Buffalo

嬉野K

大一番

 全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れには三分以内にやらなければならないことがあった。


 全てというのだから、もちろんこの世の全てが破壊できる。それは物理的なものだけではなくて、物体として存在しないものも破壊できる。


 例えば恋心だとか、逃れられぬ死の運命とか、バッドエンドだとか。だが残念ながら、作品を投稿してもPV0という悲しみだけは破壊できない。それは実力で頑張れ、ということだろう。


 ともあれバッファローの群れは急いでいた。三分以内にいろいろなフラグを破壊しなければならないのだ。

 そうしなければ、アレの開始に間に合わないからである。



 ☆

 


 ここはとある戦場。装備を点検する兵士の1人が、


「俺さ……故郷に幼馴染を残して来てるんだよ」


 そんな事を言い始めたので、バッファローの群れはドタバタと大きな音を鳴らし始める。


 その状態で兵士たちの会話が続く。しかしそれは途切れ途切れにしか聞こえなかった。


「故郷――だから――結婚――」言葉の途中で、「……なんかうるさいのがいるな……」


 バッファローの群れが起こした大音量に、つい兵士は言葉を止めた。


 そして肩をすくめて、


「……よく考えたら……今の発言は死亡フラグだな。喋らないことにしておくよ」


 これにて任務完了。これでこの兵士の死亡フラグは回避した。


 とはいえ……


 生き残れるかどうかは不明だが。



 ☆



 1つ目の依頼を1分程度で解決。そして次の依頼に急ぐ。今日という一日は特別なので、さっさと依頼を解決しなければならなかった。


 バッファローの群れが次に向かったのは、


「ここは私に任せて逃げろ!」ボロボロのヒーローが仲間たちに向かって叫ぶ場面だった。「俺がおとりになる。だからお前らだけでも生きてくれ!」


 ヒーローたちは大量の敵に追われていた。誰かがおとりにならないと逃げ切れない状態だった。

 

 しかし誰かを犠牲にするなどという悲しい結末は認めない。


 バッファローの群れは襲いかかる敵を一瞬でなぎ倒した。そしてそのまま、時間がないので走り去っていった。


「……な、なんだ……今の奴ら……」


 ヒーローが呆然としているが、説明している時間はない。


 任務完了。さっさと次の現場に向かう。



 ☆


 

 次の依頼の現場に向かう途中、


「俺……お前のことが好きだ……!」


 美少女に告白している高校生がいたので、ふっとばしておいた。これは依頼とはなんの関係もなく、ただムカついただけである。


 リア充の誕生は許さない。


 まったく余計な時間を食ってしまった。


 残り1分。


 果たして……間に合うか。仮に間に合ったとしてもギリギリになってしまいそうだ。



 ☆



「速報です」ニュースキャスターがニュースを読み上げる。「謎の正義の味方集団が、またしても現れたようです」


 司会がその話を受けて、


「いやぁ……いったい彼らは何者なんでしょうね。極東の戦争を終結させ、ヒーローすらも助けてしまう。ちょっとばかりカップルに厳しいという一面もありますが……」

「そうですね……彼の功績は計り知れませんからね。今日の事柄以外にも、彼らが解決した問題は多くありますから」

「謎の正義の味方集団……通称『バッファロー』。名前の由来も気になりますね」


 司会の言葉を聞いていたコメンテーターが、


「英単語のBuffaloには水牛とかの意味の他に『相手を困惑させる』『相手を騙す』という意味があるようですね。それらが由来なのでしょうか」

「なるほど……私なんか最初に彼らが現れた時のニュースで、本物のバッファローが現れたのかな?なんて思いましたからね」

「そう勘違いした人も多いでしょうね。彼らが集団で現れると『バッファローの群れが現れた』なんて見出しも付いてましたからね」

 

 そんな話をしているうちに、時間が経過していく。


「さて正義の味方集団の話も面白いですが……次の話題に移りましょう。今日はいよいよ、年末最後の大一番! 競馬のGIレースが行われます。現場の〇〇さん!」



 ☆

 


「はい。こちらは現場です」マイクを持ったアナウンサーが競馬場で言う。「もうすぐ発走時間ということもあり、現場は大盛りあがりです。先ほど、大勢の集団が現れて滑り込みで馬券を購入しておられました」

『直前まで用事があったんですかねぇ……とにかく、間に合ってよかったです』

「そうですね。それでは、これより年末最後の大一番がスタートいたします!」

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Buffalo 嬉野K @orange-peel

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