♰154 燃太の新しい友人は吸血鬼。



 新学期、二週目。燃太くんから授業中に、メッセージが届いていた。


【紹介したい友だちが出来たから、放課後、連れてってもいい?】


 ……燃太くんに友だちが出来た……のか?


 中学の特別クラスで、一人だけ小学生の年齢でも、特に風当たりが悪いわけではないらしい燃太くん。


 でも、元々積極的に友だちを作る気がない子なのに……。何がきっかけか。そもそも、どういう子を連れてくるんだろうか。断るのもなんだし、承諾しておいた。どうやって仲良くなったか、気になるしね。


 そういうことで、放課後は、時間潰しのために、駐車場の車の中で待った。放課後の時間は大抵合わないので、ほとんど私達が燃太くんを待っている形だ。


「燃太坊が、お友だち紹介なんて……想像つきませんね? ……カノジョだったりして」

「藤堂の想像力って、そんなものだよね」

「なんで憐みの微笑みでディスるんです???」


 事実を言ったまでだよ? 藤堂。


「紹介するということは、少なくとも、裏の者でしょうね。紹介しろとせっつくような面倒な相手を、燃太くんが友だちと呼ぶわけがありませんから……燃太くんが自発的に紹介すると言い出したはず。そんな相手はどんな子か……想像は出来ませんね」と、お迎えに来た優先生も顎に手をやって言う。興味津々である。


「お嬢のお友だちにもなったりしますかね」


 ルンルンな月斗。


「どうだろうね」と、私は首を傾げた。


 そうして燃太くんから向かうという連絡をもらって、車の外に立って待っていれば。

 燃太くんと、竹刀袋を手に持つ少年がやってきた。


「あれ……? お前さん……まさか、増谷の親戚か何かか?」と、藤堂が怪訝な顔をして、首を捻る。


 私もそう思った。

 小さな丸眼鏡をかけた顔立ちや雰囲気まで、私が三歳の時に護衛をしていたらしい増谷に似ている。ニコリともしない表情筋が死んだような顔だ。真顔。


「はい。遠縁の従兄に、増谷という顔立ちが似ていて、『夜光雲組』の組員がいます。尤も、3年前から、拙者とは疎遠ですが」

「「「「“拙者”」」」」


 増谷の従兄弟ということよりも、一人称が拙者なことにビックリだわ。増谷にお堅い感あったから、昔気質むかしかたぎな血統なのだろう。


「それって、増谷が地方に飛ばされたから?」

「それもありますが……」


 藤堂を見たあと、少年は私に目を向けた。

 その目を見て、気付く。この子……まさか。


「組長のご令嬢を庇って、吸血鬼に殺されかけたせいで距離を置かれました」

「なんで? ……ハッ! まさか!?」


 遅れて藤堂も、その理由に気付く。


「拙者は、外国人の母親が吸血鬼です。よって吸血鬼である拙者を、嫌いになってしまったのです。拙者の名は、常磐ときわノアと申します」


 眼鏡を外して、瞳の中のひし形がよく見えるようにすると、ペコリ。頭を深々と下げた。


 まさか。吸血鬼に殺されかけた増谷の親戚に、吸血鬼がいたとは……。

 まぁ、死にかけたなら、身内と言え、避けたがるのも仕方ないのかも。


「燃太くんの友だちの雲雀舞蝶です。それで、どうしてしょ、ん?!」


 なんで訳ありな吸血鬼くんが、わざわざ紹介で会いに来たのか。それを尋ねようとしたら、背にした車のドアが開けられて、月斗に抱き締められ、引き摺り込まれた。

 そのまま、バン、とドアは閉められた。


 んー!? 何事だ!?


「よし! 燃太坊のお友だち紹介は終了! 帰りましょうか! 燃太坊はどうする!? 家寄るか!? その友だちと帰るか!?」


 と、窓を遮るみたいに立ちはだかる藤堂。必死な様子。動揺も感じ取れた。


「いや、まだ話してない……」

「話? なんだよ? 増谷と疎遠になったことをお嬢のせいだとか言ったら、タダじゃおかねーぞ!」

「そんな話じゃない」


 燃太くんに吠えてどうするの。燃太くんが困ってるじゃない。窓ガラスを開けて、そこから藤堂の後頭部に、チョップしてやった。


「いて! お嬢はちょっと隠れて!」

「いやなんで???」


 なんで隠れる必要があるのやら。


「その従兄のことを、拙者は慕っていました。彼を目標にして剣術の腕を磨く日々でしたが……自分を殺しかけた吸血鬼と同族だからと嫌がられて、疎遠となり……」


 目を伏せた常磐ノア。


「まぁいいかと思いました」


 ケロッと言い退けたので、ガクリ、とずっこけそうになる藤堂だった。正直、私もだ。


「吸血鬼らしいですね」と優先生。


 執着心がなければ、あっさり諦めるし手放すのが、吸血鬼。


「はい、その通りです。ですが、客観的に見て、悲しくもありました。このままではいけないと思い、拙者は執着するほどに忠誠を誓いたい存在を探していたのです!」


 握り拳を見せる常磐少年。それで燃太くんが紹介したと言うことは……。


 ん? 月斗が、息を詰めた?


 藤堂も優先生も庇うみたいに身構えて後退り?



「我が殿になっていただきたい! 雲雀舞蝶様! 拙者を配下の末席に加えてください!」


「「“殿”なの!?」」



 藤堂と一緒にツッコミを上げた。


 びっくらこいた! 一人称、”拙者”に続いて、”殿”って……! 侍か! 


「時代錯誤もほどがあるだろ……真面目さが変な方向に行き過ぎてやがる」と、ガシガシと頭を掻く藤堂は続けた。


「却下だ!! 舞蝶お嬢の配下志願者は募集してねぇ!」


 毅然とした態度で言い退けるところ悪いが。


「なんで藤堂が断るの? 何様?」

「舞蝶お嬢の護衛様ですが!? お断りするんで、俺が配下か否かの冗談も、だめですからね!」

「え? 冗談じゃなく、事実だよ?」

「だめってば! いい加減仲間と認めないとガチ泣きしますよ!?」

「なんでここでガチギレなの?」


 目を吊り上げてまで興奮する意味のわからない藤堂の情緒、大丈夫だろうか。



 

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