♰155 雲雀家の分家の従兄。
「他を当たってください。燃太くんも、思慮が欠けていますよ。舞蝶お嬢様に悪い執着を受けて被害を受けた話を聞いたというのに……月斗や七助しか見ていないなら無理もないでしょうが、危険を招く行為ですよ」
と、優先生が厳しい口調でお叱り。
「ごめんなさい……。でも、ノアの主探しの話を聞いたら、舞蝶以外に考えられないと思って……。忠誠を誓う相手で世界で一番相応しいのは、舞蝶だから」
「…………気持ちはわかりますが、おやめください」
シュンとしつつも、“忠誠誓う主イコール私”になってしまっている燃太くんは、そこは譲らないみたいに堂々と言い退ける。
ので、忠誠を誓う相手として認めた優先生が、揺らいだ。気持ちは理解すると譲歩。
しかし、紹介はだめと言っておく優先生だった。
やっぱり、燃太くんからの自発的な紹介だったか。せっかくの友だち紹介だ。私とまともに話さないで、おしまいもよくないだろう。
「燃太くん。友だち紹介として会うことは承諾したけれど、配下とかそんな志願者は受け付けてないから、その話はお断りするよ。常磐ノアさん? だっけ? 正直今話を聞いただけでも、私はあなたの忠誠なんて、ハッキリ言って、要らないと思ったわ。執着を抱きたいって、なんだか不純な動機にしか思えないもの。試しに忠誠を誓って、執着しなければ“違った”とか言って離れるような配下なんて、要らないし、無駄でしょ。正直、私……増谷と因縁があるから、似ている顔を見てると、ちょっとね……。それが私の本音だから、お断りするわ。あ、角が立つ言い方かな? まぁハッキリ言うべきでしょ」
「手厳しいですって……お嬢」
うん、手厳しいよね。燃太くんの新しい友だち相手によろしくない。でも、ハッキリ言うべきだ。事実だもん。
キッパリ拒絶された常磐少年は、ショックで固まっている様子だった。
同情の眼差しで、ポンッと肩を叩いてやる燃太くん。
それで我に返る常磐少年は、がばっと頭を下げた。「お頼み申します!!」と食い下がってきた。
「断る。燃太くん、乗って」
「あ、うん。ごめんね、ノア。でも、紹介はしたし。じゃ、また明日」
燃太くんもあっさりと常磐少年に別れを告げていつものように車に乗る。みんなが乗ったところで、常磐少年を置き去りにする形で発車。
「彼とはどうやって親しくなったの?」
「ん? まぁ、たまたま? 吸血鬼にしては珍しく敵意も嫌悪もないなって気付いて、話したんだ。そしたら、忠誠心の話で盛り上がって、ノアが主探ししているって聞いて、舞蝶を紹介しなくちゃって思い立ったんだ。なんか、ごめんね」
友だちになった経緯は、それなのか。
「別にいいんだけど……“吸血鬼にしては”って、どういう意味?」
「ああ、舞蝶、知らないんだ? 紅葉家みたいに人間なのに特殊能力持ちの一族って、吸血鬼に忌み嫌われているんだよ。特殊能力持ちじゃない吸血鬼には、特に。だから『紅明組』にはいないんだよ、吸血鬼」
「そうだったんだ」
知らなかったことに相槌を打って、吸血鬼の月斗を見てみた。
「あー。確かにいますね。日本には確か、水の特殊能力持ちの一族もいるんでしたっけ? あと念動力の特殊能力とか。人間なのに生意気だー、的な話を聞いたことありますよ。まぁ、能力なしの吸血鬼のやっかみなんですけどね」
コクコク、と月斗は、肯定。そういう吸血鬼もいるという話。
「紅葉家に並ぶ特殊能力の一族は、その二家になりますね。念動力の特殊能力の方は、今やコップを持ち上げる程度ですし、水の特殊能力の方も、今や発現者がいないそうです。紅葉家だけですよ、強い特殊能力を発揮出来ているのは」と、優先生も教えてくれた。
へぇ、二家あるんだ?
「何か能力持ちだったりするの?」
「ううん。ないって。だから珍しくてね。忠誠の話も楽しかったし」
「ご期待に沿えなくてごめんね」
「ううん。舞蝶が決めることだから、いいんだ」
「気まずくなったら、ごめんね?」
「いいよ。その程度だったってことで。仲良くなれればいいけど、思い通りにいかなかったからって嫌うようならあっちも悪いでしょ」
「それも、そうだね」
「スーパードライ……」と呟いた藤堂は額に手を当てて天井を仰いだ。
「まさかやってくるなんて……お嬢もしかして吸血鬼ホイホイ???」
スパコンと、優先生の平手打ちを、後頭部に受ける藤堂だった。
「吸血鬼ホイホイとは失礼な。忘年会では、誰も吸い寄せてないでしょ」
「今わかっている限りではね」
「いや不吉なこと言うね?」
「そうです、やめなさい、藤堂」
スパコン。
「いってぇな!? 頭叩きすぎだろ!!」
忘年会で知らず知らずのうちに吸い寄せるとか……なんなの? 本気で吸血鬼ホイホイと思ってる???
