試験終了まで残り三分。世紀の難問に挑んだ男のサーガ
無月兄
第1話
俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
高校入試、最後の試験。その試験時間も、残り三分となっている。なのに解答用紙には、まだひとつだけ空欄が残っていた。
たかが空欄ひとつと侮ってはいけない。非常に競争率の高いこの学校の入試では、たったひとつの正解が合否を左右することもあり、そうなると、その後の人生にも関わってくると言って過言じゃない。
猛勉強した甲斐あって、他の問題やこれまで受けてきた試験には、かなりの手応えを感じている。
だからこそ、万全を期すため、なんとしてもこの最後の一問を、三分以内に答えなければならない。
だが、できるのか?
こんなに悩んでいることからもわかる通り、この問題は相当難しい。この試験会場に集まった中でも、恐らく解けるのはほんのひと握りだろう。
それくらいの難問。それが、これだ。
【日本地図から、佐賀県の場所を塗りつぶしなさい】
こんな世紀の難問、どうやって解けばいいんだ!
だって佐賀だぞ! SAGA佐賀!
これが、東京や大阪、北海道の場所を答えろってのなら簡単だ。
けど、日本屈指のマイナー県、都道府県魅力度ランキングの下位常連の佐賀。
どこにあるかはもちろん、学がないやつだと、その存在すら知らないかもしれない。
この問題を考えたやつ、解かせる気ないだろ。
だが、嘆いていても始まらない。
俺の持ってる全ての佐賀知識を使って、なんとか場所を特定しなければ。
(SAGA佐賀……SAGA佐賀……そうだ!)
呪文のように頭の中で繰り返していくうちに、閃いた。
佐賀といえば、滋賀となんとなく響きが似ている。だが、両者には決定的な違いがある。
それは、琵琶湖があるかないかだ!
佐賀に琵琶湖はない。ってことはつまり、滋賀から琵琶湖を消すと、自然と佐賀になるってことはないか?
幸い、滋賀の位置ならわかってる。
地図にある滋賀の形をしっかりと目に焼き付け、そこから頭の中で、琵琶湖を削ぎ落とす。
(イメージ完了。こんな形の県が他にあったら、それが佐賀だ!)
だが、見つからない。何度地図を見ても、そんな形の県はどこにもなかった。
くそっ、ダメか!
何か別の方法を考えないと。
(SAGA佐賀……SAGA佐賀……そうだ!)
またも考え、閃く。
佐賀にはたしか、名護屋城という城があったはずだ。
何のために作られたか知らんが、その名前からして、愛知県にある名古屋城をリスペクトしているのは間違いない。
ということは、愛知県に隣接しているんじゃないだろうか。
そう思って、愛知県の周りを探す。
だが──
(ダメか! 愛知県に隣接しているのは、三重、岐阜、長野、静岡の四県。どれも、佐賀みたいなマイナーじゃない)
もはやこれまでか。
いや、諦めるにはまだ早い。俺の中のなけなしの佐賀知識よ、今こそ奮い立つ時だ!
たしか佐賀は、ゾンビランドなんて呼ばれていたはず。それに噂では、ワラスボなんてエイリアンもいるらしい。食べると意外と美味いらしいぞ。
さすがは佐賀。田舎どころか、きっと人智の及ばない魔境なんだろうな。
そんなのがいるくらいなんだから、きっと全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れくらい、普通にその辺を闊歩していることだろう。佐賀牛なんてブランド牛があるんだから、きっと間違いない。
待てよ、実はそれ、ヒントにならないか?
バッファローの群れなんているくらいだから、きっと土地はそれなりに大きいはず。
マイナー県で存在感がないから、きっと面積も豆つぶみたいに小さいんだろうなと思うやつもいるかもしれないが、そいつはとんだ引っかけだ。
危ない危ない。危うく騙されるところだった。
さて、試験の残り時間も少なくなってきたことだし、これまで佐賀についてわかったことをまとめよう。
琵琶湖はない。
名護屋城はある。
ゾンビランド。
ワラスボとかいうエイリアン。意外と美味い。
多分、バッファローの群れくらいならいる。
佐賀牛。文句なしにうまい。
多分広大な土地。
SAGA佐賀。
これから導き出される結論は…………わからん。
ダメだ。いくら考えても、佐賀の場所なんていう世紀の難問、解けるわけがない!
あぁ、もう時間がない。こうなったら…………
時は流れ、入学式。
俺は、入試の成績トップということで、新入生代表として挨拶をしていた。
まさか、適当に鉛筆を投げて、当たった所を塗りつぶしたら当たるとは思わなかった。
しかもあの問題、あまりに難問だから特別に1000点ももらえたんだよな。
おかげで俺は、入学後天才扱いされるのだが、それはまた別の話だ。
そうそう。あれから気になって佐賀のことを調べてみたんだが、その時代の研究に重要な功績を残した吉野ヶ里遺跡や、アジア最大級のスカイスポーツイベントであるバルーンフェスタ、遊具がボロボロなのを逆手にとってホラーテイストにしたテーマパークのメルヘン村など、意外と面白そうなのがたくさんあるんだ。
田舎だマイナーだと思っていたけど、実はすごいところなのかもしれない。
というわけで、俺はこれから、実際に佐賀に行ってみることにした。
場所はわかるのかって? もちろん。あれから猛勉強して、なんとか覚えたぞ。
ちなみに佐賀県の観光キャッチコピーは【佐賀を探そう】だそうだ。
これを読んでる君も、佐賀を探してみよう。
…………佐賀の人たち、ごめんなさい【作者】
試験終了まで残り三分。世紀の難問に挑んだ男のサーガ 無月兄 @tukuyomimutuki
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