第十話 生存戦略(せーぞんせんりゃくー!)
生きていくための戦略目標は「無事に辺境伯の城にたどり着くこと」だ。
二歳になるまでは命の危険はほとんどないはず。現公爵が厄介者と判断したとはいえオレが二歳になるまでは滞在を許したことが根拠だ。恐らく「城内での血縁者の死亡は外聞が悪い」とでも考えているのだろう。
オレが二歳になるのを待って放逐されるのは「縁を切って城を出てしまえば関係ない」とでも考えているためだ。辺境伯領へ決して短くない旅に最低限耐えられる程度の年齢を待つというのもあるだろう。城の外へ出てさえしまえば「魔物か盗賊に襲われて命を落とした」などの言い訳も立つ。
逆に言えば、城から一歩でも出れば周囲は恐らく敵だらけとなるだろう。
護衛がいる。それもそれなりに手練れの護衛が必要だ。
護衛の候補として考えられるのは二つ。ひとつは辺境伯自身の私兵もしくは領兵、もうひとつは金で雇う傭兵もしくは冒険者だ。冒険者がこの世界に存在するかは不明だけれども、傭兵は存在するだろう。傭兵団丸ごと一つ雇うことが出来ればなお良い。
ただ、後者の場合いくつかの問題がある。金と実力と信頼性だ。
傭兵を雇ったとて、裏切られる可能性があるのだ。ある程度の金額と裏切り対策を考えなくてはならない。
裏切りに対する対策としては「成功報酬のつり上げ」と「恐怖による束縛」の二つ構えで行こうと考えた。
成功報酬については「自分たちが無事に辺境伯領城へ入場できたあかつきにはいくら払う」というもの、恐怖による束縛は「裏切ったら問答無用で殺す」ってところだな。
正直殺人がどうこうなんて言っていられないと考えている。殺伐としていると言われればそれまでなのだが、そもそも戦略目標を達成できなければ死ぬのはこちらなのだ。
それにロキから「世界をひっかきまわしてほしい」と言われているからだ。世界をひっかきまわすという事はつまり世界を混沌に陥れるとほぼ同意だと考えている。変革には破壊と再生は不可欠であり、その過程で幾人もの人が死ぬことだってあるだろう。
ロキの依頼を受けた時点でその可能性は十二分に考えていた。
(という事でライラ、まずは辺境伯へ手紙を書きましょう)
「辺境伯様でしたら年に二度ほど登城されます。そろそろお越しになるかと」
(そうなの?)
「はい。辺境の状況について国王に直接報告する義務がございますから、半年に一度いらっしゃいます」
ここ最近定期的に行われている夜中の作戦会議。気持ちよさそうに寝息を立てる母の傍らでオレとライラは話をつづける。
ついでに言うなら念話スキルにも習熟し、お嬢様言葉にも大分慣れてきた。中身は元おっさんとは言え、ガワは恐らく可愛らしい(希望的観測)女の子なのだ。
「最後にいらっしゃったのはアンネリーゼ様が臨月になる前でしたから。そろそろ先ぶれのお手紙が届いてもおかしくない時期でございます」
(手紙のやり取りがあるの!?)
「はい。頻繁には行えませんがふた月に一度程度の頻度でやり取りされていますよ。アンネリーゼ様がお手紙を書かれるのも、マーガレット様がお休みになっている時がほとんどでしたから」
(うおおおおおぉぉぉぉ!!やったー!!!)
「マ、マーガレット様!?」
(正直手紙のやり取りについては期待してませんでした!)
頭にはてなを浮かべたマーガレットに説明する。
手紙のやり取りについては禁止されているもしくは検閲されている可能性があった。それはつまり反乱や反逆が警戒されている可能性があったから。
(手紙のやり取りができるのであれば辺境伯と脱出計画について打ち合わせすることもできるのよ!辺境伯を味方につけましょう!)
「辺境伯って……マーガレット様にとってはおじい様ですよ?それと、念話とは言え大きな声を出すのははしたのうございます!」
(ご、ごめんなさいライラ)
「ですが確かに、辺境伯様のご協力があればマーガレット様も無事に辺境にたどり着けるかもしれません」
では、と咳払いするライラ。
「辺境伯様とアンネリーゼ様にマーガレット様が使徒様であらせられることをお話ししましょう」
(え!?い、言っちゃうの?)
「はい!事はアンネリーゼ様とマーガレット様のお命に係わる事でございます。きちんと事情をお話ししたうえで全面的な協力を頂きましょう!」
(そうね……確かにその通りだわ。でも、お母様に気持ち悪いとか言われないかしら……)
「ふふっ、大人びてはいらっしゃってもそういう所はお子様なのですね」
(うぅっ、ライラ、あなた逞しくなりすぎではなくて?)
「はいっ!マーガレット様に強かに生きろと命じられましたから!」
意味は間違ってないけど、都合よく曲解しすぎじゃない?
放逐TS転生元公爵令嬢のやりたい放題な日々 天露らいむ @amatsuyulime
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