第2話 入学式

母と通学路を走っていると、同じ新入生らしき男の子...いや、体は小さくておよそ中学一年生には見えなかったが服装的に同じ新入生の子を追い抜かした。そのずーーーっと前を1人の女の人が走っていた。誰だろう、と思ったがそんなことを考えている時間はない。急いで走ると、入学式開始まで後10分の余裕を持って学校に到着した。安心したら、急に催したくなってきたので俺はトイレに駆け込んだ。外ではわいわい生徒が話している声が聞こえた。もっとも、ここは男子校だから女の声がしたらおかしいのだが。それにしてもみんな、一人称が「俺」なんだな...小学校の頃はみんな「僕」だったのに。時代遅れにならないように、次から自分のことは「俺」と呼ばないとな...なんて考えて独り言をつぶやいていたら、となりの個室から妙な音が聞こえてきた。「...ぇ“ッ...ぅ”ぁ“..グスッ」苦しそうな嗚咽が聞こえてくる。久しぶりの学校で、空耳だと思いたかったが、その声は止むことなく聞こえてきた。「ん”..う“っ...ハァハァ..」流石に入学式に体調不良なんてことがあるのか...!?でもこんなに体調が悪そうな人を放っておくわけにはいかない。俺はトイレに誰もいないことを確認してその声が聞こえる個室に入った。「おい、大丈夫か?」小声で聞くと、その子は振り返って首を横に振った。その時、俺はその男の正体を突き止めた。「あれ、君さっきの...」俺と母さんが追い抜かした背が低い男の子だった。「時間ないけど、どうしたの?」俺が聞くと、その子は涙目になった垂れ目で俺の方を真っ直ぐ見つめて、「こわい...」と言った。「こわい?な、なにが...」『お前が』なんて答えられたらどうしようなんて考えながら答えをまった。「...人が多くて..」この子はどうやら、人が多いところが怖いらしい。俺がどうしようかなと迷っている時、その子は両手を広げて「ん、」と言ってきた。俺は思わず「え?」と聞き返すと、「ん!」と言って近づいてくる。つまり抱きしめて欲しいということか。頭では理解していながらも情報量が多すぎて体が追いつかない。とりあえず、「はい。」とだけ言って抱きしめた。相手の体は小さくて、同じ学年を相手にしているとは思えなかった。相手は小さく「もう大丈夫、ありがとう。」と笑って個室を出て行った。突然のことすぎて頭が追いつかないが、あの子は一体なんだったのだろう。そして、どれくらいの時間がたったのだろう。そんなことを考えながら俺は入学式が行われる講堂へと急いだ。

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僕らの青い桜 神楽らむ @KaguraLamu

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