リンゴの唄

猿川西瓜

お題「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ」

 昨日、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが西成に現れ、西成の野犬の群れとバッファローの殺し合いが始まった。


 バッファローの角に野犬は肉塊となり、野犬の歯にバッファローの首から血しぶきが飛び散る。人々は西成警察署に避難するしかなかった。

 要塞として作られている西成警察署だが、バッファローの突撃に、門はへし曲がり、準備された鉄格子、鉄条網、電気柵、強力な放水装置などもあったが、どれもバッファローの力には勝てず、ぶっ壊された。

 多勢に無勢とはこのことだった。


 最上階にある、金でできたギリシャ彫刻やふかふかの絨毯の敷かれた署長室で、警察署長は葉巻をくゆらせながら、一言、ため息まじりに言った。

「それにしてもあいつら、うまそうやな。あんなん、結構ええ値段で売れるで」

「ほんまっすわい」

 そう返事したのはおじいさんだった。

 車椅子に乗った目がパッキパキになっているおじいさん。署長の幼馴染みでもあった。

「ほんま、うまいっすで、あれ。あれあれあれ、うまいっすでー」と歯をガチガチさせながら言った。

 署長は「あれだけのバッファローだ。わしらの野犬たちも苦戦している。これでは、冬を越せない」と心配そうにおじいさんを見つめた。

「はっはっは。バッファローの皮を剥いだらええ。それを着て寝るわ」

 おじいさんは、車椅子のタイヤをキュッキュと音を鳴らして、階下に降りようとし始めた。


 おじいさんの車椅子は移動し始めると、タイヤと連動し「赤い~リンゴに、唇よせて~」という音楽が車椅子の小さなスピーカーから流れ始めるようになっていた。

 この「リンゴの唄」が聞こえると、必ずどこかの居酒屋のドアがぶっ壊れるのだった。

 車椅子のまま、ドアも開けずに飲み屋に車椅子ごと突っ込んでいくので、ドアがへし曲がってぶっ壊れるのだ。

 店主は「帰れ! ……帰って帰って!」とおじいさんに冷たく対応する。

 誰もが西成で一日二回ほど目撃したことがあるという有名なおじいさんだ。


「おじいさん、どこへ……」

 署長は言った。

「なあに、バッファロー退治じゃよ」

 やはりというか、予想通りエレベーターのドアに突撃してぶっ壊しながら、エレベーター内におじいさんは乗り込んでいった。バッファローが走り回る一階へと落ちていく。

 「リンゴは何にもいわないけれどリンゴの気持ちはよくわかる」というフレーズが、野犬の吠え声に混ざって遠く聞こえてきた。


……。


 半年間におよぶ戦いの末、おじいさんと野犬の連携によって、バッファローはなんとか撃退できた。


 もちろん西成のみならず、大阪中がバッファローにより破壊尽くされていた。

 この悲劇を機会に、過去百回最下位に甘んじていた阪神タイガースは復興のため猛練習したという。

 それが、オリックスバッファローズを破り昨年優勝した、誰もが知るバッファロー退治の感動ストーリーである。

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リンゴの唄 猿川西瓜 @cube3d

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