隣に住んでるお姉さん:全年齢

@amethyst114514

隣に住んでるお姉さん、1年目

「やあ"少年"」


 声かけに振り返ると、隣に住んでるお姉さんがいた。"少年"、と何時でもその人はボクにそうやって話かけてくる。朝だったり下校の途中だったり、体育でグラウンドに出てるときだったり休みの日だったり、ほんとうに"何時でも"だ。


 見上げたお姉さんは珍しくタバコを咥えていた。真っ先に口元へ視線が寄せられたのはいつものことだ。お姉さんは派手な見た目をしている。金髪なのか茶髪なのか曖昧な明るい髪にところどころ青とか緑が混ざっていたり。緩い胸元にチェーンのアクセサリーがいくつもかけられていたり。耳にピアスの列が並んでいたり。


 そして、唇にも。


「お姉さん、タバコ吸ってたの?」


 思わず、尖がった声が出た。あまりタバコは好きじゃない。


「……」


 少しの間。


「おやおや、嫌われてしまったかな?」


 ニ、とお姉さんの口元が上がるのが見えた。そこで気付く。


「お姉さん、そのタバコ火がついてないよ?咥えてるだけ、なの?」


 ンフ、とタバコを咥えた口から笑い声が漏れる。見上げていたその顔が急に近づいてくる。お姉さんがかがみ込んできた。


「"少年"に教えてあげよう」


 二本の指でタバコを挟む。口から離されたタバコをユラユラ、と振って見せる。


「これはね、世界で一番甘いタバコなんだよ」


 タバコの根元がキラリ、と光ったように見えた。思わず目で追ってしまう。


「銘柄は」


 指の動きがピタリ、と止まった。


「ココアシガレット、富山産だよ」


 ズイ、と突き出されたタバコ……ココアシガレットがボクの口に押し込まれる。


「んぅ!?」


 びっくりしてしまったボクは尻もちをついてしまう。また見上げる形になったお姉さんの顔はニッコニコである。


「お姉さんはオトナだからね、タバコを吸おうが"少年"からお説教なんて受けませーん」


 機嫌をよくしたお姉さんは、その場でクルリ、と振り返ると立ち去っていく。


 呆然と座り込んだままのボクは、無意識にココアシガレットを舌で舐めていた。甘いというか、へんな味。


 思わず眉根が寄る。指でつまんで口から取り出すと、ちょっと湿った感覚がした。短めの鉛筆ぐらいの長さの白い棒。その両端がちょっと濡れている。


 片方は今ボクが舐めた方。もう片方には薄いピンク色の模様が。


「!?」


 気付いた瞬間にバッ、とあたりを見回す。誰もいない。お姉さんはいない。手元を見る。お姉さんが咥えていたものだ。


「どうしよう、これ……」


 曰くつきの物体を手にボクは途方に暮れてしまうのであった。


 1年目、了。

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