第13話 お楽しみ
唇の感触で、ルークは驚いて目を開ける。
目の前にメリーの顔があって、メリーの唇と自分の唇が重なっていることに気づく。
ルークは驚きながら、慌ててメリーの体を離した。
「なななっ、何をしているんだ!? メリー?」
「……嫌、だったでしょうか?」
「……そんなことはないけど」
「ふふっ、なら良かった」
潤んだ瞳で見つめられ、戸惑うルーク。
「ちょ、え」
メリーにそっと肩を押され、ルークはベッドの上に仰向けになる。
「え」
メリーがまたがってきて、熱っぽい表情でルークを見下ろした。
「私、バーク様に襲われたとき、思ったんです。ルーク様以外の人に奪われるくらいなら、ちゃんとルーク様に初めてを捧げたいなって」
「……えっと、どういう意味?」
ルークは恍けるが、メリーは優しく微笑む。
「安心してください。その、私も初めてですけど、ちゃんと教えますので」
ルークはドキドキしながらメリーを見返した。メリーがとても艶やかに見えた。いつもより、大人に見える。
(これって、つまり、そういうことだよな?)
突然訪れた卒業式にルークは驚きを隠せなかった。前世では無縁だった卒業式。それをわずか11年で達成できるななんて、こんな快挙はない。
(お、俺は今日、卒業するのか)
自分の上でもぞもぞ動くメリーにすべてをゆだね、そのときを待とうとした。
が、メリーの手が太ももに触れた瞬間、前世の記憶が過る――。
それは、20代半ばだった頃の記憶。
前世の自分は、3万円を握りしめ、お風呂屋さんで彼女に出会った。
細身でおっとりした雰囲気の彼女。
一目で恋に落ちた二人は、そのまま愛を確かめようとした。
しかし、二人の愛が形になることはなかった。
『緊張』という魔物に前世の自分は呑まれ、前世の自分は彼女と語らうための術を失ってしまったのだ。
「ごめんね。私に魅力が無いからだよね」
悲しそうな彼女を前に、前世の自分はどうすることもできなかった。
そして、記憶の鏡に映る前世の自分が、ルークに語り掛けてくる。
「同じ過ちを犯してはいけない――」
ルークはハッとなって、自分の状況を確認した。
緊張で息子の元気が無かった。
このままでは、メリーを傷つけかねない。
ルークは慌てて起き上がると、優しくメリーを抱きしめた。
「……ルーク様?」
「メリー。こういうのは、大人になってからにしよう」
「もしかして、嫌でしたか。すみません。私ってば、ルーク様の気持ちにも気づかず……」
「違う。そうじゃない。メリーのことを大事に思っているからこそ、大事にしたいんだ」
「え、それって、どういう――」
自分が前世の政治家みたいなことを言っていることに気づき、誤魔化すように強く抱きしめた。
「メリー。口にしなくとも、俺のメリーに対する気持ちはわかるだろ?」
「……はい。ありがとうございます」
メリーはルークを抱き返した。その温もりに、ルークはホッと胸を撫でおろす。かなり強引な作法であったが、わかってもらえたようだ。こういう状況に慣れていないから、何が正解かがわからない。
「でも、私のこの気持ちはどうしたらいいんですか?」
「え? あぁ、とりあえず、大人になるまでは、大事にしよう」
「大人っていつですか?」
「うーん。18とか?」
「……わかりました。なら、そのときまでこの気持ちを大事にしておきます。ルーク様も大事にしてくださいね?」
「ああ。もちろんだ」
「ふふっ。あと、一つだけお願いしてもいいですか?」
「何だ?」
「もう一回キスをしてもいいですか?」
「まぁ、べつに構わんけど」
メリーが体を離す。見つめ合い、メリーの真っ直ぐな瞳に、ルークは照れる。
「なんか、恥ずかしいな。やっぱ――」
ルークが言いかけたところで、メリーに塞がれる。
そして――めちゃくちゃキスされた。
☆☆☆
――翌朝。
ルークはベッドの沈む感覚で目覚めた。目を開けると、耳に髪を掛けるメリーの姿が。
「……何をしているの?」
「あ、ルーク様を起こそうかと」
メリーは恥ずかしそうに言った。が、ルークは昨日のキスを思い出し、呆れる。昨日のキスは、情熱過ぎて逆に引いてしまった。
(……まぁ、たまに思い出しては興奮しちゃうんだろうけど)
少し思い出しただけで体が熱くなってきたから、ルークはそれを隠すように真面目な顔になった。
「普通のやつで頼む」
「……はい」
どこか不服そうなメリーに下りてもらって、ルークもベッドから下りる。
「ご飯の準備はできております」
「わかった。行こう」
「はい。あと、昨日の件で、セバスチャンはルーク様のことを見直したそうですよ」
「……そうか」
ルークは窓のそばに立って、外を眺めた。
雲一つない青空が広がっている。
(セバスチャンには認めてもらえたか。この調子で周りの評価を変えていこう)
ルークは窓を開ける。
爽やかな風が入ってきて、ルークの頬を撫でた。
――――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
急ではございますが、この話をもって、いったん、完結とさせていただきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
転生ボーナスで回復(ヒール)魔法を望んだら、悪役(ヒール)魔法を与えられてしまった辺境貴族の四男、ヒールを極めて破滅の未来を回避する 三口三大 @mi_gu_chi
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