傷心バッファロー(月光カレンと聖マリオ21)

せとかぜ染鞠

傷心バッファロー

 怪盗月光カレンには3分以内になさねばならないことがあった。記憶障害のせいで自らを7歳児と思っている 三條さんじょう公瞠こうどう 巡査をテーマパークのダンスアトラクションへ送りだしてから,保護者参加タイムが開始されるまでの3分以内に養女の様子をノゾキミしてくることだ。

 全てを終えて傷心を抱えたまま保護者たちに紛れた途端,7歳児青年が手を振りながら走ってくる。

「踊ろぉ踊ろっ,一緒に踊ろう!」

 いえぇえいっ自棄糞だ!――俺さまはアニソンにあわせて踊りくるう。

 キヨラコときたら何で奴に気を許す!? 俺を始末しようと画策し,その過程で大勢の人間を死に追いやった張本人じゃないか! 金はもっているだろう。ルックスも垢抜けている。背格好も肉づきのよい黒豹が岩山から傾き加減に獲物を睥睨しているみたいな印象がある。……何だ短所はないのか。いやいや悪い部分ばかりだろうが。第一外観なら三條だって負けてはいない。身長は勝っているし,一見瘦せぎすだが,脱いだら凄い。そうだ,俺は三條にキヨラコを任せるつもりだったのに……

 三條は逆だち状態になり,叔母だと信じこんでいる修道女姿の俺の周囲をヘッドスピンしている。

 気づけば踊っているのは2人だけだ。ほかのキッズも保護者たちも俺たちをとりかこみ観衆と化している。

「素晴らしい,シスターとBボーイとのアーティスティックブレイキンだ!」司会の声優が歓喜した。

「あの人,月光カレンじゃない?」誰かの囁きを耳にする。

「もう行きましょう」三條に帰宅を促す。

 むずかる三條の手を摑んで駆けだしたとき,全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが目に飛びこんだ! 真っ青な空を背景に負い,ジェットコースターの高架レールが無茶苦茶に波打ちつつ車台と絡みあって落下する。漏電を起こした観覧車のゴンドラが発火するなり次々と炎上しては爆散した。

 よせ!と俺は叫んだ。しかし三條は襲いくるバッファローの群れにむかって驀進していった……

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