第17話 礼節を重んじる②

 さて、前回の続きです。

 お弁当の食材を買い足すために、近所のスーパーへやってきた私たち親子。

 スーパーの出入り口で、大好きな『ご挨拶』ができたことで、とってもご満悦な息子ちゃんを連れて、いざ買い物スタートです!


 ブロッコリーにプチトマトに、……あ! ほうれん草も!


 私は、息子ちゃんが大好きな野菜を次々とカゴへ放り込んでいきます。

 鮮魚コーナーでは、息子ちゃんに『これもお弁当に入れて!』と手渡された『子持ちししゃも』を、にっこり笑って、無言でカゴに入れました。


 順調に買い物を進め、やってきたハム・ウインナーのコーナー。

 そこで、息子ちゃんの足が不意に止まりました。


「いらっしゃいませ〜、本日試食販売を行っておりま〜す。とっても美味しい〇〇ウインナー、いかがですか〜」


 息子ちゃんの視線を釘付けにしたモノ。それはウインナーの試食販売コーナーでした。

 ホットプレートの上でジュージューと音を立てるウインナー。美味しそうな匂いが、こちらにまで漂ってきています。


「ねぇ、ねぇ、あれって食べてもいいの? ボク、食べてみたい!」


 食の細い息子ちゃんが、珍しくそんなことを言い出しました。


 おぉぉぉぉ!? これは絶対に購入しなければ!! しかし、試食を貪り食べるような子になっては大変だ……最初が肝心! ここはきちんと躾けておかなければ!


 そう思った私は……


「息子ちゃん。試食はね、買う気がある人がするものなの。だから勝手に食べちゃいけないんだよ。分かった?」


 と、諭すように言い聞かせ、続けて……


「でも、今日はウインナー買おうと思ってたから貰ってきても良いよ。但し、一個だけね?」


 と、言ってあげました。

 パァっと嬉しそうな笑顔になった息子ちゃん。タタタッと試食販売員さんの元へ駆け寄ります。


「こんにちはッ! えっとぉ〜、えぇっと〜、おねえさん(どう見ても、私より年上)。これいっこ一個、もらってもいいですか?」


 息子ちゃんは、試食販売員さんに向かって綺麗なお辞儀を決めた後、おずおずといった感じにウインナーを指差しながら尋ねます。


 な!? なんて……なんて礼儀正しい試食なのぉ!!(親バカですが、何か?)


 この時、私は我が子の礼節ポテンシャルの高さに驚き、感動しましたが、試食販売員さんも同じことを思ったらしく……


「っまぁ〜! こんなにお利口な子、初めて見たわぁ〜! 黙って持っていく子が多いのに、きちんと聞いてくれるなんて!! ボク、賢いねぇ〜」


 そう言って一番大きなウインナーを渡してくれました。


 美味しそうにウインナーを食べる息子ちゃん。食べ終えると『ごちそーさまでした!』と、またしても行儀良く一礼。

 それがまた試食販売員さんの心を掴んだようで、原則、一人一回のはずの試食を、さらにもう一本貰えることに。


 『いいの? (ウインナー)くならない?』と試食品の心配をする息子ちゃん。

 またしても、息子ちゃんのその言葉に感動したらしい試食販売員さん。

 結果、息子ちゃんは何本もウインナーを試食させてもらえることに。


 試食販売員さんの『躾のなってない子なんて、ホットプレートの前に張り付いて全部食べちゃうのよ』とか『お母様の躾が素晴らしいのね』との言葉に気を良くした私は、2個パックのウインナーを二袋、買ってしまいましたとさ。


 (え? カモ? フフッ、大丈夫! 後悔は全くありません!)

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花京院のなんてことない日常。 花京院 依道 @F4811472

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