まぁ、どうせ、藤堂のいつもの悪いお口が回っているだけだろう。
「いい友だちとして付き合えるといいね」と言っておいた。
普段通りの放課後と夜を過ごしたけれど、翌日の放課後にも常磐少年がやってきては「配下の末席に加えてくだいませ! お願い申し上げます!」と頼み込んできたのだ。
燃太くんは、一応止めたらしく困り顔で肩を竦めた。
「お断りです」と、キッパリ。
「そこをなんとか! “はい違いました”と掌を返したりしません! 燃太が語ったあなたの輝きを見てみたいのです! 必ず執着しますのでお願い申し上げます、殿!」と、土下座。
「言ってること、おかしいからね。殿呼びやめて」
“執着します”っておかしいって。でも吸血鬼には普通か? よくわからないけど、とりあえず、殿呼びやめて。おかしいからね。
その日も、置き去り。
けれど、また翌日も、土下座して頼み込みに来た。
「もう執着症状が出てないなら、執着しないんじゃない? 諦めたら?」
「いえ、そこはもっと親しくなればいいかと。お互いを知りましょう、殿」
「だから、殿呼びやめんか」
承諾してないのに殿呼びするなって。表情筋死んだまま、何言っているんだが。
そのまた翌日も、土下座頼み込み。
燃太くんはスルーして「じゃあ、ノア。また明日」と手を振って車に乗り込んだ。順応早い。
そのまた翌日も、常磐少年の頼み込み。挨拶されたかのように流して、帰る。
翌朝。校門をくぐる前に、中学生くらいの少年を見付けた。
「あっ! やあ! 舞蝶ちゃん! 久しぶり!」と私を見るなり、手を上げて、挨拶してきた。久しぶりと言われても知らないんだけど。
「あ、ごめん。記憶喪失だったんだよね。大変だ……なんか会わなかった三年の間、大変だったみたいだね」と申し訳なさそうに眉を垂らす少年。
……いや、誰。裏の者らしいけれど……。
校門まで送ってきた藤堂を見上げると、知らないようで“さぁ?”と肩を竦めた。
「従兄弟だよ。雲雀家の分家の
分家の従兄。従兄弟か……今週、よく出てくるねぇ……。
「あー。松平って分家がいるって聞いたことはありますね。確か」と顎髭をさする藤堂。
「彼は『夜光雲組』の護衛?」と、松平友大と名乗る少年は、藤堂を見上げた。
「はい。『夜光雲組』の藤堂です」と肯定で頷く。
「どうも。初めまして。舞蝶お嬢の専属護衛の藤堂と申します」
キラッと笑顔で自己紹介。専属護衛って強調したね。アハハ。
配下云々の話、まだ根に持っているのかな。
「分家の子どもってことは、後継者候補ですかい?」
藤堂が尋ねるから、そうなのかな、と顔を向けた。
『夜光雲組』の組長の後継者候補?
血縁者が優先されるから、分家の中で候補が上がるのは当然か。
「いえいえ。自分は違いますよ」と両手の掌を見せて、ひらひらと振って否定する彼。
「会ったのも何回かだけだったけれど、出来れば詳しい話を聞きたいんだ。母の用事で今こっちに来ているだけで、僕は暇しているから。いいかな? 舞蝶ちゃん」
ニコッと笑いかけられても…………普通に付き合う理由ないんだよなぁ……。
そこで学校の予鈴が鳴った。
「あ、じゃあ、放課後ぐらいにまた来るね!」と、無理矢理約束をして、去ってしまう従兄。
藤堂と顔を合わせて困り顔をするが、予鈴も鳴ったので、私は校舎に向かった。
〔なんで三年会ってなかったんでしょうかね?〕
影の中の月斗が疑問を口にする。確かに。
〔あ。普通にあの側付きが仕組んでいたんでしょうか?〕
……あり得るね。
〔じゃあ、味方なんじゃないですか? 実は仲良かったのかも〕
【とても興味ない】と、メッセージを送っておく。
〔”とても”ですか! アハハッ〕
うん、とてもね。
※※※※※※
またしばらく書き溜めるまでお休みします!
また来年かと!
気付いたら組長の娘に異世界転生していた冷遇お嬢。 三月べに @benihane3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。気付いたら組長の娘に異世界転生していた冷遇お嬢。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます