が強くなった気がした。
ところがその結果、高校進学後しばらくして繁華街で本物の不良にケンカを売られた。
三人組の不良に絡まれて殴りかかられた。だが不良たちのパンチは一発も三分一(さんぶ・はじめ)には当たらなかった。動体視力の良い彼は全てのパンチをもらうことなく完全に見切っていたのだ。逆にピンポイントでパンチを一発ずつ不良に当てて全員をKOしたところで警察に補導された。
ケンカ両成敗ということで進学早々停学になるところだったが、その現場をたまたま見ていた高校の教師がいた。彼が三人組の不良たちの方が先に手を出してきたから正当防衛であると証言してくれたおかげで三分一(さんぶ・はじめ)は停学は免れた。
ただしお咎めなしというわけにはいかずいくつかの条件がつけられた。反省文の提出と金髪を止めて頭を丸坊主にすることが条件だった。
「坊主刈りってどのくらい短くすればいいんですか、先生?」
「そうだな。根元の方はもう黒い髪の毛が伸び始めてるけど五分刈りじゃあまだ金髪が残るから染め直すのも大変だろう。お前の名前じゃないが、三分(さんぶ)以内なら大丈夫だ」
「わかりました。すぐ床屋で刈ってきます」
三分一(さんぶ・はじめ)が三分以内にやらなければならないこととは、髪を三分(さんぶ)以内に刈ることであったのだ。
さて彼が停学を免れるためには実はもう一つの条件があった。それはボクシング部に入部することだった。
これが、後に全試合3分1ラウンド以内のKO勝ちで金メダルを獲得する「三分最強のボクサー」三分一(さんぶ・はじめ)の伝説の始まりであった。
完
🥊三分一の伝説🥊 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori
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